寮生はプリンセスがお好き5章_8

こうしてまず1年生から順番にということで、最初に部屋につくと、ギルベルトはアーサーをベッドに降ろして部屋の鍵をしっかりとかけた。

そうしておいて、用意された水桶の水に浸して絞ったタオルをまずアーサーに渡した。
朝になれば使用人が風呂を用意してくれると言う事なので、とりあえず身体を拭くためである。

こうしてアーサーが身体を拭いている間に寝間着を出してやる。
ふんわりとした薄く長めの上着に下は短めのパジャマ。
ギルべルト自身は万が一の緊急事態に対応できるようにスウェットの上下を着て、ナイフその他を仕込んである上着はベッド横の椅子に置いておく。

まあ今回は学校からイベントとして認定はされているものの、用意したのはカインで、会場もカイン個人の家の持ち物だからそこまでの危険はないとは思うが、念のためだ。


ベッドは広めのツイン。
だが何かあった時のためにと片方で一緒に寝る事にする。

いつものようにアーサーを抱え込むように2人で並んで横たわるが、古びてどこか薄気味の悪い部屋や窓を叩く風の音、そして3年生組に散々聞かされた幽霊の話のせいで眠れないらしい。

「…お姫さん、眠れないのか?」
と、腕の中でもぞもぞとしているアーサーに声をかければ、半分涙でうるんだ大きな瞳がギルベルトの視線を捉えた。

「…幽霊の話…本当なのかな?
…なんかすごく…嫌な感じがする…」
と震える肩をぽんぽんと叩いてなだめてやる。

それに堰を切ったように泣き始める姿はまだ子どもらしくいとけない。

(あーあ、先輩達も脅し過ぎだろうよ…)

と思うモノの、だからと言って幽霊なんてカインの脅しだと言ったところで恐ろしいと思ってしまった気持ちは早々紛れないだろう。

(どうするかなぁ…)
くしゃりと自分の前髪を掴んで考え込むギルベルト。

「あーそういえばさ…」
と、やっぱり笑いの方向に持って行くのが一番だろうと思って口を開いた。

「幽霊って色っぽい事苦手だとか言うよな」
そう言って笑いかけると、ぽかんと見あげてくる大きな瞳。

それに
「ワイ談でもしてみるか?」
と冗談交じりに言った瞬間、伸びて来た白い手はギルベルトの首に回されて、顔が引き寄せられたかと思うと、ふにゅりと柔らかいモノが唇に触れた。


(…え??)
と、さすがに驚くギルベルトに、アーサーは至極真剣な顔で言う。

「…こうしてれば…幽霊来ないかな?」
と、それに答える間もなく、再び押し付けられる柔らかい唇。

同性のそれとは思えないくらい小さくて柔らかくて、身体の熱があがった。

ギルベルトは高校1年生の男にしては非常に理性的な人間だ。
しかしそれでも若い男なわけである。
大切に大切にしている可愛いプリンセスがいきなり口づけて来たのだ。

そう、いきなり。
心の準備をする暇もなく。

思わずかすかに開いた唇の間から舌を差し込んで思う存分口内を貪る。
いつのまにか覆いかぶさるように…

可愛い…可愛い…可愛い…
脳内を占めるのはそんな感情だけ。

とん、とん、とん、と小さな手が胸元を叩くのに、その手首を掴んでベッドに押しつけて…その瞬間にハッとした。

「わ、わりっ!!」
と慌てて掴んだ手首を開放して飛び起きると、ギルベルトの大事なプリンセスは、はふ…と、息を吐き出して、

「…大丈夫…ちょっと…息が苦しかったんだ」
と、少し焦点のあわなくなりかけた目で、それでも視線を合わせて来た。

可愛い。
というか…全く警戒されていないのはどうなんだろうか…
護衛としては信頼されているということなのだろうが……


はぁ~…とギルベルトは自分も落ちつこうと大きく息を吐きだした。




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