寮生はプリンセスがお好き5章_4

機内にて

「今回は学校側に単なる交流イベントとして登録してあるから、一応3日間逃げださなきゃポイントつく系だから」

飛行機が離陸して1時間ほどたった頃、カインがにこやかにそう宣言すると、まず嫌な顔をしたのは金狼寮の香だ。

「それって…逃げだしたくなる何かをされる的な?」

例えばそれが待遇の面だとか物理的な暴力とかなら正直プリンセスが思い切り戦力の自寮ほど強いところはないと自負している。

が、問題はホラー的な何かの場合だ。


金狼寮の副寮長アルフレッドはどうやらホラーが苦手ならしい。

なら来なければ良い…と香は思う。

ぶっちゃけこのプリンセスで寮ポイントを稼ぐなんて事はとっくのとうに諦めているので、ポイント自体はどうでも良いのだ。

そうは言っても来てしまえばどうやっても巻き込まれるので、

『今回はもうそれで寮としてのポイントが下がろうと知ったこっちゃないし、不参加決めよう的な?』
と、この話が舞い込んできた時に香はそう勧めたのだが、アルフレッドは断固として参加を主張した。

いわく…
『ヒーローとして、そんな恐ろしげな古城にヒロイン1人で行かせられると思うかい?』

『………』

ああ、もう本当に『………』である。

自称ヒーローのこの坊やにはヒロインと決めたプリンセスがいる。
銀狼寮のプリンセス。

自分も本来それに並ぶ位置にいるはず…という自覚はなさそうなのは、まあ仕方ないと香は思う。
というか、並ぶとか言ったら先輩諸兄すら恐れる銀狼寮の寮長、またの名を鬼軍曹に鞭打ち100回の刑にでも処されそうだ。

確かに自寮の下手をすれば寮長である自分よりも恰幅の良いプリンセス…というのがなかなか辛い副寮長の坊やと違い、銀狼寮のプリンセスは小さく華奢で愛らしい。

つい半年ちょっと前までは小学生をやってました…というのもうなづけるような…むしろまだ小学生ですと言われても納得のいとけなさ。

少女のように長いまつげに夢見るように潤んだような丸く大きな淡い淡いグリーンアイ。
その上の少々立派すぎるまゆげがなければ、本当にアンティークドールのような美少女と言っても差し支えない。

というか…自寮の坊やは何故かこのプリンセスを本当の少女だと思っているふしがある。

そして…その可憐な少女であるところのヒロインをヒーローの自分が守ると言う事が彼の学園生活における最優先事項と言わんばかりなのだ。

しかし香は坊やにまず言っておきたい。
この学園は男子校だ!と。

つまりは男しか入学ができない。
だからいくら愛らしくとも彼は少年だ。少女ではない。

更に言うなら…よしんば少女だったとしても、もしくはヒロインが少年でも構わないと開き直ってみたとしても、彼にはちゃんとナイトがついている。
それも学園最強のナイトだ。

そんな思いを込めて
「別にあんたが行かなくても平気じゃね?」
と思わず本音を漏らしても、

「ヒーローはピンチにも立ち向かうものなんだぞっ!」
と、よくわけのわからない方向性の返事を返された。

香自身は代々王のSPを務めている家系の人間で、幼い頃から鍛えている。
自分で言うのもなんだが、学園のお坊ちゃん達の護身術と一緒にしてもらっては困るレベルで強いと思う。

だが…確かに一般家庭に育ったはずのこの坊やの馬鹿力と来たら、下手をすれば香の十数年間の鍛練の結果すら凌駕してしまう。

何が言いたいかと言うと…だ、彼が本当にそうと決めたら、香には力で止めるということは難しい。
絶対的に無理とは言わないが、その場合は加減が出来ないため大怪我を負わせる可能性がある。
もちろん立場的に王の養い子相手にそんな事ができるわけはない。

……ということで仕方なく来たわけなのだが、案の定、呻き声の音声をこっそり流されただけで、怯えて絞殺しそうな勢いで香に抱きついてくるのだ。

これ…3日間1人でお守りしろって?
と、思うとめまいがする。
正直幽霊より怖い。

「あの…ポイント要らないし、俺ら脅す側に混ぜてもらっちゃダメ的な?」
とダメもとで問えば、3年組からは

「別に俺ら脅したりしないぜ?
今回はただの古城に泊まって交流を深めようイベントだからな」
とにこやかに返されて絶望する。

(あんたら脅す気満々じゃん)

という言葉を飲みこんで、香はため息をついた。




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