寮生はプリンセスがお好き5章_3

タイガー達のミステリーツアーと称された金銀両虎寮寮長主催のイベントは、出資者が政界の大物ぞろいの一族である金虎寮長のカインだけあって、迎えの飛行機からして凝っていた。

外側はさすがに普通だが、タラップは表面は古木で、足を進めるたび揺れながらギシギシと鳴る。

もちろんちゃんとそうなるように計算をされて作られているだけで、実際には古いとか脆いとかではないのだが、なかなかに怖い。

主催の3年生の寮長組はちゃっかり自寮のプリンセスは自寮に置いて来ているが、強制参加の12年の寮長はプリンセス同伴だ。

ということで、プリンセスが小柄な12年の銀寮組の寮長達はプリンセスを横抱きに抱きあげて階段を登り、2年で不安定な足場を抱えあげてのぼるには少し不安な金竜はしっかりとプリンセスの手を取った上で落ちたらまず自分が下敷きになるようにと若干先にのぼらせ…最後に1年の金狼寮は………

これ、すごいんだぞっ!ジャンプすると揺れるんだぞっ!

とはしゃぐ大柄なプリンセスが万が一にでもタラップをブチ壊す前に…と、寮長の香はプリンセスを放置で自分だけちゃっちゃとタラップを駈けあがった。


こうして入った機内。
こちらも雰囲気たっぷりに薄暗い。
さすがに機内だけあって実際は電気だが、炎を模した蝋燭の灯りが室内を照らしている。

黒地に金模様の床。
窓は艶やかな地の紅と黒のカーテンで覆われていて、2人掛けの座席は赤いベルベットの布張り。

たまにどこからが、ヴォ~だのゴォ~だのという呻き声のようなものが聞こえるたび、怯えるプリンセス達。

「な、なんだか変な声が聞こえるよぉ~~」
とぎゅうっと隣に座るルークに抱きつくフェリを

「だ…大丈夫っ!何かあっても俺が守るからっ」
と抱きしめながらも若干視線が泳いでいるのは、おそらく彼自身もその手のものが苦手なせいらしい銀竜寮組。


一方で金竜寮のプリンセスは冷静で
「…凝った演出だね」
と、出された紅茶を一口。
ふぅ~っと美味そうに息を吐き出す。

その横では同じく現実主義者ならしい寮長ロディが少し眉尻をさげて
「まあそうなんだけどな。
少しは銀を見習って可愛く怖がってみようか」
と苦笑する。


銀狼寮はゆったりと自分の腕の中にプリンセスを抱え込んで、頭を撫でたり髪をいじるフリをしながらさりげなくアーサーの耳を塞ぐギルベルト。

「俺様のお姫さんは世界一可愛いからな。
お化けにさらわれちまわないように、俺様がこうして抱え込んでおくな?
怖くなったら俺様に抱きついてて良いからな」

と、ニコニコ言いながら頭に髪に耳に口づけるギルベルトに気を取られすぎてただただ真っ赤になって俯くプリンセス。
羞恥で他の情報が入って来ないようである。


(…軍曹…あんなキャラだったか?)
(…ん~~あれじゃね?ああやって羞恥心煽ることで怖さを感じさせないようにしてるんじゃね?)
(なるほど…。賢いな)

(それに…)
(それに?)
(他寮ながら、銀狼のお姫ちゃん可愛いしな)
(あー確かに。ちっちゃくって眼なんか零れ落ちそうにでかくて、女の中に紛れても群を抜いた美少女に見えるわ)

(羞恥で涙目になってぷるぷる震えてんの可愛くね?)
(それ…軍曹に聞こえないようにしろよ?肝試しのつもりが自分の方が幽霊にされちまう)
(うあ~、それ笑えねえ)

双方プリンセス不在のため、並んで座って語り合う3年寮長組。
そしてその視線は最後の一組に……

あ、ありえないんだぞっ!!なんだいっ?!この変な声はっ!!!

ぎゃああ~~!!!ヘルプっ!ギブ、ギブッ!!!
あんた、俺を幽霊の一員にしたい的な野望抱いてたりする?!!!

意外にも…物理ではあんなにはりきる体格が若干良すぎる金狼寮のプリンセスは、霊関係には弱いらしい。
大声で叫ぶのは良いとしても、となりに座る若干小柄な自寮の寮長を抱きつぶしていた。

そして…しがみつくというよりひねりつぶすと言った方が正しいような感じで抱きつかれている寮長は、苦しさにうめきながらこちらも手を宙に伸ばしながら叫んでいる。


(これ…なんとかしないと、香が死ぬんじゃね?)
(確かに…ちょっと止めるわ)

と、カインはさすがに苦笑いを浮かべて、流している音声スイッチを切ると、その代わりにと音楽を流し始めた。


まあ…今回はいつものただの古城に泊まって怪談をして過ごす古城にお泊まりツアーではなく、一応学校が認めた寮長副寮長交流イベントということになっている。

場所はカインの一族所有の古城。
個人のイベントとして普通に招いても来てはくれないであろうギルベルトを引っ張り出して出し抜くためだけに、学校に交流会として申請したのだ。

内容は例によって肝試しにみせかけたビックリである。
もちろん3年生組が仕掛けるわけなのだが、ギルベルトを出し抜きたいため…などとわかれば反撃が怖い。

だから主催の3年組以外が全員仕掛けられる側に回ることにしたので、事情を知っている2年生組も内容は知らされていない。
ということで、3年側はとりあえず、脅しやすくなるように事前情報を流す事にする。


そして……

(…香…生きろよ?)
と、3年生2人組はさきほどの様子を見て一年の金狼寮の寮長に秘かに同情しながらも、しかけを始める事にした。






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