The escape from the crazy love_3_1

海辺の街

スペインの別荘は小さな海辺の街にあった。

海の他は何もない田舎の街外れ。
しかも泳ぐにはまだ肌寒い季節となれば、観光客もいない。

そんなトコロに何故わざわざ?と言えば、海を見に…と言ったところだろうか。

たまに無性にこの潮の香りが懐かしくなるのだ。
世界がまだ未知数で、船を漕ぎ出せば新しい世界がひらけていた頃…。
決して楽な時代ではなかったが夢だけは満ち溢れていたあの頃が、たまに無性に恋しくなる。
だからスペインは時代を感じさせないこの海辺の街へ、時折足を運ぶのだ。


ここには時代を感じさせるモノをなるべく持ち込まないようにしている。
だから子分ですら連れてこない。
あのちょこちょこと自分のあとを付いてきた小さな子どもはもういないのだから。

そんな所へ何故親しくもないイギリスを連れてきてしまったかというと、スペイン自身にもわからない。

拾ってしまった時点で行き先を変えるという選択をしなかったのは何故なのだろう…。

ああ、あの頃のスペインの日常には存在しなかった…時折戦場や公で会ったのと全く違う今の小さな子どものように怯えるイギリスは、まさに拾ってしまった小さな子どもに過ぎないからかもしれない。

昔々普通に暮らしていたところに拾ってしまった小さな子供…時代を感じさせるモノでないならば、別に日常が変化することへの不満はないのだ。


「ここにいる間は念のためずっと人名で呼んだってな。
気に入っとるから国やてバレたないし、ウッカリがあるとあかんから」
家についてすぐそう注意をすると、イギリスはコックリとうなづいた。

公の場だとそこにいつも一言つくイメージのあった皮肉の一つもなく、スペインの指示を待つように見つめてくる大きな目の子どものような童顔の彼は、思いのほか可愛らしく見えた。

「知っとるとは思うけど、俺の人名、アントーニョやから、トーニョでええわ。
自分はアーサーやんな」

ええ子やねと頭をなでながら更に確認のため口にすると、イギリスは口の中でモゴモゴと

「…とーにょ……わかった」
と、言って、少し照れたように俯いた。

うあぁ~かっわかわええ!!
スペインは子ども…とりわけ不器用で手のかかるタイプの子どもが好きだった。
そういう意味では今のイギリスは実に可愛らしく思える。

1人で暮らしている時に拾ってきた不器用な子ども…そう思えばなんだか良い感じだ。
楽しい休暇になりそうな気がした。





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