寮生はプリンセスがお好き2章_11

そして…2人きりの部屋。

「…さっきはごめん。あれ嘘だよ。その服すごく似合ってる。可愛い。
クマも可愛いね」

少し離れた椅子に並んで腰をかけてしばらく黙りこんでいたが、沈黙を破ったのはアルの方だ。

「…ありがとう。
この子はギルがまだ学校に慣れない上にいきなり副寮長になちゃった俺を元気づけるためにくれた子だから……。
俺の方こそ殴ってごめん…」

「いや…ぶたれて当然の事言ったししたから。
本当にごめんね?
これからは何かあったら俺の事も頼ってくれると嬉しいよ」

そう言いながら、アルは自分の手に視線を落として…そして赤くなった。


(触っちゃった…女の子の胸を思い切り触っちゃったんだぞ…。
どんな事情があって女の子が男子校に紛れこんでるのかわからないけど…秘密を知っちゃったからには、守ってあげないと……)

手にまだ感触が残っている気がする…。

さきほど触れた胸の感触は確かに本物だったし、男であんなに胸があるという事はありえないだろう。

そう考えて改めて見てみれば、彼女はどこをどう見ても自分と同じ性別じゃないと思う。
男はあんなに細い首や肩をしていないし、あんなに華奢な手足もしていないし、あんなに良い匂いもしない…。

そう…ついこの前まで小学生でたいていは外で男同士で遊んでいて、あまり女の子に縁がなかったアルフレッドは、ヌ―ブラの存在など全く知りはしなかった。

ゆえに当然そのリアルな感触と本物の胸の感触の違いなどわかるはずもなく、本物でないのは銀狼寮のプリンセスの胸ではなく性別の方だと思い込んだ。

そして…彼は腕白ではあったが同時に非常に素直に育ったフェミニストでもある。

女の子には優しく親切に…と、繰り返し聞かされて育った彼は、男相手だからと思ってした自分の発言や行動を猛烈に反省した。

しかも相手はただの女の子ではない。
事情はわからないが、女の子であるという性別を隠してこんな男だらけの男子校に在籍せざるを得なくなってしまって、心細い思いをしているであろう可哀想な女の子である。

しかも可愛い。
そう、この可愛いと言う事は大事だ。

不遇な立場の可愛いヒロインを守り救うのはヒーローとしては当たり前の事である。

…ということで、このか弱く愛らしい女の子をヒーローとしては守ってやらなければ…と、アルはこの時固く心に誓ってしまった。

その守ってやらなければ…か弱く可愛い…が、愛おしい好ましいに変わるまでにそう時間はかからず、女の子に縁がなかった彼はなかなかこじれた初恋を迎えることになる。


こうして一つ、伝説の悲喜劇が生まれたのであった。



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