プリンセスはヒーローになれるのか?
「OMG!!ダッド耀!!俺はこんなん聞いてないんだぞっ!!!」
アルフレッド・F・ジョーンズ。
両親亡きあと彼を引きとってくれた亡父の友人で現在の養父である中華系富豪、王耀の出身校、私立シャマシューク学園の中等部に今年入学したばかりの12歳だ。
両親が亡くなったのが4年前。
親戚と言える人間を見た事はなかったが、極々普通の家の人間だと思っていた両親が実はそうではなかったと知ったのは1人残されて途方にくれていたその時だった。
さあ施設にでも入れられるのかと思っていたアルの前に現れたのは、何度か自宅にも遊びに来ていた父の友人の1人。
年齢不詳の変なおじさんだと思っていたその人が、中華系の大財閥の総帥だということを初めて聞いた。
その変なおじさん、王耀は父の学生時代の友人で、父もなんと財閥の令息だったという。
だった…と過去形なのは、孤児院出身の母と運命的な恋に落ち、反対を押し切って駈け落ちをして、実家を勘当されたからだということだ。
そして、その父の実家はすでに父の妹一家が継いでいるらしい。
『行きてえなら実家に連れて行ってもいいあるが、あそこにいても居場所はねえあるよ。
そのくらいなら我のところでも他の奴らのところでも来た方がましあるね。
お前の行きたい所に行くといいある』
子どもを1人養うというのは大変なことではないのだろうか…とアルは思ったのだが、王だけではない。アルの家に遊びに来ていた父の学生時代の友人達は皆それなりの地位の人間だとのこと。
『大人になって仕事で出来た知り合いはお前の父が実家を離れたら即縁が切れたが我達は別に飲んで食べて遊ぶだけの仲間で、お前の父の仕事がどうであれ関係なかったあるよ』
との言葉通り、普通に酒を持ち寄って馬鹿騒ぎをしていたので全く知らなかった。
『ま、みんなお前の1人や2人どころか100人や200人くらい引きとっても全く困らない輩だから、お前の好きにすればいいある』
全く青天の霹靂。
ある意味恐ろしい話だ。
「…耀の所でもいいのかい?」
とりあえず今いない人間のところにと言うのも気が引ける。
なので目の前にいた王にそう聞くと
「かまわねえあるよ。
ただし我は忙しい人間だから一般家庭の親が子にするように構ってはやれねえあるよ。
まあ…衣食住は保証するし、必要な時はメールでも電話でも寄越せば話くらいはきいてやるある」
淡々と言う様子に返って安心した。
本人の言う通り、資産家の彼にとっては子どもの1人くらいいてもいなくてもたいして変わらないのだろう。
もちろん当たり前に恩義を感じないで良いわけではないが、自分が居ることで負担になるような状況じゃないだけ良い。
こうしてアルは王の元に引き取られることを選択。
本来の親族である叔母の一家には王がその旨を伝えて全ての手続きを滞りなく行ってくれた。
そして小学校を卒業するまでの4年間。
アルは王の本宅に住んでいた。
王は忙しくてそう話したりする時間は取れなかったが、時間があって一緒にいても態度は全く親らしくはなく、変なおじさんのままだった。
だが、親ではない変なおじさんとしてアルに色々な事を話してくれた。
特に王や友人達と父が一緒に過ごしたシャマシューク学園の話はアルのお気に入りだった。
カイザーと呼ばれる寮長の元、1年から3年まで、年齢によるハンデなど一切なく、寮対抗で色々な事を競い合うなど、楽しそうだと思う。
なかでも父が寮長をやっていて、2年の時に3年の寮を押しのけて最優秀寮に選ばれた時の話などは、本当にリアルの冒険譚のようでワクワクした。
「寮長は…高校生にならないとなれないんだよね?」
と、そんなある日、アルが王に聞くと、書類仕事をしながら相手をしていてくれた王は、ん~~…と、少し考えこむように天井に目を向けて、そして
「ま、寮長は高校1年からあるが、その代わり中1では1人副寮長が選ばれるあるよ。
ほら、この前のパーティで会ったバイルシュミットのとこの長男、あれはシャマシュークに通っていて副寮長やってるある」
と言うと、また書類へと視線を戻した。
「ギルベルトが?!本当かいっ?!」
その言葉にアルは目を輝かせた。
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