そして……
「何故あそこで出てきてしまったんですか。あれだけ綿密に計画を立てて、もう少しで計画完了でしたのに…エンリケ様、聞いてますか?」
こちらはギルベルト達と分かれてヘリで帰宅のエンリケと王。
でもなぁ…あのナプキン、取り上げられてしもうたの残念やわぁ…。
アーサーのアレ拭いた奴やで?お宝やで?
絶対にコレクションにいれたろ思うたのに…」
と、操縦しながら綺麗な眉を逆立てる王の隣でテーブルクロスにすりすりと顔をすりつけてうっとりするエンリケ。
「これだけでも手に入って良かったわぁ…。
アーサーが直に尻おろした逸品やでぇ」
というボスに、王は頭を抱える。
「そんなのっ!いつか本人が手に入ったらいくらでも直接触れてもらえばいいじゃないですかっ!それより…」
「いつかじゃあかんねんっ」
と、そう言った瞬間、テーブルクロスに夢中だったエンリケがいきなり視線を王に向けて言葉を遮った。
「今、今の16歳の時のアーサーが触れた事に意義があんねん。
もちろん17になっても18になっても20すぎてもアーサーは可愛えんやけどな。
その時々、その瞬間のモノを入手すんのが大事なんや。わかるか?」
「…わかりたくありません…」
綿密に計画を立てて私財を投じて企業まで買収し、自らも危険をおかして計画に加わった努力はなんだったのか…。
その数億の金が動いた計画がたった一枚の体液で汚れただけのナプキンで崩されるとか、本当にありえない。
これが彼らが育った日本という国のオタク気質というものなのだろうか…。
本人を手に入れるだけじゃダメなんだろうか…。
大財閥に生まれおちて早17年。
何もかもが思い通りになって面白みのない色のない生活が、ひどく何かに飢えた目をしたこの青年と出会ってから、極彩色の色鮮やかなものとなった。
叶い過ぎて望むという事を知らなかった王月龍は、この、叶わないのに叶える事を諦めない青年に夢中になり、その夢を一緒に追いたくなって、半年。
初めて一筋縄ではいかないものに出会って、人生が倍楽しくなった。
――まあ…叶わないからこそ、叶えるべく画策するのを楽しめるんですし、今回は良いとしますか…。
そうだ。青年が諦めない限り、楽しめる時間が増えたということではないか。
次…次はどうやって彼らをおびき出し、目的の少年を手に入れようか…
隣でとうとうテーブルクロスをスーハースーハーしだしたボスの事は見ないふりで、王は楽しげに次の計画を脳内で練り始めるのだった。
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