続恋人様は駆け込み寺【白雪姫の継母は毒林檎を差し出し赤の女王は首を刎ねろと叫ぶ】18

「…ほんま…親父に無理無理放り込まれた演奏会のはずが、すごい体験でしたわぁ…。
これはもう旅仲間達に自慢したらな」

こうして再度船上の人となった9人。

船には無線がついていて、操縦も連絡もマシューがしている間に一息ついたところで、黒井が相変わらずな様子で語り始める。

まあ、死人も出ずに助かったからこその言葉だ。
  
しかし、さらに、

「まったく…あんなんで全員無事っちゅうのがすごいことだと思いますね」
と、全員の顔を見回して、あ…と気づいて、少し気まずそうに声のトーンを落とした。

「まあ…色々暴いたらあかんもんが暴かれてもうた部分もありますけど……」

少し離れたところでは出航してしばらくして意識が戻った英一に、フランが英一が倒れてからの一連を説明している。

終始無言で…それを聞く英一に背をむけているくせに、英二もそこから離れない。
その場所だけ妙に空気が重い。


「…俺…警察行きかな」
全てを聞き終わった後、当然色々な画策がばれている事は予測がついているのであろう。
ハハっと力なく笑って英一がそう言うと、英二がクルっと振り返った。

「お前馬鹿かっ?!
王に毒入りのコーヒー飲まされてなんでてめえが警察行きなんだよっ!」

幼い頃に拗ねるとよくそうだったように唇を尖らせてそういう英二に、フランシスは、ああ、大丈夫なのかな、と、少し安堵する。

「でも…わかってるだろう?俺コーヒーに小麦粉混ぜた」
「自分で飲んだだけだろっ!
ああっ!変わった趣向だよなっ!お前の味覚大丈夫かよっ!!」
と、怒鳴りつけるように言う英二の目は潤んでいる。


「お前がいなくなったら、誰が俺の事起こして、誰が飯用意して、誰が苦手なインタビューとか代りに全部答えて、誰が寝れない時に子守唄弾くんだよっ!」

「…お前は世界の加瀬英二で…望めばいくらでもそんな相手くらい手にいれられるだろ?」
大声でまくしたてる英二に英一が苦笑する。

「ああっ?!俺は金で手に入る奴なんかに身の回りうろちょろされんのなんか嫌だからなっ!!
子守唄だってガキん頃、まだバイオリンもへったくそだった時から聞いてるあの音色じゃねえと嫌なんだよっ!!
お前は他の奴にでもそうしてやれるかもしれねえけどっ、俺は他じゃやだからなっ!!
英一に女が出来ようと、ガキが出来ようと、そのあたりは絶対譲れねえからっ!!」

ぎゅうっと子どものように抱きつく双子の弟に、英一は少しびっくり眼になった。

「離れていくのはお前のほうだろ?今度日本離れて一人でUSで活動するって…」
「へ?なにそれ?!俺聞いてねえっ!」
「え?」
「やだっ!!英一行かないなら俺行かねえぞ?!」
「ちょ、なんで当人聞いてないんだよ。
…まいったな……帰ったらマネージャーに確認する。」

単に…実は仲良しすぎる兄弟の痴話喧嘩のようなものだったのか……。

――うん…お兄さん邪魔だよね……。
と、そのあたりでフランシスはその場を離れた。



「結局…また同じような事があるかもしれませんねぇ…」

船を自動操縦にして船室に戻ってくると、マシューはギルベルトの差し出すコーヒーのカップを礼を言って受け取ると、隣の椅子に腰をかけた。

「エンリケを確保出来たところで、共犯者の身元もわかってたわけですし、もう少しなんとか出来なかったんでしょうか…」

遠くカップの湯気の向こうに映るアントーニョにちらりと視線を向けて言うマシューに、ギルベルトは苦笑する。

「やっぱり…身内に厳しい措置はとれませんか」

視線を外してカップの中身に向け、少しコーヒーをすするマシューに、ギルベルトは
「逆だよ」
と、答えた。

「あいつは血のつながりだけで動くような生易しい奴じゃねえ。
あそこにアーサーがいなかったら容赦なく全員に決断を迫ってたかもなぁ。
でもあの全員が精神的に追い詰められた状態で、アーサーだけを特別扱いしろって言っても納得させられねえだろうし、アーサーの手を汚させるわけにもいかねえだろ」

と、ここにいる誰よりもその人となりを良く知る幼馴染のギルベルトが言えば、なるほど、と、マシューも納得した。


「そういうこと…でしたか。それは失礼」
「そういうことだよ。
行動力と勘と運と…そしてすごいはっきりした優先順位による割り切り。
それがなきゃ、そもそも普通の高校生が全員で手を下せばお互い監視出来るとかそんな物騒な発想でやしねえって」

「あ~それは敵に回しちゃダメなタイプですねぇ。怖い怖い」
と、まったく怖くなさそうに言うマシューもいい加減怖いとギルベルトは思う。

「まあ…僕も暇じゃないんで、出来れば短期決戦で終わらせたかったんですけど、これは仕方ないですねぇ…。
当分日本暮らしですか」


と、言葉とは裏腹に少し嬉しそうな表情なのを指摘したら、俺様きっと明日がねえよな…と、せっかく助かった命は大事にしようと、空気を読んで黙っておくギルベルトだった。



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