続恋人様は駆け込み寺【白雪姫の継母は毒林檎を差し出し赤の女王は首を刎ねろと叫ぶ】17

「この人が黒幕ですかぁ。どないしはるん?」

怯えた水木に背中にしがみつかれた状態にも構わず、ズルズルとそのしがみついた水木を引きずりながらもダイニングに駆けつけた黒井は、まあ…帰れるなら俺はなんでもええんですけどね…と、他の考えをうかがうようにぐるりとまわりを見回した。

(…出来れば……もう近付いてこれないように拘束をしてもらえると……)

と、その背中でビクビクとつぶやく水木だが、ちらりとエンリケと視線があうと、ひぃっ…と身をすくめて黙り込んだ。



「俺は…別にそいつに興味はない。好きにすればいい」
と、英二は相変わらずムスっとしたまま吐き捨てるように言い、フランシスは

「う~ん…もう迷惑かけないって誓うなら、幸いにして死人も出なかったし、お兄さんも別にペナルティを与えようとは思わないんだけど…無理だよね?
やっぱりなんらかの監視体制の整ったところにいて欲しいかなぁ…」
と困った顔をギルベルトに向ける。

「その人今まだ18ですよね?日本だと確か一応少年法の適応範囲内ですね。
司法に預けてもどうなんでしょう?
もっと個人できちんと監視体制取れないんですか?アントーニョさん」
と、一番シビアな意見を述べるのはマシュー。

それまでふわふわとおだやかな様子だった彼のその言葉に、ギルベルト以外は驚いた眼を向けるが、もう一人、言われた当人であるアントーニョも驚く様子もなく――おそらく彼は自分の大事な人間に直接関わる以外の人間にそれほど興味もなく注意も向けていないからであろう――

「ん~、爺ちゃんは俺の事もそうやけど、身内には甘いねん。爺ちゃんにエンリケが外出れへんようにとか人雇って監視させろ言う事やったら、たぶん無理やわぁ」
と、肩をすくめた。

そのうえで

「どうしても言うんなら、それこそ俺ら以外に誰もおれへん孤島やしな。
非合法な事するためにこっそり来とるんやったらここで消えても誰も追及できひんし?
全員が共犯者になって消してまえば、それでしまいや。
狙うモンおれへんかったら、ゆっくり脱出手段探せるようになるわな。
でも逆に…ここの水や食料がなくならんうちに見つかる言う保証もない。
それやったら取引した方がええんちゃう?
こっちから一人人質出して、こっちはエンリケを人質に取る。
で、船まで案内させて人質交換してさよならや。
それやったら、そっち側かて、逃げる手段はいくつか用意しとるんやろうし、別々にこの島脱出してめでたしめでたしちゃうん?」

と、いきなりリビングとの境界のドアに固まる一同に視線を向けてにっこり笑った。

「「「えっ?!!!」」」
ぎょっとしてお互いバッと散って離れる面々。

元の場所にはただ驚いて目を丸くしている王が立っている。


「ちょ、おまっ…なんで気づいて??」
さすがに驚くギルベルト。

自分と同じような推理をアントーニョが出来るとは思ってなかった…ら、本当にしていなかったらしい。

「その眼鏡君だけ、なんや警戒はしとるけど、怯えてはおらんかったからな」
と、非常にファジーな返答を返してくる。


「黒井とかの方が能天気にしてなかったか?」
とさらに聞くギルベルトに、いきなり名指しされた黒井はぎょっとしたような焦った顔をするが、アントーニョは顔色一つ変えずに言った。

「そっちの兄ちゃんはなるべく物理的にやらなあかんことに集中することで、そういうわけわからん怖いモンは見ぃひんようにしてるように見えたわ。
実はお化けとか苦手やろ?」
と、にやりといたずらっぽい笑みを向けるアントーニョに、黒井は

「お見通しですか。あたりです。昔からあの得体知れへんもんは苦手なんですわぁ」
と、きまずそうに頭をかく。

運と勘だけで世の中を渡っていく男…ローマ財閥の総帥の血を誰よりも色濃く受け継いでいると言われる孫息子だけある。
そう言えば今の黒幕を確保出来た事態を引き起こしたのもこの男の気まぐれな行動だ。

「…なんというか…チートな勘の鋭さというか……。
こうやって…一代で莫大な財を築いていったんですねぇ…」
と、ずるりとずり落ちた眼鏡をなおしつつ、マシューは呆れたように息を吐き出す。


「まったく…きちんと考えて行動するのがバカバカしくなってきますね」
と、さらに肩を落とすマシューに、

「まあ…勘っつ~のは働いて欲しいところで必ず働いてくれるわけじゃねえしな」
と、苦笑まじりにギルベルトがその肩をポンポンと叩いた。

それはまさに自分に言い聞かせる言葉でもある。




結局…エンリケの側にしても目的はギルベルトが思った通り、ギルベルトに罪を着せること、うまくすれば手を下さずに他に害させること、そして水木を脅して生涯不安に怯えた生活をさせること、そしてさらに出来ればアーサーを確保することであって、アーサーが手に落ちない以上、全員を水も食料もなくなるまでこの場に放置という選択はなく、適度なところで脱出のための船に誘導するつもりだったらしい。

一応エンリケの側に特に良くも悪くも思い入れのない相手ということで、本人が志願してくれた事もあって黒井を人質に、それなりの大きさの船に食料と水を積み、全員が乗ったところで人質の受取人としてマシューが立って、無事人質を交換。

王を除く全員で島を脱出した。




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