寮生はプリンセスがお好き2章_2

それから俺は聞かれるままに、副寮長というのは寮の象徴的存在であり、神輿のようなものなのだと答える。

もっともその選出基準が寮生が守りたくなるような愛らしさなのだとかそういう類の事は外部生には理解しがたいことだと思うので、詳細については兄から説明があるという事を伝えた上で、この学園では全て寮単位で行うため、寮を象徴する副寮長は他の寮の輩が害を及ぼそうとしてくる可能性もなくはないので、護衛が必要なのだと言う事だけ説明をした。

「さっきから他の寮に決まった人間の方からなんだかキツイ目で見られているような気がするのは、そういう理由だったのか……」
と、不安げな目を周りに向ける少年に俺は言う。

「大丈夫。その分、俺を含めて自寮の人間が全力でガードするので心配はしなくていい。
今年の銀狼寮の高等部組は優秀な人材も揃っているし、弟の俺から言うのもなんだが、兄は全国模試は3位から落ちた事はなく、チェスの認定タイトル、各種武道の認定資格を始めとして、様々な事で実績をあげている全寮長の中でもトップクラスで有能な人間だ。
学校にいて高等部の人間が立ち入れない時には俺が邪魔にならないように適度な距離を取りながら全力でフォローするので任せて欲しい」

そう言う俺の言葉に何故か少年の表情に陰りが浮かんだ。

何か失敗しただろうか?
説明不足か?
それとも…ああ、学校内で俺だけでは心許ないとかか?
グルグルとそんな事を考えていると、少年はポツリと言った。

「…距離を取りながら…か?」
「ああ、すまない。視界に入るのが嫌なら俺は極力視界に入らないようにして、同じ寮の同級生で囲むようにするが……」

そうだった。
番犬のような人間が見張っていると思えば、皆恐れて近づいてこないかもしれない。
交友関係を作成するのに支障をきたすか……

そんなわかりきった事実には慣れているはずだが、どこか悲しい気分でそれでもそう訂正を入れると、少年は

「そうじゃなくてっ!」
と、首を横に振ると、少し拗ねたように口を尖らせた。

「…お前は…そんなに俺の側にいるのは嫌なのか?」
「は??」
「べ、別に嫌なら無理にとか言うんじゃないけどなっ!
普通に一緒に行動した方がお互い楽だし自然じゃないか?
それとも俺といるのを他に知られちゃいけないとか、そういう理由があるのか?」

「ちょ、ちょっと待ってくれっ!」
脳内で混乱が渦を巻いた。

一体何を言われているのか、瞬時に理解できない。

「俺の方が嫌という事は断じてないっ!」

とりあえず一番大切な部分をまず否定しておく。
俺は他人から距離を取られる事はあっても、自分から他人を遠ざけたいと思った事はない。
ましてや大事な寮のプリンセスだ。
側にいるのが嫌なわけがない。

「…じゃあ…何か距離を取らないといけない理由が?」

…癖なのだろうか…
またコテンと首をかしげる少年。

「ない」
「…ない?」
断言する俺に少年は不思議そうな顔をした。

そんな顔をしたいのは俺の方だ…と、俺は言いたい。
だって、普通嫌だろう?
こんな威圧感のある男が終始側にいるのは…
他に友人を作ろうにも周りだって委縮するに違いない。

そう思って

「ただ…あなたの方が嫌だろう?
俺のような男に終始付きまとわれたら」
と言うと、少年は笑った。
綺麗に笑って言ったのだ。

「きっと悪意のある事を言ったりしたりするようなやましいところのある輩は寄って来なくなるな。
羨ましいほどの迫力だもんな」

羨ましい…そんな事を言われたのは初めてだった。

――俺だって鍛えてるのに…筋肉つかない体質なんだ

と、力こぶを作る時のように(実際作っているつもりだったのだろうか…)腕を折り曲げて言う様子の愛らしさに思わず小さく笑みを浮かべると、

「笑うなっ!」
と睨みつけられたが可愛らしいばかりで、なるほど迫力にはかけるのかもしれない。


それでも

「すまない。
では側にいてあなたの盾になろう」
と俺が言うと、
「…じゃあ今から友達だな」
と、俺よりかなり小さな手を差し出してきた。

「…友達……」
「…何だよっ!何か不満なのかよっ」

自分には縁のないと思っていたその言葉に思わずポカンと呆けると、少年…アーサーは口調こそ拗ねたような口調だが、大きな瞳に少し不安げな色を浮かべる。

ああ、すまない。
そんな顔をさせるつもりではなかったのだ…と、俺は心の中で思いながら、慌てて訂正と説明を入れた。

「いや、ただ今まで俺と友達になりたいなどという人間がいなくて、友達と言うものを持った事がなかったから驚いただけだ。
………つまり…あー…」
「…つまり?」
「とても嬉しく思っている。
あなたが俺にとって初めての友だ」
そう言うと、真っ白な頬が綺麗な桜色に染まって、それがとても愛らしいと思った。

初めての友がこんなに愛らしい少年とは、素晴らしい事じゃないか。

寮の象徴で仕えるべきプリンセスで友。
これから3年間、この身に変えても彼を守って行こう。

そう決意を新たにして、俺はとりあえずプリンセスを寮長室まできっちりと護衛するという最初の任務を完璧に遂行すべくまい進する事にしたのだった。






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