続恋人様は駆け込み寺【呪いになんて負けないもんっ!不憫な青年の事件簿】7

「うあ~大きな館だねぇ…。」

その島は島の面積自体は決して広くはないが、ギルベルト達がたどり着いた入江を見渡せる丘の上に驚くほど大きな館が立っている。

そこまでは左右に鬱蒼とした森が広がっているが、幸いにして館までは大きな1本の道でつながっていた。

そしてさらに幸いな事に、館の1階部分が明るいため、どうやら館の主も在宅のようである。

「ああ、良かった。ここの島の持ち主さんがいらっしゃるなら、本土に連絡を取って頂く事も可能ですね、きっと」
と、胸をなでおろす係員。


「とりあえず私はボートをつないでから急いで後を追いますので、皆さんは先に館に向かって下さい」
と指示をする男をアントーニョがジ~っとみている。

いや、ギルベルトだって気になることは気になるのだが…実際、チラ見くらいはしているし、ぬいぐるみの青年だって同じくなのだが、アントーニョの場合はチラ見じゃない。
凝視に近い。

「…あ…あの?」
と、さすがに係員の男も居心地悪そうに尋ねるが、アントーニョは

「ま、ええわ。行くで~」
と、それを完全にスルーで肩をすくめ、アーサーに自分の上着をかけると手を引いて走りだした。

「……?」
と、その様子にぬいぐるみの青年も不思議そうに首をかしげたが、すぐ

「そうですね。こうしていても仕方ありませんし。行きましょうか」
と、自分もそれを追い、他の高校生達もさらにそのあとに続いた。

左右を埋める鬱蒼とした木々が雨風に吹かれて揺れる様は不気味だが、一応必要な分はきちんと手入れはされているのか、館までの道はきちんと雑草もなく整えられているのが幸いだ。

この暗い中、獣道を歩くのは怖い。

それに…この島全体が…いや、今回の一連になんとなく嫌な空気を感じる…。
何かにずっと監視されているような…冷ややかでまとわりつくような視線…。

それは船に乗った瞬間から漠然と感じていて…最初は気のせいかと思ったが、今も感じる気がする…。

最初は大勢いた客船の乗客や乗組員が救難ボート内で11人になり、今また乗務員と分かれて10人…。
それでも感じるということは…今周りを走っている誰かに見張られている…?

なぜ?

たった数ヶ月前…アーサーは幼なじみにストーカーされていた。
異常なまでの執着…自分に近づく人間を排除しようとする奴に心底恐怖を感じて、逃げ込んだ先が今の恋人やその友人である先輩ギルベルトだ。

あの熱をはらんだ視線とはまた違う冷ややかで冷静な…しかしなんらかの執着を感じる視線…。
恐ろしさにアーサーは身震いした。

…寒い……。

そんな中でしっかりと背に回した右手をアーサーの右手とつないで走るアントーニョの体温だけが、寒さと恐怖に凍えそうなアーサーを温めてくれる。


「大丈夫やで。建物ある言う事は最悪でも飲み物の確保は出来そうやし、そうしたらあとはなんとでもなる。
何が起こっても親分が守ったるからな。心配せんでもええよ」
と、不安な気持ちを察したのか、そう元気づけてくれる恋人の言葉に

「ああ。俺も水上よりは陸上の方がまだいい」
と、アーサーは気を取り直すとニコリと恋人に微笑んで、それから前にそびえ立つ館に目を向けた。


左右を背の高い塔のような建物で囲まれた、ホラー映画にでも出てきそうな古びた洋館だ。
1階部分の一部屋に灯りが灯っている他は真っ暗なので、そう大勢の人がいる様子もなさそうである。

だいぶ建物に近づいたあたりで、何気なく視線を2階の1室に向けた時、ピカッ!と稲光が光る。
その光にアーサーが思わずつないだ手を握る力を強めると、隣でアントーニョが小さく笑った。

ああ…カッコイイけど…頼りがいはあるけど…でも同じ男として少し悔しい。
1歳の差が大きいのか性格や能力の差なのだろうか…。

アーサーは少しプクリと膨れると、

「…少し…驚いただけなんだからなっ」
と小さく言って口を尖らせた。



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