世界会議二日目…何故かスペインは相変わらず優しい。
朝イギリスが早めに支度をしていると、やっぱりチュロス持参で来て手伝ってくれて、二人でスペインの持ってきたチュロスとイギリスの淹れた紅茶を飲む。
――最悪でも現状維持の策だ…
プロイセンはそう言ったが、現状維持とは前々回の世界会議前の喧嘩はしないが近寄りもしないあの頃の事なのか、今のこの状況なのか聞き忘れたな…と、イギリスはチュロスを齧った。
明るくて優しくて…自分が他国に対して怯えてピリピリしていたほんの幼い頃を除いたら、決して向けられることのなかった笑顔。
小さな頃のアメリカの笑顔もイギリスを癒してくれたが、あれは可愛らしいとか守ってやりたいとか、そんな感じの自分より幼く可愛らしい存在に対するもので、スペインの微笑みは丁度その真逆。
許容され、慈しまれている心地よさ、安心感のようなものを感じる…子どもの頃に自分が兄に求めていたような、そんな感情だ。
じ~っとその自分より少し深い色合いのグリーンアイに見とれていると、スペインは、ん?というように少し笑みを消して身を乗り出した。
男らしい、イギリスより一回りも大きい手が伸びてきて、イギリスの目尻にそっと触れる。
そして…綺麗な黒い眉が心配そうに寄せられた。
「なん?昨日あれから悲しい事でもあったん?目ぇが少し赤くて腫れとるけど…」
と、優しい優しい声で言われて、イギリスは言葉に詰まった。
まさか昨日スペインの事を相談していて、今の状態が終わるのが悲しくて泣いたとは間違っても言えない。
思わず視線を下に逸らすと、ガタンと立ち上がる音がして、小さなテーブルの正面に座っていたスペインが、すぐ隣に移動してくる。
「なあ…親分に話したって?なんでもしたるよ?」
肩を引き寄せられ、吐息がかかるくらい近い距離で低く甘い声で言われて、ますます言葉が出なくなった。
こんな距離も子猫の頃は珍しくもなかったのに、人間の姿だとなんだか落ち着かない気分になる。
――恋人とかそういう関係になりたいのか…
昨日のプロイセンの言葉が不意に思い出され、顔が火照ってきた。
近い、近い、近いっ!!!
子猫時代に慣れたと思ったその距離が、急に恥ずかしくなってくる。
とにかく離れて欲しくて
「な、なんでもないっ。ただ昨日あれから小説読んでて…悲しい話だったからつい涙が…」
と、ふるふると首を横に振りながら言うと、耳元でくすりと笑う声。
「そうやったんか。これから悲しい本読む時は親分のところへおいで?泣いてもうたら慰めたるから」
と、本気か冗談かわからない言葉を残して、名残惜しげにスペインが離れて行った。
それとほぼ同時くらいにドアが開く。
てっきり昨日と同様にフランスとプロイセンかと思っていたら、そこにいたのは元弟、今回の騒動のきっかけとなった超大国アメリカだった。
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