不思議の国の金色子猫4

楽しい夕食の後、自宅まで送ってくれて、その後一人で戻ってきたプロイセンに聞かれた。

――なあ、スペインと何かあったのか?

さすがプロイセン。
あのドイツを育て上げた男だ。
自分のスペインに対する態度の不自然さに気づいたらしい…。

――なんか困ってんのか?なあ、話せよ。お前と俺様の仲だろ?
と言ってくれるその友情も、今のイギリスには非常にありがたかった。

正直、最初はただの魔法の失敗で、そこでなんとかそれを伝えられればたいしたことはなかったはずだったのだが、今ではもう引くに引けないところまで来ている気がする。
騙して弄んでいたのか?――そう聞かれる可能性は大だ。

自分とスペインの間に何かあったのでは?と心配して戻って来てくれたプロイセンに事実を話して相談する決意をして、彼を家に招き入れたイギリスは、とっておきの紅茶を淹れるためお湯を沸かしながら、どう話そうかを考えていた。

問題は…正直に話したところで信じてもらえるかどうかなのだが………

考えのまとまらないうちに、しゅんしゅんとお湯が沸いた音がして、カップを選ぼうと火を止めて食器棚へ。

そして年代物の食器棚にずらりと並ぶティーカップを出そうとして、目に留まった一客を前にイギリスは手を止めた。

白地に色とりどりの可愛らしいフルーツが散りばめられたイタリアの有名メーカーのティーカップ。
スペインの自宅で子猫の自分が根城にしているマグの、あのシリーズだ。

――こいつを使うか……。

ちょうどペアで出ていたそのティーカップを洗って温めると、紅茶を淹れてトレイに乗せる。


「明日会議なのに待たせて悪ぃな。」
と、少し申し訳なさげな笑みを浮かべると、ソファの上でもシャンと背筋を伸ばして座って待っていたプロイセンは、

「いや、押しかけたの俺様の方だし」
と、小さく笑って首を振った。

その笑みが急にふと消えた。
紅い目がまっすぐトレイの上のカップへと注がれる。

「ああ、これ、スペイン家にもあっただろ?猫が入ってるマグ」
と、こぼさないようゆっくりとテーブルの上にトレイを置き、一つをプロイセンの前に、一つを自分の前に置いて、イギリスが言うと、そこで我に返ったようにプロイセンはうなづいた。

「ああ、お前んとこにももしかして写真回ってきたのか?
なんだか世界中の国々に回ってんじゃね?スペインの猫馬鹿メール」

そこでイギリスはどう切り出そうか、少し言いよどんで、しかし結局結論から言う事にした。

「お前は信じねえかもしれないけど…あの子猫、アーサーは俺なんだ」
「はあ??」

さすがに唐突だっただろうか……。
ぽかんと呆けるプロイセンを前にそう思うが、言ってしまったものはもう仕方がない。

「始めは、前々回の世界会議のあと、アメリカとちょっとした言い争いをした時に魔法に失敗して、子猫になっちまったんだ…」
と、そのまま、今までの経緯を話して聞かせた。


「つまり…つまりだな、騙すつもりはなかったが騙されたと思って嫌われたくない…。
そうならないようになんとか事実を伝えるなり、消えるなりして、事の収拾を図りたいってことで良いのか?」
意外にもプロイセンは信じてくれたらしい。

何故?と聞くと、――俺様達が訪ねて行った時の詳細、普通そこまで知らねえだろう。俺様と猫だけの時俺様が言ったセリフまで覚えてやがるし…。と、少し赤くなって、ふいっと顔を逸らせた。


まあ確かに猫しか聞いていないと思って話したセリフを実は国が聞いていたと知ったら照れくさいだろう。
一日のみ、しかも二人きりだったのはほんの一瞬だったプロイセンでもこれだ。
スペインはこんなものではないかもしれない…。

そう思って肩を落とすと、

「あ~、スペインは、んなことぜんっぜん気にするタイプじゃねえぜ?」
と、プロイセンはポンポンと肩を叩いた。

慰めようとしてくれているらしい。
ああ、友達っていいなぁ…。

カップに顔をうずめながら湯気の向こうのプロイセンにチラリと視線を向けると、プロイセンはまた頬を赤く染めて視線を逸らした。


やっぱり猫の時の事を気にしているのか…と、そのプロイセンの反応を捉えるフラグクラッシャー、イギリス。

澄んだ大きな目ですがるような視線を自分に好意を持っている男に向ける効果など、気づく由もない。

乙女なところのある性格なのに、そのあたりは乙女達と比べようもなく鈍感。
そんなイギリスを好きになったのが、このアピール下手なゲルマン男の不幸であった。





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