明日も会議ということで、酒は控えめに。
4人のボックス席で当たり前にイギリスの隣に陣取るスペイン。
いつでも訪ねていける関係であるという余裕だろうか。
フランスはイギリスの正面の席を譲ってくれたので、ありがたく正面に座らせてもらった。
と、そこでもスペインは当たり前に自分の皿の物を自分のフォークでイギリスに差し出し、イギリスも当たり前にそれを口にする。
その一方で、
「坊ちゃんこれも美味しいよ~」
と、フォークを差し出すフランスには、それを華麗にスルーして、自らのフォークでガシっとフランスの皿の物を強奪するという所業に出ている。
この差はなんなんだ?
自分も試してみたいが、反応を考えると怖くてできない。
「ほら、口についとんで」
と、蕩けそうな笑みを浮かべて、イギリスの可愛らしい口元についたソースを指先でぬぐって、当たり前に自分の口元にもっていって舐めとっているスペインが羨ましい。
男の自分から見てもどことなく男の色気というか、そんな感じのものを感じさせるイケメンオーラを振りまきながら、それでいて、世話をするのが楽しいという人の好さを前面に出してくるので、嫌らしくない。
まあ実際スペインからすると、おそらく自宅で人でも頼んで待たせているのであろう、あの、可愛い可愛い愛猫の世話をする感覚でやっているのだろうから、今のところそういう意味の下心はないのかもしれないが…。
それでも空気を吸うのと同じくらいの感覚で自然に相手に触れて魅了するラテンの血を、この時ほど羨ましいと思った事はなかった。
色恋沙汰を律した環境で育った自分は、いまだああいう距離感をなかなか持つことができない。
こと相手が好きな奴だと余計にギクシャクする。
そんな事を考えていると、少しアルコールが入ったところにそんな風にスペインに甘やかされて気が緩んでいたのだろうか…イギリスが澄んだペリドットでじ~っとプロイセンの皿を覗きこんできた。
それにいち早く気づいたスペインが
「なん?プーちゃんの皿になんか欲しいもんあったん?親分取ったろうか?」
と、甘い甘い声でイギリスに声をかけて自分のフォークを手に取る。
おいおいおいおいっ!
そこは俺様の出番だろうがっ!
と、さすがにそこは思って、プロイセンは慌てて自分の皿をスペインの手の届かない位置へとキープした。
すると
「プーちゃん、ちょっとくらいええやん、けちくさいなぁ」
と、スペインが口を尖らせるが、そこは何故か今日は優しいフランスが
「スペインに食べられるのは嫌だってさ。
お前ついでに味見のレベル超えた量取ってくから。
坊ちゃんにあげる程度ならいいよね?」
と、にこやかにフォローを入れてくれる。
ああ、フランス、お前良い奴だったんだな、と、心の中で感涙しながら、プロイセンはうなづいて、ごくごく自然に
「おうっ!で?イギリス、どれが気になってんだよ?
優しい俺様が手ずから食わしてやるぜ」
と、答える事が出来た。
その言葉に少し困ったような顔をしていたイギリスが、ぱぁっと表情を明るくする。
「あのな、これ」
と、アルコールが入っているせいか少し舌足らずに指差すブルストを、その小さな口にも入るように小さく切ってフォークで口元へ持って行ってやると、まるで小動物の子どものように可愛らしい様子でぱくんと口をあけて食べて、嬉しそうに笑う。
か、可愛いっ!!!
その愛らしい様子に悶える3人。
結局そうやって楽しそうに幸せそうにするイギリスを見たいのは、全員同じなのだ。
こうして和やかに食事も終わり、イギリスを自宅に送り届けてから3人でホテルに戻ろうという事になり、4人で楽しくイギリス宅に向かう。
その途中もスペインの男らしい褐色の手はイギリスの背に回されたままで、イギリスもそれを拒むことなく受け入れていた。
気になる……
どうしても気になる……。
イギリスを送ってホテルに戻る途中、たまたまポケットに入れて置いた携帯が振動した。
ドイツからのメールだった。
おそらく会議の様子が気になって聞きたかったのだろう。
悪い…でもダンケ、ヴェスト。
プロイセンは心の中で今回いろいろと自分の我儘を聞いてくれた弟に手を合わせた後、つ…と、足を止めて、どうしたのかと振り返る二人に向かって携帯をかざした。
「わりっ。ヴェストからメールだ。たぶんお兄様を恋しがって送ってくれたんだろうし、電話してやろうと思うから、先帰っててくれ」
と、わざとそんな風に言うと、二人とも信じたようだ。
「どっちかっていうと、アホな兄貴がアホな事してへんか心配して送ってきたんとちゃう?」
「だよね~」
と笑いながら、二人して先にホテルに向かって歩いていく。
それを見送って、プロイセンは即踵を返した。
目指すはたった今後にしてきたイギリス邸だ。
そして切り出す…
――なあ、スペインと何かあったのか?
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