こうして菓子だけを奪い取られて漁夫の利国家は少し離れたイギリスの正面へ。
触れられる距離にはないが、まっすぐ顔をあげるだけで綺麗なグリーンアイが見られるし、その視界にも入れてもらえるなかなか良い席だ。
ライバルながらあっぱれ。
イギリスを挟んだ隣ではそれにいち早く気づいたスペインが露骨にムッとした顔をするが、イギリス自身は菓子が増えた事にぱぁっと表情を明るくして、
「お前らも食えよ。べ、別に俺だけ食ってたら悪いとかじゃなくて、食いきれないからなんだからなっ!お前らのためじゃなく、俺のためなんだからなっ!!」
と、いつものツンデレのテンプレートをかましながら、フランス作のフィナンシェを二つに割って、それぞれスペインと自分に食べさせてくれたため、もうお互いにイライラした気持ちなど吹っ飛んでしまったかのように、顔が緩む。
唯一加われないフランスが遠くでハンカチを噛みしめているのには気づかないふりをしておこう。
そうこうしているうちに集まってくる国々。
大抵の国は驚いて目を丸くしたあと遠巻きにしていき、一部日本やハンガリーのように目をキラキラさせてこちらを見る国もいる。
そして…一部、露骨に殺気を漲らせる国…。
その国の不機嫌オーラに、他の国々はさらにこちらを遠巻きに伺い始めた。
さすが超大国、威圧感も影響力も人一倍ということか…
まあ…譲る気はねえけどな…。
と、プロイセンはにやりと笑った。
確かに今の時点でのイギリスの優先度は一番高いであろう元弟、超大国。
当面の目標はイギリスの機嫌を損ねることなく、こいつの暴言からイギリスを守る事だ。
――今は共同戦線な?
と、悪友達にアイコンタクトを送ってみれば、さすが付き合いの長い連中だ。
その意味を正確に理解して、スペインは歯磨き粉のコマーシャルのように白い歯を見せた満面の笑顔付き、フランスはどことなくユーモアを感じさせる笑みにぱちりんとウィンク付きでうなづいてくる。
こうして始まった世界会議。
まずは前回の続きの環境汚染の問題で、アメリカが相変わらずの主張を口にした瞬間、まずは様子見をするため、
「はいは~い!」
とフランスが手をあげる。
これがスペインだと即喧嘩になりかねないし、自分が出るのは完封する時なので、もう少し情報が欲しい。
話をつぶさず、しかし進めさせず…。
これは立ち回りが上手くバランスの良いフランスが適任だ。
柔らかい反対意見というやつでアメリカから言質を取れるような言論を引き出していき、タイミングを見て、ちらりとプロイセンに視線を送る。
それにプロイセンがうなづくと、フランスはあっさりと引いていく。
次はフランスが引き出した言質を盾にプロイセンが理詰めで追い詰めていく。
そして…反論を失ったあたりでスペインが勢いで封じ込め、頃合いを見計らってフランスが
「はいはい、スペインそのくらいにしときなさいね。アメリカも○○って事でいいよね?」
と、助け舟を出すふりで、話を終わらせた。
昼食も
「アメリカ~、ちょっとお兄さん話があってさ、ご飯おごるから付き合ってよ」
と、フランスがアメリカを誘い出し、プロイセンは師弟のよしみで日本に声をかけ、さらに隣にいるから、と、イギリスを誘い出し、3人で食事。和やかな時間を提供する。
スペインはその間、人当たりの良さと豊富な人脈を駆使して、午後の会議の根回しを進めた。
さすが悪友、コンビネーションは完璧である。
こうしてイギリスはいつものように元弟に暴言を吐かれることもなく、きちんと進む会議の一日目の進行役を順調に務め終えた。
そして会議後…もちろんイギリスとの食事を譲る気はない。
プロイセンはそのあたりもぬかることなく、日本にこっそり会議後はアメリカを連れ出してくれるよう根回しをしておいたのだ。
「お疲れさん」
と、プロイセンが労わりの言葉をかけると、いつもなら踊る会議の進行役で気を張り詰めていたのだろう。
ホッと緊張を解いて、ふわりと笑みを浮かべるイギリスが可愛い。
しかしそこで驚くべき事が起こった。
イギリスを挟んで反対側の隣、スペインがイギリスの頭を引き寄せて、
「明日も親分らがちゃあんと言う事言うて自分に酷い事言わせたりせえへんから、大丈夫やで。守ったるから安心し」
とイギリスの金糸に彩られた白い額にキスを落としたのだ。
そこまでは良い。
いや、良くはないが、スペインなら普通にやる。
腐ってもラテン男だ。
口説くとなったらスキンシップは欠かせない。
問題はイギリスの方だ。
他国と海で隔絶された島国なせいか、ヨーロッパの中でも他人と物理的に距離を取りたがるあのイギリスが、それを当たり前に受け入れている。
おかしい……。
プロイセンはチラリとスペインをうかがった。
スペインの方もそんなイギリスの態度に驚く事もない。
本当におかしい…。
まさか前回の世界会議から今日までの間にすでに何か進展があったのか?
前回スペインの自宅に遊びに行った時にはスペインは特に何も言っていなかったが、あけっぴろげに見えて自分にとって重要だと判断したことに関しては、スペインは3人の中でも一番の秘密主義者だ。
そんな可能性もありうるかもしれない。
そう思ってみれば、
「まあ護衛進行役は三銃士におまかせあれってとこだね。
ついでに美味しいご飯も…かな?」
と、フランスが当たり前に3人で行く事を主張するイギリスとの夕食に、
「せやな。今日のところは自分らも一緒でもええわ。お姫さんもなんや落ち着かんみたいやしな」
と、答えるスペインもおかしな気がしてきた。
いつもならそこで『え~?プーちゃんお昼一緒やったから、夜はええやん』とでも言いだしそうなところなのに、この余裕の発言である。
それでも『お前、昼間に一緒に行った俺様は除外とか言わねえのか?』などと要らぬ事を言って一人省られたくはない。
忘れているだけかもしれないスペインの突込みが入る前に、すばやく
「じゃ、行くか。」
と、フランシスがまとめたイギリスの鞄を自分の荷物と一緒に持つと、出口へと全員を促した。
そこで当たり前に片手をイギリスの背に回し、もう片方の手でイギリスの手を取ってエスコートするスペインには目を瞑ることにする。
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