「な、こんなの着られるわけねえだろっ!!」
毎年恒例のブルースター内のクリスマスパーティでのことである。
例年は医療班のお嬢様方&医療本部長がサンタクロースになってプレゼントをばらまいていたわけなのだが、今年はとにかく戦闘が多く、医療本部は大忙しだった。
『たまには…綺麗なドレスを着てゆっくりパーティを楽しみたいですよねぇ…』
と言う可愛い部下のお嬢さん達の要望をスルーする医療本部長ではない。
「これからは持ち回りでどう?
確かにうちのお嬢さん達は美女揃いだからサンタ服も似合うけどさぁ、本人達にしてみたら、ブレインやフリーダムのお嬢さん達は綺麗なドレスでオシャレしてるのに毎年サンタ服って悲しいじゃない?」
と主張。
医療本部長のフランシスだけではなく、ブレイン本部長のロヴィーノもフリーダム本部長のアントーニョも女性に優しいフェミニストなので、それももっともだと言う事になった。
「せやったら、クリスマスくらい男連中でサービスしたったらええんちゃう?
ええよ、フリーダムからは親分がトナカイやったるから、サンタはブレインからって言う事でロヴィやりいな」
と、言いだしたのが、始まりだった。
もちろんロヴィーノだってその時点では異論はなかった。
むしろ角をつけた動物のトナカイの衣装よりは、赤服とやや派手な色合いではあるものの、サンタの方がまだ良いんじゃないだろうか…そんな風に思っていた。
そう、その衣装が届けられるまでは……
衣装が届いたのはパーティの一週間前。
医療班のお嬢さん達が自分達が例年着ていた衣装を手直しをしたという言葉を聞いて、え?と思った。
だって彼女達が着ていたのはサンタはサンタでも襟元や袖口、それに裾に白い飾りのついたミニのワンピースだった気がする。
それを手直し??
嫌な予感にかられながらも、鼻歌交じりに自分のトナカイの衣装を試着しているアントーニョの横で届けられた衣装ケースを開けて中を取りだしたロヴィーノは冒頭のように絶叫したわけである。
そう、嫌な想像はやっぱり当たっていて、それは女性よりは若干背の高いロヴィーノのサイズになおしてあるものの、赤いミニのワンピース。
いわゆるミニスカサンタの衣装である。
ぺろんとそれを目の前でかざすロヴィーノに、隣で
「おおっ!!ええやんっ!!!」
とアントーニョが歓声をあげた。
「ええやんじゃねえっ!!なんならお前が着るか?!」
と、それを怒鳴りつけるロヴィーノに、アントーニョは
「体格的に親分じゃ無理やで?」
と、にこにこと言う。
本当に嬉しそうなそのアントーニョの様子に、
「絶対に無理なのを分かっているから笑顔なんだろ、こんちくしょー!!」
とロヴィーノが言うと、今度は笑みを消して
「ロヴィ…医療班のお嬢ちゃん達が一生懸命縫ってくれたん無駄にするん?」
と、良心に訴えるような事を言う。
「いや…そうだけど…そうだけど、これは無理だろ…」
と口ごもるロヴィーノ。
「せやったら、自分で忙しい仕事の合間にわざわざ縫ってくれた医療班の子ぉ達に着たくないです言うたら?」
と、無茶を言う。
それもフェミニストなロヴィーノにはその衣装を着る以上にとてつもなく高いハードルだ。
衣装を持ったまま硬直する。
着たくない…というか、着れない…けど、わざわざ縫ってくれた手間暇を“着たくない”とはねのけるのも難しい…。
そんな中で、
「兄ちゃ~ん!サンタさんの衣装出来たんだって?!」
と、更衣室に飛び込んできたのは、ジャスティスをやっている弟だ。
ノックもなしに飛び込んできた弟のフェリシアーノは、兄がかざすワンピースを見て硬直する。
(ちきしょー、わかってるっ!ありえねえよなっ!)
と、心の中で言うロヴィーノ。
…だが、弟の脳内は兄とは真逆なようだ。
「うっわぁ~~!!!いいなぁ!!!かっわいいっ!!!」
ぴょんぴょん飛び跳ねながらはしゃぐ弟。
それを信じられないようなものを見る目で呆然と眺める兄ロヴィーノ。
「ね、ちょっとだけ貸して?ルートに見せたいっ!!」
と、ことんと小首をかしげて手を合わせる弟に、
「ちょっとと言わず、パーティまでずっと着てろっ!こんちくしょうめっ!!」
と、ロヴィーノはそれを弟に押し付けた。
「え?ええ??良いのっ??ありがとー、兄ちゃんっ!!」
はしゃぎつつ嬉々として着替えるフェリシアーノを見て、ホッとするロヴィーノ。
これで自分は免れるか…と思えば、世の中そんなに甘くはなかった。
翌日には新たに届けられる同じ衣装。
それを前に涙目になるロヴィーノに、
「…しかたねえ。俺も着てやるから、フェリと3人なら恥ずかしくないだろ?」
と言うアーサーの優しさが、心に染みわたった。
こうしてフェリシアーノとアーサーがサンタ服を着るとなれば、当然トナカイ姿は必至のギル&ルートの兄弟。
「たまにはいいんじゃね?ミニスカサンタ姿のタマをエスコートできんならトナカイくらいいくらでもやってやんぜ」
と言うギルベルトと、
「ちょっとスカートが短すぎじゃないかっ…担いでやるから袋に入っていろ」
と、プレゼントの袋をフェリシアーノに履かせて、それを横抱きにするルート。
きわどい格好のフェリシアーノを正視できないのは良いが、その様子に
「…でも…なんだかフェリシアーノがプレゼントみてえだよな」
とアーサーに突っ込まれ、それを受けたフェリシアーノに
「ルートのプレゼントは俺?」
とにっこり微笑まれ、余計に羞恥を煽られる事になった。
当のアーサーはと言えば、サンタの格好をしつつもプレゼントを配る気はさらさらないらしい。
「トナカイはサンタ乗せるのが仕事だよな?」
と、ギルベルトの膝に乗りつつ、いつものようにギルベルトに口にケーキを運ばせている。
「タマ、美味い?」
と聞くギルベルトに
「お前も食う?」
と言ったかと思うと、口元にクリームをつけたままギルベルトの頭を引き寄せ、口づけて
「美味いだろ?クリームはお前への、キスシーンはレディ達へのクリスマスプレゼントな?」
とにっこり。
するとギルベルトはギルベルトで
「…こんだけじゃ足りねえな。もっとくれよ」
と、アーサーの後頭部へ手を回して頭を引き寄せると、思い切り深く口づけ始めるので、
「ちょ、お前達、ここ公共の場だからねっ!!」
と、フランシスが慌てて駆け寄りかけるが
「本部長っ!!私達の努力の結晶を台無しにするんですかっ!!!」
と、可愛い部下のお嬢さん達に怖い顔で止められた。
「…ポチ……」
「ん~?」
ギルベルトが思う存分甘い唇を貪って唇を離すと、今度はギルベルトの首に手を回して肩口にぐりぐりと頭を擦りつけるアーサー。
「ちょ、なんだよ?くすぐってえ」
と笑いながらも少し瞳に欲を宿すギルベルト。
しかし恋人様に他意はなかったらしい。
「ん~このトナカイの衣装、すげえ肌触り良いなぁと思って。
気持ち良い……」
ほわんとした表情でそう言うアーサーに、ギルベルトはため息。
少し悩んだが、結局
「ケーキは取っておいてもらうから。
とりあえず部屋戻るぞ」
と、異論を唱える間を与えずアーサーを抱いたまま立ち上がった。
それを羨ましそうに見送るサンタフェリ。
「サンタは労働報酬の先払いが欲しいであります」
ぱふっとトナカイルートに後ろから抱きつくと、こちらもため息。
「労働報酬と言うが…お前働く気はあるのか?」
ちらりと後ろに視線を向けるルートは
「ないけど」
と、えへへっと悪びれずに笑うフェリシアーノに苦笑しつつ、
「仕方ない奴だ。
部屋に一応お前へのプレゼントは用意してあるから、退出するか?」
と、ひょいっとフェリシアーノを抱えてこちらも退出していく。
「…なんか…一緒に恥かいてやるとかじゃなくて、単にリア充がいちゃつくダシにされた感があるんだが……」
結局1人残されて憮然とするロヴィーノに、アントーニョはしゃあないなぁと笑って
「ほな、足元は隠したるから、あとで飲みにつきあってな」
と、プレゼントの袋にロヴィーノを放り込むと、それを軽々と背負って各部員達にプレゼントを配り始めたのだった。
0 件のコメント :
コメントを投稿