――あとで迎えに行くな~。
という1本のメール。
アントーニョいわくわざとじゃない、単に大雑把で自分の脳内ではわかっている”あとで”の前につく言葉を相手もわかっていると思い込んでいるだけだ…という、この傍迷惑なメールは、ギルベルトを大いに悩ませた。
しかし今エンリケとアーサーを二人きりにさせるのは非常によろしくないことだけは確かだ。
かと言って…授業をサボって見張るわけにも行かないので、アーサーには呼ばれても3人のうち誰かが来るまでは絶対に教室内を出ないように言い含めて、授業が終わり次第1年の教室へダッシュすることにする。
ついでに…1年の周りにアーサーとアントーニョが付き合い始めた事、さらに、アントーニョが焼くからとでも理由づけて、あまりアーサーが他のやつと二人きりになる状況を作らせないようにしたい旨を、1年にも友人知人恋人候補などなど知り合いの多いフランシスにそれとなく広めさせようと言う事になったのだが……KYキングはひと味違った。
彼の辞書には”それとなく”なんて文字はない。
生徒に…どころの話ではなかった。
全く隠す気もないのか、全校に知らしめるつもりなのか、アントーニョは担任である数学の教師が教室に入ってくるなり
「先生っ!今日は早めに終わったってなっ!」
と、手を上げて叫んだのだ。
「お前…唐突だなぁ、おい…」
アントーニョが唐突なのも空気を読まないのもいつものことなので苦笑いをする担任に、アントーニョはヘラリと言ってのけた。
「先生が昨日アーティに勉強教われ言うたやん?
実はあれからそのこと話しとったら、なんやめっちゃ可愛え事に気づいてもうて、付き合う事にしてんっ!
でな、でな、どうせなら眠い先生の授業聞いてるよりか可愛え恋人に教わった方が勉強もはかどる気するやん?!
せやから、授業終わったら即効で勉強道具持って教わりにいくねんっ!」
きっかけはそこだったのか…と、交流のほぼないはずのアントーニョがいきなりアーサーが泣いてる場面に遭遇した理由を壮絶に納得し、笑うしかないギルベルト。
あまりに悪びれない生徒の告白に、教師も苦笑いだ。
まあ、馬鹿だがどこか憎めないキャラとして通っているアントーニョだ。
教師の方も、それで勉強をする気になってくれるなら、1年の授業の邪魔にならないように、アントーニョが急げば授業終了直後くらいに1年の教室にたどり着く程度に終わらせてやろうか…などと秘かに思う。
「マジかっ。あのカークランド落としたのかっ!」
と盛り上がるクラスメートに
「おん。でも成績あげてかんとアーティに怒られてまうから、親分今日から真面目に勉強すんねん。せやから授業進むように皆真面目に授業受けたってな~」
とにこやかに促し、周りもやれやれと言った顔で授業に集中するので、教師的にも悪いことではないし、まあ良いかと思う。
確かに授業中、眠りもせずノートをとっているので、教室内をさりげなく回りながらチラリとそのノートを覗けば、自分的にわからないのであろうところどころに『ここ何?説明したって?』と、吹き出しが付いている。
あとでカークランドに教わるためか…と、担任は下級生に教わるのも全く気にしないらしいアントーニョの大雑把さおおらかさにむしろ感心した。
まあアーサー・カークランドがすでに高認を取っているのは教師の中では周知の事実なので、任せても大丈夫だろう。
それでやる気にムラのあるアントーニョが勉強に興味を持ってくれるなら御の字である。
こうして授業をほんの気持ちばかり早く終わらせると、アントーニョが今やったばかりの数学の教科書とノートを突っ込んだサイドバッグを手にダッシュするのを、教師は苦笑とともに見送った。
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