一方で一年の教室。
朝の騒動が何もなかったかのように――あとで迎えに行くな~――と送って来られたメールが地味に怖くて、あまり授業に集中出来ず、アーサーは時計を気にしている。
一言で言うなら…あまりに行動性が読めない。得体が知れない。怖い。
幼稚園に入りたての頃、虚弱で他の子どものように外で遊ぶことができなかったため、必然的に一人ぽつねんとしているところに声をかけてくれたのがエンリケだった。
皆が友達と一緒のところに自分だけ一人…その気まずさに耐えかねていたアーサーにとっては、それはまさに救いの手であり逃げ場でもあった。
しかし1年後、年中になってエンリケが卒園してからは、外で遊ぶ子ももちろんいたが、室内遊びをする子もポツポツと出始めて、そんな子ども達と遊ぶようになる。
年長に上がる頃にはもう友達もだいぶ出来て、みんなで小等部へ上がるのを楽しみにしていた。
なのに実際に小等部に上がると、何故かその頃の友達はみんな距離をおくようになってしまった。
何をしてしまったのかもわからず、ただまたポツネンとしていると、当時3年生だったエンリケがマメに訪ねてきてくれるようになって、また休み時間はほぼエンリケと過ごすようになっていく。
そして4年後…アーサーが5年生の時にまたエンリケは中等部へ。
図書委員になったアーサーは同じ図書委員の先輩、ギルベルトと仲良くなり、その関係でずいぶんと友人知人も増えた気がするが、また中等部に入ると自然と減る。
おかしいと思ったのはその頃だ。
漠然と感じていたそれを口にしたのはギルベルトだ。
いわく…自分や自分の友人知人周りでアーサーと親しいあたりに気味の悪いメールが届いている…と。
どうやら避けられていたのはそれが原因らしい。
そうしてしかしメールの発信人についてはわからないまま、また近くなったエンリケにそれを相談すると、他が言ってこないのに唯一言ってきたギルベルトの方が何か怪しいんじゃないか?と言われた。
まあ…アーサーを害するモノすべてを警戒するエンリケの事だから、単にそういうことかとも思ったが、ずいぶんとキツく付き合いをやめろと迫るので、めんどくさくなってギルベルトとはメールのやりとりが主な付き合いをすることにした。
この頃になるとアーサーもエンリケの過干渉が少々煩わしくなってきたが、干渉は激しくなるばかりで、いつでも…授業時間以外は気づけば側にいるといった感じで息苦しくなってくる。
いくら放っておいてくれと言ってもいつでも側にいる。
あまりの煩わしさに、ある日エンリケがまだ支度が出来ないうちにと急いで下校したら、ヒタヒタと後ろから追ってくる足あとがして、息を切らせながら走って来て、読めない笑みを浮かべたまま当たり前に横を歩くエンリケに悲鳴を上げそうになった。
せめて何か文句なり恨み事なり言ってくれ…と、笑顔で黙って荒い呼吸を繰り返すその姿に恐怖する。
ああ、思えばそのあたりで限界だったのかもしれない。
最初に告白された時も、まず思ったのは逃げたい…だ。
小さい頃から側にいてくれた、助けてくれた…だからそんなことを思うのは悪い…そう思いつつも気味が悪い、怖い、と、意識してしまうともうダメだった。
聞いたその時は否定したフランシスの警告…アーサーの周りの人間がアーサーに近寄らないよう、エンリケが裏から色々やっているというのも、なんだか本当のような気がしてくる。
それでも…誰にも言えない。
なんて言って良いのかもわからない。
…というか、言ったら言った相手に何かされる気がする…。
こうして本当にどうして良いかわからず、もうプライドも投げ捨ててフランシスにでも助けを求めるか…と思っていたところに、アントーニョの手が差し伸べられた。
本当に困って怯えているところをずっと片思いをしていた相手が全てを理解して守ってくれるなんて、どこの少女漫画だ…と思う。
しかしそれで浮かれていたら今朝のあれである。
結局アントーニョとどんなやりとりをしたのだろうか…。
途中ギルベルトが駆けつけてくれていたから、ひどい事にはなっていないとは思うのだが…。
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