限界だ……そろそろ限界だ……とロヴィーノは思う。
限界?何がだって??決まってんだろっ!
俺のSAN値がだよーー!こんちくしょうめぇー!!!
得意の料理で礼をしよう…そう決めて、ついでにたまにはギルベルトに同様に礼をしたいと言うアーサーに午後から料理を教える事になったのだが……
「何やるのかわかんねえけど…タマに無理はさせねえでくれな?」
その日は初日と言う事で昼食後集合…だったのだが、お姫さんの護衛とばかりに送ってきてその後ろに立っていたジャスティス最強の目が怖い。
笑顔なんだけど怖いっ!!!
自分の後ろにいるのでお姫さん本人はその怖い笑顔を見る事なく、恐怖に顔が引きつるロヴィーノを不思議そうに見る一日目。
そして…さらに恐ろしい事に…ただレシピを教えればいいのかと思っていたら…ジャスティス最強の大切な大切な恋人様は…なんとすさまじい料理の腕だった。
初日にして爆発する鍋…。
廃墟と化す調理場。
幸い調理場を貸してくれていた日和はおっとりとした気の良い調理人で、なんと桜を呼んで来てアーサーの怪我をきっちりなかった事にしてくれただけでなく、キッチンも原状復帰してくれて
「大丈夫っ!また壊してもまた修理はすぐしますからね。頑張って下さいね」
と、きらきらした笑みで言ってくれて、その優しさに泣きそうになった…というか、アーサーと2人で泣いたところを、『可愛いから記念に』と、なぜか写真に撮られた。
こうしてなんとかアーサーに怪我をさせたことはバレずに返し…2日目、3日目も同様で…1週間経ち、なんとかクッキーを焼くまで持って行った。
というか、正確には全部やらせるのは無理と方向転換。
共同作業にしよう、分担しようと言って、クッキーの型抜きをして鉄板に並べるだけやってもらうということにする。
そして完成品を作る予定の今日…昼食の待ち合わせに来たアーサーを見た瞬間のロヴィーノの感想…
………
………
………間に合った………
命拾いしたっ!!!!
最初の日以来、送ってくる時の笑顔が怖い…から、笑顔が消えて単に怖い顔に……
日を追うごとに殺気が増え……
調理中ふとアーサーに視線をやると、アーサーからは見えない首の後ろなど、非常に目立つところに、まるで牽制のように紅い痕がめだつように…
そして最終日の今日は、アーサーの全身からふわりと香るギルベルトのコロンの香り。
これ以上、恋人を拘束するなら月のない夜は無事に歩けると思うなよ?という意思表示な気がヒシヒシとしてきた。
自分よりもよほど厄介な奴に捕まってんじゃね?と、ご機嫌でクッキーの型抜きをするアーサーを見て思うが、そんな事を言った日には、翌日、基地内で屍を晒していそうな気がするので、ロヴィーノは空気を読んでその言葉を飲み込んで、オーブンの温度の確認をする。
(怯えるロヴィ…かっわかわええわぁ~)
(…お前なぁ……)
と、こちらは棚の影から覗く組。
主にアーサーから漂うギルベルトの香りとアーサー自身の料理の腕に青くなるロヴィーノを見てうっとりとするアントーニョ。
好きな相手が青くなる様子に悦ぶアントーニョにギルベルトは呆れたため息をついた。
自分はよくドSだのなんだの言われるが、実は大切な相手は絶対に苦しめたくないし、自分の意に沿わない状況になっていたとしても、相手だけは幸せに健やかにいて欲しい派なので、その嗜好性は理解に苦しむ。
とりあえずアントーニョと合流して2人をつけて辿りついた先は調理場の奥。
ロヴィーノとアーサーはそこでどうやら菓子を焼いているらしい。
自分に言えば教えてやるところだが、おそらく自分にくれようとしているのだろうから、知られたくはなかったのだろう…と言う事は想像に難くない。
…が、その、自分にプレゼントしたいという気持ちは嬉しいものの、やっぱり恋人が他の男に物を教わっていると言う事が面白くないと言うのは、自分はアーサーに関しては本当に心が狭いのだろうと思う。
ぺったんぺったんと楽しく型を抜いている恋人に隣で指示をしつつフォローをいれるのは自分でありたい。
まあ…遠隔系の能力者なので自分がここに居る事などお見通しで、自分のそんな性格もお見通しなくせに楽しげに型抜きにいそしんでいる恋人様の方が、実はドSなんじゃないかとギルベルトは思わないでもないのだが……
チン…とオーブンが第一回目のクッキーの焼き上がりを告げて、ぷーんと良い匂いが漂ってくる。
無防備に鉄板に手を伸ばす恋人に、――あぶねえっ!!と、思わず飛び出して行くと、ピタッと止まる手。
驚きに目を丸くするロヴィーノとは対照的に、してやったりと可愛らしく悪戯っぽい目を向ける恋人は、ゆっくりと鉄板から焼き立てのクッキーを手に取ると
「ひとのこと尾けたりした罰。熱いぞ?」
と、焼きたてのクッキーを一つ、ギルベルトの口に放り込んだ。
あちっ!と、思わず口を突いて出るが、いったん手に取りゆっくりと口にし直すと、それはとても甘く優しい味がした。
「ん~…ちょっと嬉しかった…から?」
そうしてばれたところでアントーニョも出てきて、焼きたてのクッキーでお茶会。
ギルベルトにと焼いたくせに、あ~んと口を開けて強請る恋人は可愛い。
本当に…小鳥さんのような愛らしさに色々がどうでも良くなるが、一応事情を聞いてみれば、冒頭の言葉。
「嬉しいって何が?」
とさらに聞いてみれば、
「何をしてるかわからなければ気になるし…何をしているかわかれば、俺が料理得意じゃないのは知ってるから、お前さらに気にするだろ?
お前がいつもいつも俺の事考えてる…それが嬉しい」
にこりと小悪魔の笑み。
ああ、そうだった。
ギルベルトの可愛い恋人は、いつも不器用で恥ずかしがり屋なくせに、たまにとんでもない小悪魔に変身するから侮れないのだ…。
不覚にも赤くなって片手で顔を覆うギルベルト。
おお~と感心するアントーニョ。
その影で――こういう台詞を照れなく言うのが惹きつけるポイントだと思うぞ?と、こっそりロヴィーノに耳打ちするアーサー。
絶句するロヴィーノに――夜の諸々以外ならいいんだろ?といたずらっ子のような笑みを浮かべる。
――もしかして…全部確信犯だったのかよ、こんちくしょうめっ!ギル怖すぎだったんだぞっ!
と、同じく小声で耳打ちするロヴィーノに、
――なんなら、俺もアントーニョ煽ってやろうか?
と、答えるアーサー。
それでチラリとアントーニョに視線をやって…
(直情型のこいつがギルの立場に置かれたら……?)
と、理性的と言われているギルベルトでもああだったのにと、想像したらあまりに恐ろしすぎて、
――止めてくれっ!ぜえぇったいに止めてくれっ!!
と、ロヴィーノはブンブンと首を横に振った。
結局色々がうやむやになったが、その後、戦況の悪化と共に、ブレイン、フリーダム双方の協力体制も強固になる事が求められた事もあって、2人の仲はよりちかづいていくことになる。
そう…その第一弾となる事件が、このあとすぐ、起きる事になるのであった。
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