着替えてラフな格好をしていると、ますますあの子の面影が感じられて、スペインもいつもよりも数段柔らかい口調になる。
「あのな、自分に聞きたいことがあって来てん。
ゆっくりお茶飲みながらでええから聞いてくれへん?」
幼子に言うように少しゆっくり目に柔らかい声音で言うスペインに、イギリスは少し不思議そうにこっくりとうなづいた。
と、スペインは大事に持ってきたカードをイギリスに差し出す。
それを一目見て、イギリスは今度こそ本当に驚いたように目を丸くした。
「これ…俺のカードだ。
日本やカナダに何か贈る時用に使ってるんだけど……何故これをスペインが?」
カードとスペインを交互に見比べて言うイギリスの言葉に偽りの様子は見えない。
「親分な、2週間前にこれと一緒にアメリカから卵を預かってん。
アメリカいわくその卵はフランスが自分の家に忘れてきてもうたから親分に渡したってって言うたもんで、アメリカは自分の家から持ってきたもんらしいんやけど…」
「2週間前……」
イギリスは何やら思い当たることがあるようで、腕組みをして考え込んだ。
「なんでもええねん。その卵のことについて知りたいんやけど…」
とスペインが言うと、イギリスは少し困ったように眉を八の字によせた。
「お前は信じるかわからねえけど…このカードを書いたのはうちにいる妖精さん達だ。
俺、実は2週間前、アメリカとちょっと揉めてから記憶が飛んでて気が付いたら今朝だったから、その間に何が起こったのかはわからないんだけど…卵についてはたぶん彼女たちに聞けばわかると思う。
ちょっと待っててくれるか?」
「おん」
イギリスが立ちあがって庭へと続くバルコニーのドアを開けて外に出る。
2週間…スペインがアーサーと過ごしたのも、イギリスの記憶が飛んでいるのも……。
なんだかわかってきた気がした。
歴史にifはないわけなのだが、もし自分がもう少し早く大きく強くなっていて、生まれたばかりのイギリスを拾ったなら……生まれたばかりでなくても、せめてフランスにだまされる前のイギリスをみつけて拾っていたら?
いや、まだ遅くないんじゃないだろうか。
驚いて丸く見開かれた時の大きな目も、困った時に寄せた眉の感じも…あの子は確かにそこにいる。
どこぞのあほうに騙されて歪んでしまった部分は、これから可愛がって可愛がって可愛がれば戻るんじゃないだろうか…いや、戻してみせるっ!
フランスはあとで殴り倒すとして、あの嬉しそうに揺れながら食べるあの子をもう一度見るために、とりあえずは料理を作ってやって、一緒にシェスタをするところから始めようか。
イギリスが妖精達に事の顛末を聞いて戻ってきた時、スペインはリビングにはいなかった。
そして漂ってくる美味しそうな匂い。
ここ最近いつも嗅いでいたような、どこか懐かしい料理の匂い。
――アーサーの好きなご飯いっぱい作ったったから、たんと食べ。
と、匂いを追って足を踏み入れたキッチンで当たり前にごちそうを並べるスペインに、イギリスは自分が話すまでもなく、スペインが全てを察した事を知る。
うあぁあ~~と逃げようとするイギリスの腕をガシっとつかんで食卓へつかせるスペインと目の前の美味しいご馳走から逃れるすべもなく、ラテンの本気にイギリスが陥落するまでさらに2週間。
全員集合の世界会議でフランスがわけもわからずスペインに張り倒され、スペインがイギリスを抱え込んで馬鹿っぷるぶりを全世界に知らしめるまで、さらに2週間。
それからは2週間過ぎても2年間過ぎてももっともっとず~っと長い時が過ぎても…世界の国々を巻き込みながら、二人は幸せな馬鹿っぷるとして暮らしていくのであった。
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