アーサーが消えた夜…アーサーの描いた絵を前に一晩眠れず泣いて過ごし、スペインはふとその横のカードに気付いた。
アーサーの卵と一緒にもらったそのカードも、不思議と消えずに残っていたらしい。
【可愛いウサギの卵です。愛情をいっぱい注いでくれれば孵ります。
2週間で帰るのでそれまで目一杯可愛がって育てて上げて下さい。】
まじまじとそれをながめているうちにふと脳裏をよぎった疑問…。
誰かが確かにこのカードを書いて自分にアーサーを託したのだ。
アーサーはどこから来て、何故2週間だったんだ?
ああ、悩むのなんて自分には似合わない。
とりあえずアメリカはイギリスの家からアーサーの卵を連れてきたらしい。
おりしもイギリスにそっくりのウサギだったわけだから、イギリスに無関係ということはないだろう。
よしっ!明日はイギリスに行こうっ!!
思い立ったが吉日とばかりに、スペインは朝、イギリス行きの飛行機のチケットを取って、空港で上司に今日休む旨をメールする。
もちろん…許可がおりないのは承知の上の行動だ。
――堪忍な~。
と心の中で手を合わせながらもサボることに対してのためらいは微塵もない。
こうしてイギリスに降り立ったあと、フランスにイギリス邸の場所を聞き、イギリスの家に向かう。
イギリスに連絡を入れようかどうかは迷ったのだが、万が一イギリスが何か知っていてスペインに教えたくない場合、連絡を入れれば避けられてしまう可能性もあるので、帰ってくるまで待つ覚悟で、連絡をいれずに自宅へ向かった。
そして待つこと数時間。
ワーカーホリックと噂されるイギリスのことだ。
夜中になるのも覚悟の上だったが、思いのほか早く、夕方頃の帰宅でほっとした。
プライベートで行き来するような仲ではないので、いぶかしげな目で見られたが、一応紳士を自認するだけあって、遠来の客を追い返したりはしないで、中に入れてくれる。
こうして初めて足を踏み入れたイギリス邸はなんともファンシーな空間だった。
なにしろ仕事でしか会わなくなって幾星霜なので海賊のイメージしかなかったのだが、門から自宅までの道の両サイドは綺麗なバラに囲まれていて、ところどころに可愛らしい陶器の置物が置いてある。
イギリスってこんな奴やったん?と、認識を新たにして踏み入れたイギリスの自宅内はもっとすごかった。
ところどころに可愛らしい花々をモチーフにした刺繍のタペストリやら人形やらが飾ってあり、通されたリビングのテーブルにかかっている見事なレースのテーブルクロスは、なんとイギリス自身が編んだものだという。
常々、こんな可愛らしい顔で海賊行為かい…と思っていたので、むしろこちらの方に妙に納得してしまう。
紅茶をいれてくるから待っていろと言われてリビングを見物していたが、やがて飽きて、悪友達の家ではよくそうであるように、帰宅直後の家主は着替えもしたいだろうし、茶を運ぶくらいはしようと、リビングの続きにあるダイニングの向こう、キッチンへと足を向けた。
そこでは何故か機嫌が良さげなイギリスが鼻歌を歌いながら紅茶をいれている。
それにスペインは驚いてその場で立ちすくんだ。
いや、イギリスだって鼻歌くらいは歌うとは思うが、問題はその歌だ。
スペイン語…というのは偶然という可能性もあるが、実はその歌はロマーノが幼い頃によく寝かしつけるのに歌ってやった、スペインの自作の歌なのだ。
同じ子分でもオランダやベルギーはある程度の年になってから引き取ったので、歌ってやったのは子分の中ではロマーノにだけで、その他その歌を知っているのは自分で作って歌ったスペインと………そう、それを久々に小さい子を引き取ったのもあって久々に歌ってやったのを日々聞いていたアーサーだけのはずだ。
どういうことなんだ?
イギリスは別にスペインが訪ねてきた時も特に変わった様子は見せなかったし、驚いた風もなく、ごくごく普通だった。
突然の訪問であったにもかかわらず焦った様子もなかったし、隠しごとをしているようには見えない。
ロマーノがわざわざそれをイギリスに聞かせて見せるということもまずないだろうし、どうなっているのだ?
そんなことを思っていると、茶の準備ができたのか、トレイを持ってくるりと振り向いたイギリスはそこに佇むスペインに驚いたようで、初めて小さな悲鳴をあげた。
そこで改めて見る、まあるい大きなグリーンアイ。
真っ白な肌にバラ色の頬。
小さな唇にいたるまで、どこかあの子の面影がちらつく。
とりあえずそれでも驚いているイギリスにここにいる理由は説明しなければ…と、手伝おうと思ってきたのだと言うと、イギリスも納得して、トレイをスペインに任せて着替えに行った。
その間に自分自身も何をどう言おうか考えをまとめようと、スペインはトレイを手にリビングに戻る。
持参したのはウサギの模様のカードとアーサーの絵。
おそらく隠す気はない気がするので、なんらかの情報は得られる気がする。
そしてイギリスがリビングに戻ってきた。
0 件のコメント :
コメントを投稿