うさぎのたまごをもらった親分の話9

とても幸せな夢を見ていた。

物心ついた時には害され怯え…逃げて隠れて…戦っていた。
そんな自分が保護され愛され慈しみの中で育てられる夢…。


最後の記憶はアメリカが怒って帰ってしまったところで途切れていて、気づいたら2週間もたっていて、しかも寝た覚えもないのにベッドで寝ていた。


せっかくの休暇が全部なくなってしまったということに対して残念だという気持ちはない。

だってすごく幸せな気分で目が覚めた。

ベッドサイドで妖精さん達がきゃらきゃら笑っていたところをみると、きっと落ち込んだ自分を強制的に眠らせて、幸せな夢を見せてくれたのだろうと思う。


あれは誰をイメージしていたのだろうか。

優しく頭を撫でてくれる大きな褐色の手。
ローマ爺あたりなのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。

目覚めてしまって残念で寂しいという気持ちはあっても、おかげさまでアメリカと喧嘩をして落ち込んでいた気分はふっとんだ。


こうしてすっきりと目覚めて久々にオフィスへ顔を出し、まだ休暇中の人間も多いということで回せる仕事は少なくて、定時で自宅への道をたどる。

割合と早い時間ということもあって久々にちゃんと夕食でも作ろうかとマーケットによって買い物をして、無意識に食材をかごにポイポイ放り込み、会計が終わってふと思う。

こんな食材で料理をしたことがあっただろうか?

なぜ買ったんだ?


そう思った時にぼんやりと、ああ、夢でこんな食材を使った料理を食べたんだよな…と、思い出す。

馬鹿げている。
まったくもって馬鹿げている。

自分で調理できない食材を購入してどうするのだろうか…。

まあ…でも買ってしまったものは仕方ない。
近々隣国の髭を呼びつけて何か作らせよう。

そんなことを考えつつも機嫌よく帰宅の途についたイギリスは、自宅の門前に珍しい客がいることに目を丸くした。



「スペインじゃないかっ!どうしたんだ?今日は何か急ぎの仕事でも?」


はるか昔の一時期には多少親しくしていた時代はあったが、現在はプライベートで行き来するほど仲良くもない相手なので、自宅を知っていたということ自体が驚きだが、髭にでも聞いたのだろうか…。

そんなことを思いながらも、紳士としては遠来の客をもてなさないわけにもいかない。


「まあ入れよ」
と、ドアを開けて中に促すと、スペインは神妙な顔をして中に入った。



「今紅茶をいれてくるから、話はあとでな」

と、イギリスはとりあえずスペインをリビングに通すと、自分はスーツに仕事鞄を持ったいでたちのままキッチンへと向かい、紅茶の準備をする。

ひどく思いつめた顔のスペインが気にならないと言えば嘘になるが、今日はとにかく心が軽い。

覚えている限りで一番最近…そう、あのアメリカと喧嘩をした日に出したまま、まだ戸棚にしまっていなかったお気に入りのティーセットを、厄落としにと使うことにして、しかしあの日とは違う紅茶を用意する。

しゅんしゅんとやかんのお湯が沸く音がなんだか楽しげで、思わず鼻歌が口をついてでた。

そして、あれ?と思う。

英語ではないスペイン語の歌であるそれを、いつどこで知ったのだろうか…。

ずいぶんとよく聞き歌っていた気がするのだが、いつというのも思い出せない。

決して嫌な感じはしないのだが、今日の自分は自分でも不思議なことだらけだ。


まあそのあたりは一人になってゆっくり考えようと、イギリスが紅茶を持ってリビングに戻ろうと振り向くと、そこに何故だか驚いたような顔をしたスペインが立っていた。


「うあっ!どうしたんだ」
と、イギリスのほうが驚いて聞くと、茫然として立っていたスペインはハッとしたように

「ああ、運ぶのとか手伝おうと思うて。自分、鞄とか置いてきたいんちゃうかなと…」
イギリスの手からトレイを取った。

そう言えばそうなのだが…紳士としては…と一瞬思ったが、

「フランやぷーちゃんとこに突然訪ねた時なんかはいつもそうやから、癖になっとんねん」
と言われて、ああ、そういうものなのか…と、思い直して、

「じゃあリビングまで頼む。鞄置いてすぐ着替えて戻るから」
と、任せることにした。

急いで自室に戻って鞄を置き、あの様子だと別に公式の仕事というわけでもなさそうなので、スーツをハンガーにかけ、私服に着替える。



そしてリビングに戻ったイギリスにスペインは一枚のカードを差し出した。




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