青い大地の果てにあるものGA_13_1

――あの女が来るっ!!

欧州支部の本部吸収に伴って、欧州支部ブレインの女性部長が本部に転属になる…

その情報はブルースター本部内を駆け巡った。


「ガチかっ?!!」
と、うんざりした顔のギルベルトに

「本当に?!」
と目を輝かせるエリザ。

女性部長というだけでも珍しく、色々噂の絶えない人物ではあるのだが、その両ベテランジャスティスの反応でその人物がどういう人物かわかる気がする。



「えっと…欧州支部のブレイン部長…だよな?
確かに二つの基地の2人のトップが一つの場所にって難しそうだけど…
そんなに大騒ぎする事なのか?」

トップ会談と言う名目のいつものランチ会でロヴィーノは不思議そうに首をかしげた。


なんのかんの言って元ブレイン本部長の祖父の元で育てられたおぼっちゃまだ。
支部周りなどしたこともなく、支部から誰か来ても応対などさせられた事もない。

だから当然欧州支部部長と接した事などあるはずはなく、逆に一般部員からの叩き上げで平部員時代は世界各国を回らされたアントーニョに、その人となりを尋ねたのは、まあ不思議なことではない。

「あ~…まああれや、ロヴィはなるべく近寄らんようにしといたほうがええわ。
なんやったらフリーダムに逃げて気ぃ?」

「へ??」

逃げないといけないような相手なのか?

書類を見た限りでは肉感的な美女である。
特に権利意識が強くていちいちつっかかるキャリアウーマンには見えないのだが……

そう言うと、アントーニョは大きくため息をついた。

「あ~…そういう意味では…な。
でもあんま近寄ると危ないで。
……フランの実の双子の姉ちゃんでエリザの親友や…ってことで察したって」
と苦笑。

なんとなく、なるほど…と思う情報ではある。





同時刻…ギルベルトの部屋で同じような忠告をアーサーもギルベルトから受けている。

「ぜってえに1人で側に寄るなよ?食われるからな?」
と、こちらはもっと必死感満載だ。

そしてアーサーの方はなにしろ広範囲を受け持っていた忙しいジャスティスだったのが会ったことのない理由だったので、ロヴィーノと違って世慣れてはいる。

「ふ~ん?お前は食われたのか?ポチ」
と、ニコリと笑顔の対応だ。

それにうっと言葉に詰まるギルベルト。

「…逃げた」
「…………」
「…………」

「なんだ、その間は?」
と問えば反らされる視線。

「ポチ?」
「……女殴るわけにいかねえから……」
「うん?」
「…攻撃特化の跳躍力フルに駆使して逃げた」
「うん…」
「……後ろで……トーニョ捕まってた気がしたけど……」

ぷはっ!とアーサーは吹きだした。
それを憮然とした顔でギルベルトが見ている。

なるほど、妙に後ろめたそうな顔をしていたのは友を見捨てたのが理由だったか。


「まあ…いいんじゃないか?
気持ちの良い一夜を過ごしたんだろうし?」

と笑いながらフォローをいれれば、ギルベルトは

「翌朝…あの体力馬鹿がげっそりしてたけどな…」
とはぁ~とため息をつきながら肩を落とす。


「とにかく、エリザの仲間のくせに、自分が参加するのも好きっつ~規格外だから、なるべく目を合わさねえようにして、絡まれそうになったら全力で逃げるぞ?」

と、もうこれイヴィルと対峙している時より真剣なんじゃないだろうか…という表情でガシっと肩を掴んでくるギルベルトに、

「ん~、じゃあ捕まっても勃たないくらいまでやっておくか?」
と、アーサーはその高い鼻先に口づけて、さりげなく寝室へと誘導した。




こうして評判、噂が走りまわった数日後……

「なあに?男性陣、なんでそんなに距離取ってるのよ?
お姉さんイヴィルじゃないのよ?」

と、到着早々嬉しそうに周りを囲むエリザを始めとする女性陣を尻目に、数メートル先で身構えている男性陣。

少し高めの背の女性には珍しく猫背になる事もなく、ピンと背筋を伸ばしてハイヒールまで履いている。

艶やかなはちみつ色の髪は背まで伸び、毛先を綺麗巻いていて、体型はと言うとこちらも見事なまでに出るところが出てひっこむところが引っこんでいる完璧な美しさ。
美女かと言えば間違いなくゴージャスな美女である。

事前情報がなければロヴィーノだって他の男性陣だってこぞって寄って行っていただろう。

しかしながら…食われそうになったギルベルトや実際に食われたらしいアントーニョあたりからの注意喚起で若者組のジャスティスやロヴィーノは距離を取らされている。


「まあ、良いけど…」
はぁ~っと綺麗なネイルの指先でくるりとはちみつ色の毛先を弄ぶフランソワーズに、

「まあ…ちょっとばかり武勇伝が広まりすぎちゃったみたいね」
と、笑う双子の弟フランシス。

しかしそこは美女なだけではなく、女ながらに志部長まで上り詰めたデキる女だ。
腐る事なく必要な情報をまず伝えてくる。

「とりあえずね、最初に言っておくわ。
部署なんてキッチンと一緒。
主が2人いると揉めるし、ロヴィーノ君だってベテランの支部長がいたらお仕事にならないでしょうしね。
お姉さんは外の研究を中心にやるから、内部の仕切りには手を出しません。
…ってことでいいわね?」

フランシスと似た少し甘さを含んだ綺麗な笑みで、パチンとロヴィーノに向かってウィンク。

なまじゴージャスな美女なだけに、白衣をまとっていても華やかで、初対面のロヴィーノは思わず見惚れる。

そして赤くなって頷くロヴィーノをアントーニョが後ろに隠した。

「赤くなっちゃってか~わいい♪
なあに?トーニョ焼きもち~?」
と楽しげに笑うフランソワーズに

「この子に手ぇだすのはやめたって!」
と、珍しく余裕なく言うアントーニョ。

それにフランソワーズはチッチッチッと綺麗に塗った指先を振った。

「もぉ~、言ったでしょっ?
お姉さんは外中心だから、誘われない限りはブレイン本部内には手を出しません。
今回このタイミングで欧州支部が合流したのは…まあ豪州&極東の二つの支部が壊滅したのもあるけど…遠征に付いて行こうと思って」

その驚くべき宣言に

「はあ?お前正気か?!」
と、それに口をはさんだのはギルベルトだ。

「ん、本気よ~。
だって敵の研究施設とか、イヴィルの生態とか、ジャスティスだけじゃわかんないでしょ?
誰か優秀な科学者が随行しないとだけど、現地で判断して決断する必要も出てくるかもしれないから、ある程度権限のある人間でないとだし?
本部長が動くわけにもいかないし、あと残ってて機能してたのはうちの欧州支部だけだったし?
だから、ブレイン欧州支部長のお姉さんなら適任でしょ?」

「フランソワーズ……」

正直厄介な奴が来るとしか思っていなかった自分をギルベルトは恥じた。
自分ですら不安で気味が悪くて恐ろしさを感じる任務だ。
それでも指名されて行かなければならない立場だから行くというのに、自ら志願して随行するなんて、たいした使命感だ。

…伊達に…支部長じゃねえんだな…

そう思った次の瞬間……

「今度移動手段変わって、大型バス改造したプチ移動ホテルなんですって?
これ乗ってみない手はないわよね~。
普段と違う場所で色々開放的になって起こる一夜……
BL的にでも自分とでも、どちらにしても美味しいわぁ~」

と、はしゃぐ美女に、
…やっぱりこいつはフランソワーズだ……
と、眉間に手をあてて空を仰ぐことになった。




こうして強力な助っ人を迎え入れたブルーアース本部。
最初の遠征地はすでに決定、フリーダムの手で調査中。

調査が終わり次第、初の遠征が始まる事になっている。

場所は日本。
飽くまで奇襲なので人員はジャスティス4人+研究者フランソワーズ+運転を含めた雑用を担当するフリーダム随行員10名。


決行は半月後とあいなった。





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