初遠征2
「「「日本かぁ...」」」
遠征出発の日、車に乗り込んで極東出身3人組はそれぞれの思いを胸につぶやいた。
「日本列島転戦横断の旅なんだよな?少しは戦闘以外の事やる時間もあるといいな」
初の遠征。移動用車両の初出動。
色々が初めての試みである。
その共有スペースである一階のリビングに集まるジャスティス4人とブレインから研究者として同行しているフランソワーズ。
その全員に紅茶を淹れて配りながら、アーサーが笑顔で冒頭のように言う。
しかしバイルシュミット兄弟の顔は暗い。
「今回は4人中3人にとって久々の帰郷なのよね?
なんでアーサー君以外そんなに嫌そうなわけ?」
と、その笑顔のアーサーとは対照的にそんな風にひどくテンションが低いギルとルートの兄弟を見て、フランソワーズが不思議そうに聞く。
その問いかけに対して、兄弟は心底憂鬱そうな表情で
「「…良い想い出ないから近寄りたくなかった」」
と、口を揃えた。
ルートがそういう表情をするのは良くあることだが、今回はギルまで眉根を寄せてため息をつく。
「…なんで?まだ実家とかもあるんでしょう?
なんなら寄る時間だって作るわよ?」
と、さらに言うフランソワーズに
「やめてくれ!」
と、ギルが珍しく吐き捨てるような言い方をした。
微妙になる空気。
あまりに機嫌の悪いギルに、どうして良いかわからないと言った感じで、エリザに助けを求めるように視線を送るフランソワーズ。
視線を送られたエリザとて、ギルとの付き合いは長いがあまり実家について聞いた事はないので、困ったように眉尻を下げる。
そこで普段とは逆にフォローに入ったのはルートだった。
「その実家にな…良い思い出がない。
あの家の跡取りはなんというか…辛かった」
「そうなの?どんなふうに?」
さらに聞いてくるフランソワーズ。
フランシスの姉にしては空気を読まない印象だな…と、ルートは内心ひそかに思う。
まあ、患者から病状を聞きだして相談しつつ治療を進めなければならない医者と、データや情報を分析構築する科学者の違いなのかもしれない。
それでも“あの家”に関しては、普段は何でもフォローを入れてくれる兄は自分よりも余裕がなくなる。
かといって皆不慣れな初遠征に意志の疎通が出来ていなかったり苛つきを持ったまま臨むのはよろしくないだろう。
そんな判断から、ルートは彼にしては珍しく積極的に応対を試みる。
「そうだな…本家の棟梁はお館様と呼ばれていて、みんながお館様がいれば大丈夫だと思っている。そして何でも大丈夫にしなければならない家だ。
もちろん跡取りもそれに準ずる。
俺は跡取りとして家の事情に拘束された期間は短かったが、兄さんは生まれてからブルーアースに来るまでずっと振り回され続けたからな。
それどころか俺が生まれて勝手に跡取りから降ろされてからも、家臣の子どもである次代の家臣からは相変わらずお館様扱いで、抜け出られていない感がある…」
そりゃあ重いだろう…と、また、ため息をついた。
これでまあ終わりだろう…そう思ったその話題だが、何故かフランソワーズは終わらせる気がなかったらしい。
「そう。まあ旧家ってそういうものかもね。
ね、そういうおうちだったら、もしかして婚約者とかもいたりして?」
と、あまりに意外な方向に続けられて、ぶほっとルートは口にした紅茶吹きだしかけた。
「大丈夫か?これ使え」
と、苦笑しながらそのルートにタオルを渡してやるアーサー。
「元々親が決めたやつだし、俺がブルースターに行った時点で弟の婚約者だから、マジ関係ねえ」
と、むせるルートの代わりにむすりと不機嫌に答えるギルベルト。
あ…ちょっと怒りかけてる……と、付き合いが長いエリザは笑顔のまま固まった。
フランソワーズにとっては極東の“お館様”や旧家の諸々はデータとして興味深いのだろうし、特に元々恋愛や婚姻関係の話は大好きなのは、彼女とも付き合いが長いエリザは知っている。
しかし今はまずい。これはまずい。
そろそろ止めなきゃ…と思って止めに入ろうと思ったのだが、それよりフランソワーズの方が早かった。
「そうかしら?そんなに簡単に割り切れるもの?
生まれてからずっとこの人のお嫁さんになるんだって思って育って来てるんでしょ?
それがその人が駄目になったからって急に別の人の妻って、気持ちの切り替えが大変じゃない?
あ~、でももしかして側室とかいたりする、そのあたりの割り切りがすごい環境だったり?」
うあああ~~!!!!
エリザは頭を抱えたくなった。
詳しい事は聞いていないが、本部で唯一ギルベルトよりもジャスティス生活が長いだけにさすがに知っている。
ギルベルトは振り回されて育って、そのあたりの話はトラウマなのだ。
「…お前…いったい何が言いたいんだ?」
という声は静かだが、呆れているというよりも激怒している。
「それが今回の任務に何か関係あんのか?
あるっつ~んなら、俺は出ねえ。
エリザとルッツでやってくれ」
それだけ言って、口を挟む間も与えずに立ち上がって2階へと消えて行った。
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