当日…プレッシャーに耐え切れずに午後は半休を取って帰宅した。
自分がこんなにメンタルが弱いとは思ってもみなかった。
だが考えてみれば、十数年も友人と自分で思っているのは3人きりだったのだ。
その構図が変わると思えば、さすがに宇髄でも緊張くらいはする。
錆兎は変わるならこの1週間ほどで知らしめるように態度を変えているだろうから今回の諸々で今更関係は変わらないだろうが、義勇はどうだろうか…
実際、錆兎がどのように義勇に接してどこまでを説明して、今二人の関係がどうなっているかなどまでは聞いていないのだが、錆兎の説明の仕方によっては宇髄も共犯だ。
話し合いと言うか報告会と言うか、今日の集まりで実弥は暴走するだろうし、なんなら暴れて物くらい壊すかもしれないから、割れても問題のない器か、あるいは割れないプラスチックの食器を用意した方が良いのだろうか…。
酒は酔わないように弱めにするか、あるいはさっさと酔いつぶすために強めを用意するか、どちらにしようか…。
滅多にない楽しくないことが判明している飲み会のために、宇髄はそんな現実逃避のようなことを考えながら色々準備にいそしんだ。
そしてどれだけ憂鬱でも時は過ぎ、会社の終業時刻になる。
まず錆兎からは
──これから帰宅して料理を積み込んで向かうから1時間後くらいになる。また連絡する。
と予定が送られてくる。
相変わらず律儀な男だ。
一方で実弥からは電話一つなく、いきなり自宅チャイムが鳴らされた。
「宇髄、来たぜェ~。冨岡はもう来てるかぁ?」
とインターホンで応対すると上機嫌で言う。
手土産どころか連絡も挨拶もなしか…とはもう今更言わない。
宇髄はため息交じりにドアを開けると、
「冨岡はあと1時間弱くらいで錆兎と一緒に来る予定だ」
と実弥を居間へと促した。
「鱗滝と一緒に?
じゃあ、まだ罰ゲームだって言ってねえんだろうなァ。
もしかして今晩みんな揃ったところで言うつもりなのかもなァ。
ま、その方が俺には都合が良いしありがてえ」
と、宇髄に勧められるまでもなく、どっかりと奥の席…つまり上座に座り込んで、
「料理は鱗滝が持ってくるって言ってたんだったな。
じゃ、それまで何か乾きものと飲み物くれぇ」
と実弥が当たり前に言うのに、宇髄は呆れかえった。
突っ込みどころは色々あるわけだが…
まず、実弥の立場からすると、自分が協力してもらっている身で上座はありえない。
まあ宇髄は家主で色々出してくるためにキッチンと行き来をすることになるから下座でも仕方ないが、上座に座るのは錆兎だろう。
幼い頃からの付き合いで気を使う習慣がないというのもあるし、元々そういう常識のある人間ではないのだが、もう一人の友人、錆兎は己の事なら気にしないが、他人に対してならそういう気づかいは絶対に欠かさない。
前回の呑みの時も、飲み物も食材も宇随が用意するからと言ってあったし、そういう場合は錆兎が料理をする…つまり働く前提での招待なのだが、一応手土産として酒を一本持ち込んでいる。
百歩譲って何も持たずに動きもしないとしても、当たり前に揃うまでに何か飲み食いする物を寄こせはないだろう。
まあ…実弥の場合、自分がそれをやられても全く気にしないわけなのだが、宇髄と二人きりならとにかくとして、他の人間が居る所でそれをやったらアウトだと思う。
お育ちが悪いからではすまない。
社会に出て何を学んできたんだ?と言われても仕方がない。
二人きり、あるいは義勇と3人の時はそれを許して甘やかせてしまった自分も悪いとは思うものの、それを自分と親しい人間として第三者の前でやられると恥ずかしい。
まあ…前回の呑みや今回の企みなど、全てみっともないものをさらけ出しているのだから、今更と言えば今更だが…。
そういう意味では義勇の方は全て相手に言われるまで待つタイプなので、外すことがなくて害がない。
食べるのが下手くそで口元を汚しながら食べる事以外は、所作も丁寧で綺麗だし、なんとなくお育ちの良さがにじみ出ているタイプだ。
錆兎や煉獄はお育ちが非常によろしい上に実家が厳しいので、どこに行っても、誰と一緒になっても安心感が半端ない。
そんな二人と仲が良いという村田も、非常に空気を読むタイプらしいので、二人と居て遜色がないくらいのマナーは身に着けていることは予測される。
錆兎がそのあたりを紹介してくれると言っていたし、錆兎自身が深く付きあっているくらいの男達だから、おそらく良いやつらなのだろう。
そう考えると、今回のあまりに宇髄の立場とか義勇の気持ちを自分のためにガン無視する実弥の身勝手さを改めて目の当たりにして、もういいか…と、宇髄は思った。
常識やマナーが成っていなかろうと、別に自分が付き合っていくわけでなければどうでもいい。
あれだけ大切に思っていた友情なのに、冷めるのはあっという間で、一気に想いがなくなることに驚きながらも、宇髄はとりあえずこれまでは出さなかった安酒とコンビニで買ったポテトチップスを一袋実弥の前において、錆兎と義勇の到着を待った。
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