金曜の決戦日を迎える前々日の水曜の終業時、宇髄はスマホを取り出してアドレス帳を覗く。
そして、前回の飲み会ではつまみを作る食材をたくさん買い込んでおいたのだが、今回はどうする?と錆兎にお伺いを立てた。
──いったん自宅に戻って作りおいたのを積んで義勇と車で行くから飲み物だけで。
と返ってくる。
この返答だけで宇髄は色々考えてしまう。
いや、食材についてはわかった。
飲み物は酒もノンアルもたくさんあるから問題はない。
問題は…”義勇と車で行くから”と言う点だ。
実弥の計画通り、罰ゲームで決裂しているなら、二人連れだっては来ないだろう。
さらに言うなら、小学生の頃からの付き合いの宇髄や実弥がいまだ”冨岡”呼びをしているなかで、もう”義勇”と呼んでいるあたりで、なんとなくお察しだ。
さあ、錆兎がどう切り出して、それを実弥がどう受け止めるのだろう。
胃がキリキリするような日々を送る宇髄。
しかし同じ部署で同じ課の実弥は目に見えてご機嫌で、休憩時間にちらりと覗けば、スマホで某テーマパークの情報を調べていた。
まずまだ結果が出ていないうちに気が早すぎだろうという以前に、明らかに揉めやすい想い人との初デートにそこを選んじまうのか?と宇髄は呆れる。
そこは混んでいるのがデフォルトで、普通に恋人同士で行くと疲労やすれ違いで別れることが多いという場所だ。
相手がすごくそこが好きというならとにかく、義勇はおそらくそうではない。
むしろゆっくりすごせるほうが好みなんじゃないだろうか…
と、宇髄ですらわかる。
思うがまあ、実弥が義勇と付き合うことになったりして、二人がデートすることなど一生ないだろうから、わざわざ指摘して揉めることもないとスルーすることにした。
そうして、初デートかぁ…と思う。
錆兎なら義勇相手にどんなチョイスをするのだろうか…。
当日に向けての情報収集がてら、雑談のふりをして聞いてみる。
──なあ、さっき不死川が冨岡と付き合えたら初デートはDランド行きてえみてえだったんだが…
──ほお?
LINEでいきなりそんな話をしても、特に怒りも嘲りも動揺もした様子はなく、錆兎からは淡々とした声で返ってくる。
──もしな、お前だったらどこ行く?
──水族館。土曜に話してた時にイルカが好きだって言ってたから、日曜日に行った。
──展開早いな、おいっ!
さすがに驚いた。
いや、考えてみれば、土曜日に告白しに行ったとしたら、そりゃあ種明かしをして別れるんじゃなきゃ、日曜日にデートも当たり前なのか…
とは思うものの、相手は人見知りの義勇である。
よくすぐそんな展開まで持って行けたものだ。
というか…実弥が19年以上も作れなかった関係を、錆兎ならそんな一瞬で作れるのかと思うと、本当にそんな場合じゃないが感心するしかない。
──あの人見知り相手にこの短期間ですげえな…さすが社内一の人たらしだな…
そう感嘆の言葉を告げれば、錆兎は一瞬沈黙。
そして返ってきたのは
──たぶん…逆だ。義勇だからだな。
という言葉。
──特別な相手だから?
──いや、それはそうだけどそうじゃない。たぶん気が合うんだと思う。
──お前、誰とも気が合うんじゃね?
──表面上はな。俺は必要なら合わせられるけど合わせないで大丈夫な相手は少ない。
──なるほど。素のままで一緒に楽しめる相手はレアってことか。
──そういうことだ。だから自慢じゃないが、俺は恋人居ない歴イコール年齢だったぞ?
──マジかっ?!!
とんでもない事実を知ってしまった。
確かにモテるわりに恋人がいたという話は聞いたことがなかったが、いつも人に囲まれている人気者だったので、まさか今まで恋人がいたことがないとは思わなかった。
しかしまあ、恋人が欲しいから適当な相手と付き合うというタイプではないので、気に入った相手がいなければ誰にどれだけ言い寄られても独り身を貫く人間ではある気はする。
そう考えてみれば、そんな錆兎が恋人づきあいをすると決めてしまったというのは重い。
相手が実弥じゃなかったとしても、本気を出した錆兎に勝てる奴なんて早々いないと思う。
まあ…逆に錆兎がそこまで本気を出して付き合おうと思ったなら日本一堅固な壁になってくれるだろうし、義勇の側の安全と平和は守られるだろう。
ある意味宇髄が今回このゴタゴタに関わった目的は達成された。
とりあえず肩の荷はある程度降りた気分だ。
あとは当日を待つのみである。
0 件のコメント :
コメントを投稿