錆兎が居る時はいつも料理は錆兎に頼むことにしている。
宇髄も料理ができなくはないが、幼い頃から普通に食事を作っていて、現在、料理が趣味と言う錆兎に比べると手際も出来も敵わない。
無駄なプライドよりも食材の味を最大限引き出した旨い飯、旨いつまみが大切である。
今日は日本酒なのでメインのつまみは刺身盛りにしてもらおうと思って良い魚を何種類も仕入れておいたし、適当に放り込んである野菜その他も上手に使って、何品かは作ってくれるだろう。
本当に…こんなに嫌な飲み会なのだから、旨いものでも食わなければやってられない。
そうしてやがて出来てくる刺身盛りはツマまで手作りで、その他、野菜かごにあった大葉も使って期待を裏切らないレベルで綺麗に飾り付けられている。
その他にものど越しのいいように冷たく冷やしてしょうがを添えた焼きナスであるとか、持参した良い出汁と生麩を使った吸い物であるとか、あらかじめ宇髄が研ぐだけ研いでおいた米はその方が早いからと炊飯器ではなく鍋で炊いて、根性であおいで粗熱を取って、刺身の残りの切れ端と海苔で綺麗な手毬寿司になって出てきたのにも驚いた。
もうお前プロかよ、と、その美しさには目をみはるしかない。
どれも手をかけてくれたのが見て取れる。
そして見て取れるがゆえに、宇髄はそれが悲しくなる。
錆兎は常々、『料理は化学と愛情だ』と言っていた。
いわく、食材や調味料の配分を見極められることと、そのままでも食えるがひと手間かけることでより美味しく食べられる場合にその手間をかけてやる愛情が食わせる相手にあるかどうかで料理の旨さは決まるのだ…ということである。
つまり、今のこれは明らかに宇髄のために食える以上に美味しくするための手間をかなりかけてくれた、多大なる友情の産物ということなのだ。
だが今日、計画を遂行したら、もうこんな風に手をかけた料理を作ってはもらえないだろう。
他の人間ならとにかく、相手は錆兎だ。
公明正大清廉潔白を旨とする男である。
内向的な義勇を無駄に傷つけるような事に加担しろと言われれば、最悪怒って絶縁だ。
自分のことなら絶対にそんな風になることには手を出さないのだが、今回、実弥が義勇にしようとしていることはシャレにならない。
自分の幼馴染が一人、病むか最悪命にかかわる行動に走るか…とにかく人生を大きく狂わせる可能性が高いとなれば、もうどうしようもない。
実弥はやめる気がなく、義勇の方を逃がそうにも今回の諸々を暴露すれば宇髄は実弥の信頼を失うだろうし、そうすれば次回、実弥が何かやばい手段を取ろうとした時に伝えられずに義勇をかばってやれない。
何をやろうとしているかがわかっていて、宇髄はそれを邪魔はしない…そういう立ち位置でいないと、事前に危険を回避してやれないのである。
そうなると宇髄にできるのはもう、宇髄のあずかり知らぬところで…という形で、義勇を傷つけないであろう誰かになんとかしてもらうしかなく、そういう意味で絶対に信頼を置ける相手が錆兎しかいないのが今の絶望を引き起こしているわけだ。
案の定、聡い錆兎は罰ゲーム付きの勝負をとなった時点で、この普段はなかったメンツでの飲みの目的はそこにあると悟ったらしい。
冷ややかなため息とともに漏れる
──宇髄の優先順位はよくわかった。さあ、始めようか。
の言葉。
それに宇髄はもう自分の方が号泣したくなったが、実弥は錆兎が騙されていると思ったらしく嬉々としてカードを配り始めた。
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