──俺は以前、あいつに冨岡には近づいてくれるなって頼んだんだが…
宇髄の声音が少し変わった。
どこか伺うような…迷うような声。
それが実弥の胸をざわつかせた。
そしてその後に出てきた言葉はまさに最終宣告とも言えるものである。
そこまでははっきり言っていないが、その言葉の意味するところは義勇が錆兎と一緒にならないということは、不死川にとってのみのメリットであって、義勇にとってはデメリットであると言われていることは、鈍い実弥でもわかる。
──でもよォ!!
それは自分の態度が悪かったせいで態度を改めれば義勇を幸せにできるし、それで義勇のメリットになるはず!とそう主張しようとした実弥に宇髄は
「わあってる。今の時点でお前といても冨岡にとってメリット0どころかマイナスでも態度改めればプラスになるって言いたいんだろ?」
と、なだめるように言う。
そのあたりをちゃんと理解されていたことにやや安堵して、実弥は頷いた。
が、それでもダメだったらしい。
──あのな、人が幸せになるには二つの要素が必要なんだよ。
突然始まる話。
──二つの要素だァ?
と実弥が眉を寄せると、宇髄は所在投げに手にしたコーヒーの紙コップを揺すりながらため息をつく。
──幸せを感じることと、不幸を感じないこと。
と、その後に宇髄の口から出た言葉に、実弥はざわりと嫌な感覚に襲われた。
「幸せをプラス、不幸せをマイナスとして、双方のバランスでプラスなら幸せ、マイナスなら不幸せな状態って感じるのが一般的だ。
で、お前はなぁ…今はマイナスしかねえ。
もちろん今後改心すりゃあプラスも作れるだろう。
それができねえと断言はしねえよ?
だがそこでまあ頑張ってプラスを作ったとしても、日常でどうやってもマイナスは量産しちまうだろ?
そうするとプラマイだとマイナスにしちまうんだよ。
一方で、錆兎はプラスを作んのが天才的に上手い。
だけどな、それよりもすげえのは、圧倒的にマイナスの生産が少ねえことなんだよ。
だから同じどころか倍のプラスを作ったところで勝つのは厳しい。
以前お前のために冨岡と錆兎を離そうとしていた時は、冨岡はそこまで錆兎のことを知らなかった。
だからお前が必死にプラスを作りまくってマイナスを埋めればプラスになっていた可能性はあった。
けどな?
冨岡は錆兎を知っちまった。
でもって現在手にしているその幸せを取り上げてお前さんと一緒に居ろっつ~のは、取り上げた時点でプラス分がそのままとてつもないレベルのマイナスになるからな?
錆兎と一緒にいるようになる前ならお前次第でプラマイがプラスになる可能性が0じゃなかったとしても、知った時点でもう損失を補完することは絶対に無理なレベルのマイナスだ。
以前ならお前次第で錆兎はマイナスだったとしても冨岡とお前はプラスになる可能性は皆無ではなかったから協力するつもりだった。
錆兎も冨岡が自分が近づくことでストレスを感じる可能性が高いなら近づくことはしないって納得してたしな。
でも冨岡は錆兎を望んだし錆兎もそれならと受け入れて、この二人は現在安定したプラスで、たぶん二人の性格上、マイナスに転じることはまずねえ。
これを無理に引きはがしても、冨岡は一生プラスにならないし、錆兎もマイナスだ。
前回、俺は可能性が低くてもお前と冨岡、二人をプラスにするために、錆兎にマイナスをかぶってもらうよう説得した。
だが今回はこうなっちまった以上、お前一人だけの幸せのためだけに同じだけ大事なダチを二人も不幸にすることはできねえ。わかるよな?」
──わかんねえっ!!
理屈としてはわかる。
わかるのだが、それを認めてしまったら終わってしまう。
こんなところで終わらせられるほど軽い想いではないのだ。
ドン!とこぶしでカウンターを叩いて叫ぶ実弥に、にぎやかな店内ではあるが、近くの数人が少し驚いたような目を向けてきて、しかしすぐ興味を失ったように視線をそらしていく。
その時だった。
宇髄のスマホからなんだか重々しい音楽が流れてきた。
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