──あ…ちと電話。
と席を立とうとする宇髄の服の裾をちょいちょいとひっぱり
──ここで良くね?周りもうるせえし。
と言うと、宇髄は座りなおして、電話に出る。
──あ~…今駅前のマック。そそ。ぜんっぜん解決してねえけど…
と、意外にもずいぶんと気楽な口調で話している。
解決してないというのは別に実弥の事とは限らないが、駅前のマックというワードで、相手はこの場所を良く知っている人間…だろうと悟った。
だが、まさかこの状況で錆兎ではないだろうな…と思っていたら、
──え?お前ん家?良いのかよ?あ~、うん、ありがてえけど…。
と言ったあと、宇髄はスマホを手で押さえて、いったん実弥をふりむいて、
──お前、これから時間あるよな?
と確認を入れてくる。
なんだかわからないが、とりあえずこんな気分のまま帰宅するのは避けたいと思っていたので、実弥が頷いて見せると、宇髄は
──これから行くわ。なんか買ってくもんあるか?
などと言ったあとに電話を切って、
──ってことで、錆兎ん家行くぞ~!
と当たり前に立ち上がった。
そこまでの流れがあまりに当たり前のように決められていたので、なんだか驚いてしまう。
──マジかァ?!お前だけならとにかく俺も?!
と確認を取ると、宇髄は
──お前と話すのがメインなのに俺だけ行ってどうするよっ。
とカップに残ったコーヒーを一気に飲み干して実弥のものと一緒に重ねて捨てる。
そうして当たり前に
──行くぞっ!
と実弥を振り返って声をかけた。
──電話の相手…鱗滝だよな?
さきほど戻ってきた道をさらに戻りなおす。
その道々に一応確認すると、宇髄は
──こんな時間に受け入れ可能な家、他にどこにあるよ。
と頷いた。
そんなこと知らねえよと、それまで付き合いのなかった実弥からすると当たり前のことを言うと、
──あ~、お前付き合いなかったもんなぁ。あいつは結構来客ウェルカムだからよく行くんだよ。
となんだか楽しそうに笑う。
実際、楽しいんだろうなぁ…と実弥にもなんとなく想像ができた。
義勇に害を与えない限り、宇髄が言うように錆兎はマイナスを作らない。
そう親しくない実弥にさえ心地よい対応をしてくれる。
しかし、しかしだ。
そこでふと思い出した。
──なあ、
──ん~?
──良いやつなのはわかったけど、ならなんであの着信音なんだァ?
なんの曲かは知らないが、どう聞いても気の置けない楽しい相手からの連絡を告げるものではないんじゃないかと思う。
──あ~、それなぁ…
お前、変なとこ気にするよな、と呆れたように言いながらも、宇髄は教えてくれる。
「あいつな、たいていは電話をする前はLINEかメッセで今電話して大丈夫か聞くやつなんだ。
ようは…相手の都合をきちんと配慮するっつ~の?
でも時たま直で電話してくる時があってだな、そういう時はたいていすげえ急ぎか重要か…あるいは両方かの案件でな。
聞き逃したら色々な意味でやべえことになるんだわ。
今回の呼び出しみてえにな。
で、俺は知っての通り人気者だし?
電話かけてくる奴も少なくないわけだが、他のやつからの電話とは絶対的に重要度が違う錆兎の電話は、『絶対取れよ?重要だぞ?』って着信音を別にするだけじゃなく、ある種緊張感が出るような音にしてあるわけだ。
かといってアラームとかだと同席者や周りが何かの災害かと思ってぎょっとするだろ?
ってことで、ベートーヴェンの運命とかでも良かったんだけどな、たまたまあったシューベルトの『魔王』にしたんだよ」
魔王…そうか、あれは魔王のテーマなのか…。
と、クラシックに詳しくない実弥はそのワードだけを聞き取ってため息をつく。
もしかして…自分はこれから【魔王】に断罪されに行くんだろうか…。
殴られるのも蹴られるのも…とにかく物理的な暴力は慣れていて平気な実弥だが、錆兎の怒り方は本当にぞわぞわと…たとえるならホラーの世界に放り出されたような恐怖を感じる。
ああ、嫌だなぁ…と思っても、逃げたら余計に恐ろしい気がして、そこからは黙って宇髄の隣を歩き続けた。
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