そうしてしばらく待っていると、錆兎と義勇、そして宇髄の3人が店から出てくる。
幸せそうに笑って錆兎の腕に手をかける義勇。
いつも怯えたような顔しか見たことがなかったのに、まるで別人のようだ。
さらに言うなら、自分と義勇が一緒だといつも困ったような表情だった宇髄まで満面の笑みを浮かべているのを見て、ひどく裏切られたような気持ちになった。
──てめえ、俺のこと応援していたんじゃなかったのかよォ!!
と、すぐにでも飛び出して行ってその襟首をつかんで叫びたい衝動に駆られるが、今ここで騒ぎを起こせば誰だかわからないが自分に悪意を持っていて義勇を害そうとしているやつが逃げてしまう可能性がある。
そうしたらそいつをぶちのめして救出してやることで義勇の気を引くという作戦が失敗に終わってしまうので、短気な実弥もここはじっと我慢の子だと頑張って耐えた。
そしてそのまま3人を尾行すると、共に電車に乗って会社の最寄り駅を通り越して1駅の高級住宅街で宇髄を残して錆兎と義勇が電車を降りる。
義勇の家はこの駅ではないので、錆兎の家があるのだろう。
こんなすげえ場所に住んでやがんのかよォ!と下町にある自分の古い実家と一瞬比べてしまうが、そこいらの女たちと違ってあいつはそんなことで恋人を選んだりはしねえと、実弥は首を横に振った、
そうして電車の駅を出て楽し気に話しながら歩く錆兎と義勇の後ろをみつからないよう離れて歩く実弥。
駅前のショッピングモールの店は時間が時間だけにすでに半分ほど閉まっている。
が、今日は飲んできたのもあって買うものもないのだろう。
二人は開いている店に寄ることもなくそれらを素通りをして、大きな屋敷の立ち並ぶ住宅エリアへと足を向けた。
そのあたりの家々はどれも大きくて立派で、人通りが少ないのは時間帯もあるかもしれないが、おそらく車移動をする人間が多いのかもしれない。
門から敷地内の駐車場が見える家にはどこも高級そうな車が並んでいた。
なんとなく場違い感が満載で居心地の悪い空間。
義勇は…そんな風に感じないのだろうか…、
そういえば同じ学区ではあったけど、あいつんちはちょっと上品な地域だったよなぁ…
と、実弥はふとそんなことを思い出す。
義勇の実家は実弥の実家のある中小の商店の並ぶ商業地域から学校を挟んで反対側の、ここまですごくはないが近隣からすると少しばかり裕福な家庭の多い地域にあった。
ちなみに宇髄の家もそちら側だ。
初対面の時はそんなお育ちの良さと綺麗な顔、そしておっとりと大人しい性格もあいまって、どこか箱入り育ちの深窓の令嬢ぽい雰囲気を醸し出していたと思う。
今はさすがに背も伸びたし声変わりもして、女と居ると青年だなと思うが、隣の錆兎が成人男性にしてもずいぶんとデカくてガタイもいいため、髪が少し長めで身長はおそらく170cmそこそこ、そして線も細い義勇はずいぶんと華奢で愛らしく見える。
まあ…惚れた欲目かもしれないが…。
そんな風に義勇を時折遠巻きに見ながら歩いていると、実弥は自分と義勇達の間に3人ほどのどこかこの場に似合わぬ雰囲気の一団が居ることに気付いた。
あれか…!
と思ってはみたものの、まあ相手が何かしてくるまではどうしようもない。
追いつかないように少し歩を緩めてあとをつけていると、なぜか錆兎が足を止めて、横に居る義勇に何か囁いて、その後、義勇を自分の後ろにやると、背後を振り向いた。
え?と思ったのは当然実弥だけではない。
振り向かれた一団は驚いたように足を止め、それから互いに顔を見合わせて頷いた。
──もしかして俺に何か用だったりするのか?
と、淡々と言う錆兎に、一歩前に出た一人が案の定、
──お前じゃなくて用があるのはお前の後ろの奴になんだけどな。
と言う。
──そうか。俺が代わりに聞こう。話してくれ。
と、ざざっと囲むように前に出てくる面々をまったく気にすることなく笑顔の錆兎に、最初の男が
──そうかよっ!じゃ、とりあえず一発なっ!!
と、いきなり殴りかかった。
見た感じけっこう全力でいった感じがする。
実弥は助けに入るかどうか悩んだが、とりあえずどうせなら義勇が絶体絶命のピンチになったタイミングの方が良いかと静観することにした。
しかし男のこぶしが腹に入った瞬間は、おおっ!!と盛り上がった一団だったが、それにビクともしない笑顔のままの錆兎を見て、一気に緊張の色合いを深めた。
──とりあえずこれで正当防衛だなっ。
と実に良い笑顔で言う錆兎に一瞬臆する男たち。
しかし今更後には引けないのだろう。
なんといきなり3人全員、チャキッとナイフを取り出した。
これは…やばいかもしれない!
一人でもやばいが3人だ。
最悪錆兎がやられている間に義勇を連れて逃げるかっ?
ここで実弥は初めて動こうとするが、ナイフを明らか刺す気満々の両手持ちで持って駆け出していく一人をゆるりとよけながら、片手でやんわりとよけた自分の真後ろに義勇をかばう錆兎。
スパっと背広が切れたところで、なぜかにやりと笑う。
背筋がぞくっと寒くなった。
──これは…少し動けないようにしておかないと、下手すれば殺される案件だな。
と、声音はあくまで真面目なのに笑顔。
そして自分に向かって来てよけられたためにまた振り返った男のナイフを持つ腕を軽くつかんだ…ように見えたが、男が腕を押さえてその場で転がりまわっているので、軽くではなかったらしい。
すさまじい勢いで痛がっているところを見ると、骨くらい折られたのかもしれない。
青ざめる一同。
誰も言葉を発することができず、地面を転がりまわる男の悲鳴だけが静かな住宅地に響き渡った。
音はない。
ないのだが、そこで今度は声を発することなく
──まずは一人…
という口の動きに、ナイフを構えた一人が震えながら失禁した。
実弥も凍り付いたように動けない。
しかし錆兎はまるで落としたペンでも見るような気軽な様子で
──転んだ時に怪我でもしたか。
と苦痛にのたうつ男を見下ろしている。
そして怯える残り二人に視線を向けると、
「別に今回は追わないからこいつを回収して撤退してもらって構わないぞ?
一応動画は取っているから、そちらから殴りかかってきて一発受けているのと、ナイフで刺そうとしてきた証拠もある。
今後近づいて来なければ、スーツの破損代金は請求せずにサービスしておいてやる。
さっさと帰ってくれ」
などとやはり笑顔で言うのが怖い。
こいつ…サイコパスかよっ?!
などと青ざめた実弥だが、他二人も関わったらやばいものに関わってしまったと思ったのだろう。
言葉もなくコクコクと高速で頷くと、倒れている男を回収して脱兎のごとく逃げ出した。
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