──さすがお館様!あの不死川の暴挙にはそんな深謀遠慮があったとはっ!
──無惨もあっさりひっかかりましたねっ
柱全員に今回の実弥の騒動は、無惨を煽って引きずり出すための囮にするための行動だったのだと説明された。
その証拠として錆兎とお館様、それぞれに2通ずつ届いた無惨からの怒りの手紙を回し読み、何冊か入手して写した無惨が童磨に命じて作らせた小説も回す。
これまでなかなか表に出てくることがなく尻尾を掴ませなかった無惨の思いがけない行動に納得する柱一同。
「一応無惨をおびき出すまでは広まってしまったら意味がないからね。
柱のみんなと私だけの秘密だよ?」
とお館様が笑顔で人差し指を唇に当ててシ~っと口止めをすれば、柱達は揃って真剣な顔で頷く。
そしてそこで
「まあそういうわけで、実弥は当分は何も知らない周りからのキツイ当たりを受けるだろうから、皆だけは事情を知って少しだけ優しくしてやってくれ」
と錆兎がそう付け足すと、皆はそれにもほわっとした顔をして頷いて見せた。
そんな中で全てを知る天元は内心(不死川にそんな配慮をしてやらなくても…)とぶぜんと思い、匡近は(さすが俺達の師匠!)と熱い涙を零す。
そしてそれを屋敷に戻ってから滝の涙を流しながら不死川に話して聞かせた。
自分の行動が鬼殺隊や自分が大切に思う人間の役に立ち、他にどう思われようと大切な人間達には感謝をされる。
実弥はそれで充分だったのだが、よもやあれだけ迷惑をかけまくった錆兎が未だ自分の事をそんな風に気遣ってくれるとは思ってもみなかった。
なので匡近のように号泣はしなかったが、やはりぽろりぽろりと涙を零す。
隣では玄弥も泣いている。
もしも無惨を倒すことができたなら、自分は絶対に良い社会人、良い人間になって、自分を助けた錆兎や匡近が助けたことを誇らしくなるような人間になろう。
それ以前に無惨を倒せるよう、自分にできることは全力でやろう!と、良くも悪くも一直線な実弥はそう心に固く誓った。
そのための第一歩である無惨を落とした実弥の小説は、そのままだと本当に読みにくく浸透しないということで、書く方向性を変えることにしてから真菰に文章の指導を受けている。
「まずね、1文が長すぎて読みにくいんだよ。
あと描写を自分の脳内で保管しないでちゃんと他にも伝わるように文章にすること!」
などなど、言われたことに気を付けて書いてみれば、自分で読み返してもずいぶん読みやすい文章になった気がした。
最近では真菰の仲間達ほどではないが、自分と匡近、それに無惨以外にも読んでくれる人間が出て来たようで、それも少しうれしい。
そうしているうちに変わった実弥を文章から感じた数名の隊士が、もし実弥が任務に出るなら一緒に行ってやっても良いと言ってくれて、それからは少しずつ匡近以外と任務に出られるようになってきた。
そうして一緒に任務についてみれば、以前の勝手な部分がなりを潜めて随分と真面目に隊のために動くようになったのが目に見えてきて、だんだんと実弥がつける任務も増えてきて、今では他の隊士と変わらない待遇になりつつある。
その先鋒になってくれたのは村田だったので、おそらくそれも錆兎が手を回してくれたのだろうと、さすがに周りが見えない実弥でも察してしまった。
前世とは違って共に風柱屋敷に住んで、自分のせいでなかなか手伝いの人が居付いてくれないこの屋敷の家事をしてもらえれば助かると言えば、玄弥も無理に自分も隊士にとは言わず家で家事に勤しんでくれるので、危険にさらすことも冷たく当たらなければならないということもなく、全てが順調に進んでいる。
ささやかながらも幸せな生活を送れていると言ってもいい。
なので実弥は新しく書いた小説を真菰に見てもらいに行きがてら、錆兎が家に居るならもう一度近況報告がてら一言礼を言おうと思って土産に甘味を携えていそいそと風柱屋敷を出たのだった。
0 件のコメント :
コメントを投稿