──今までほんっとうにすまなかったっ!今度こそ分かったっ!
玄弥との風柱屋敷での生活が始まったところで、実弥はきちんと真菰を通して面会を申し込んだうえで錆兎に頭を下げた。
嫌われたままで居たくはない。
──ああ、もういい。大切にすべき相手がわかったようだからもう繰り返さないだろうしな。
と、案の定、謝罪する実弥に錆兎はそう言って口元に笑みを浮かべた。
他の者…それこそ彼が愛弟子として可愛がっているらしい匡近に対するのとなんら変わる事のない温かい笑み。
これだけ迷惑をかけて裏切って迷惑をかけてを繰り返した実弥に、改心をしたからと言ってそれを向けてくれる錆兎の懐の広さには、まいどながら本当に驚かされるばかりである。
謝罪というものは、したからと言って受け取ってもらえるとは限らないし、受け取ってもらったからと言ってやったことがなかったことになるわけではない。
実弥は自身なら許さないという感情を持つのは容易に想像できるから、何もなかったように温かく迎えてくれるこの男の精神がすごく不思議だ。
錆兎だって許せない奴がいるのは知っている。
産屋敷月哉…鬼になってからの名を鬼舞辻無惨。
何度か転生しているらしい錆兎がいつの時代も敵と認定してきた相手である。
許されないこともある…と以前に自分も言われたことがあるので、この謝罪はある意味自分の自己満足だという認識の元にそれでも謝罪に来たのだが、錆兎は何故か自分の事はあっさりと許してくれたらしい。
無惨と自分、その違いはなんなのだろうか…と不思議に思って尋ねると、錆兎は苦笑。
そして
──お前はまだ義勇を死に追いやってはいないからな。
という答えが返ってきた。
「確かにな…今生では奴は俺達に敵対することなく、むしろ暴走するお前を止める側に回っているようなんだが、かつて義勇を殺してるからな。
その時点で産屋敷のために奴を滅しようと追い続ける耀哉様の意志がなくとも俺は何度生まれ変わろうと奴を最優先で成敗する敵とみなし続ける。
俺はあちこちで何度も言っているが自分の意志より義勇の希望な人間だからな。
もし義勇が生きていてさえくれれば全力で義勇の幸せに協力するつもりだし、もしそれで義勇が他に行くというならば、それに協力して見送ったあと、義勇がやはり俺を選び直したくなるよう、全力で努力するつもりだ。
だからお前のは義勇が不快感を示してはいたが、俺が介入して義勇に実害のないようにしたうえで、義勇の幸せを追求させてやることは可能だったからギリギリ許容範囲。
ただそれで義勇の命に係わることになったとしたら、俺は死んだ方がマシだと思うくらいにはお前を追い詰めるつもりだったし、ある程度お前が不幸のどん底に陥るくらいの手筈を整えられたと思えば真菰と宇髄に手を緩めないようくれぐれも言い渡した上で後を追うつもりではあった」
言葉を紡ぐ錆兎は飽くまで笑顔だが、目が怖い。
これは本気だ…とぞくりと冷たい汗が噴き出した。
「だが義勇の幸せを思えばそういう事態が起こらないよう最善を尽くす方が良いからな。
お前についてあちこちで色々聞いて回って真菰に分析してもらって、お前が言う前世の義勇と今生での義勇、その性格の差異が別人くらいあるのに何故義勇なのか…というところから始まって、最終的にお前は何か大切にするものを探していて、お前の前世でお前の手の届く範囲に居たのが義勇だったからなんじゃないかというところにいきついたわけだ。
それならもっとお前が大切にすべきものを探せばいいということで、お前に残った唯一の家族である玄弥を探し出した」
と、そのあたりの説明はいつもの淡々とした錆兎である。
なるほど、今にして思えば、自分は常に感情的で目の前のことしか見えなくなってしまう人間だという事は今回のことでよくわかった。
確かに自分が第一に優先すべきは玄弥の死を避けることなはずである。
前世でもそうだったのだが、思い込みが激しすぎて玄弥を隊士にしないためにはそれが正しいと思い込んで取った行動が玄弥を隊士に固執させて死に追いやってしまったのだ。
今生でこそ!と思うなら、優先すべきは義勇と恋仲になるより玄弥を死なせないで幸せにすることなはずだ。
「錆兎が介入してくれて良かったぜェ。
俺ァ本当に馬鹿だったっ!
このままじゃ今生でも玄弥を死なせちまうとこだった」
と実弥がまた頭を下げると、錆兎がその肩をなだめるようにポンポンと叩く。
──お前が今生でまた人生をやり直せるとしても、無惨は一度はお前の弟の命を奪った相手だし、俺達は同じ立場の人間だ
と、その後に続く錆兎の言葉に胸が熱くなった。
そうだ。自分達は共通の敵を持つ身なのだっ!
実弥は今度はそう強く思い込んで、その気持ちは無惨討伐の方向へと舵をきる。
色々な意味で思い込みが強い単純な男なのである。
ということで、目の前の尊敬すべき上司であり師匠とも言える人間がにこやかに
──ということで…お前にしか出来ない事があって協力を頼みたいのだが…
と言う言葉を発するのに、
──なんでも任せてくれぇっ!!
と内容も聞かずにドン!と胸を叩いた。
まあ…内容を聞いても深く考えずに喜んで請け負ったであろうが……
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