──筆頭、連れて来たぜ~
あの話し合いから1週間ほど経ったある日、宇髄が動くズタ袋を抱えて水柱屋敷にやってきた。
と、手にした洗濯物をいったん縁側に置くと、駆け寄る真菰。
それににやりと笑うと
──ま、動物っちゃあ動物に違いねえ
と宇髄は笑った。
そこに義勇を伴って出てくる錆兎。
宇髄と背負ったズタ袋に交互に視線をやると、
──誘拐はダメだろう、誘拐は…
と、はあぁ~とため息をついて、縁側に下ろすように言って、手ずから袋を開けた。
そうしてまさに罠にかけて連れて来た野生動物さながらに警戒心をあらわにする少年を前に視線を合わせて事情を話す体制に入る。
「友人が乱暴をしてずまない。
俺は実弥の知人の錆兎と言う。
現在鬼殺隊で水柱をやっていて、一時期実弥を預かって稽古をつけたり面倒を見ていたこともあるし、まあ親しい間柄と言っても差し支えないと思う。
で、本題なんだが、実弥が最近少しばかり荒れていて立場が宜しくなくなってきているので、心配している。
それで家族に会わせたら落ち着いてくれるんじゃないかと思って、実弥と引き合わせるためにお前に今日ここに来てもらいたかったんだ」
出て来た少年の縄をゆっくりほどきながらそう説明をする錆兎に、最初は暴れていた少年も多少まだ胡散臭げな表情はしながらも、大人しく様子を窺い始める。
それにニコリと微笑みかける錆兎。
こういう時はそのいかにも正義を背負っているような容貌や雰囲気は役に立つ。
──…えっと…兄貴は…鬼殺隊にいるんだよな?
とある程度信用はしてくれたらしい。
きょろきょろと辺りを見回す玄弥に、錆兎は
「ああ、すぐ人をやってここに来てもらおうと思うが、その前に現状を説明したい。
少し話をきいてもらえるか?」
と手を差しだした。
宇髄に半ば誘拐みたいにして連れて来られて大暴れしていたのに、玄弥は今、水柱屋敷の居間で錆兎と机をはさんで差し向かいに座りながら、大人しく茶をすすっている。
緊張はしているようだが警戒は溶けているようで、宇髄も真菰も錆兎のこういうところはすごいなと思う。
「俺が実弥の弟を見つけてきて、出来れば連れてきて欲しいと頼んだんだ。
頼むに当たって丁重にという言葉が足りなくて、乱暴になってしまって申し訳なかった」
とそんじょそこいらの庶民の少年が相手でもきちんと謝罪をして頭を下げる水柱。
真菰の記憶だと前世での玄弥は鬼殺隊に入った初期の頃はずいぶんと粗暴な少年だったと思うのだが、そのあたり、不死川もそうだが尊重すべき相手とそうでないと判断する相手とで態度を変えるのだろう。
錆兎はどうやら前者と判断されたようだ。
「いえ…大丈夫です。
それで…にいちゃ…いえ、兄はどうしてるんですか?
実は俺もこのあたりの親戚に引き取られたんで色々聞いてはいるんですが…」
ときちんと正座を崩さずに敬語を使って尋ねる。
「あ~そうか。それなら話は早いな。
実は実弥は俺の継子の義勇にずいぶんと執着していてな。
義勇の方が拒否しても聞いてくれなくて、まあ…義勇が人気のある少年だということもあって、それに迷惑をかけていると周りからひんしゅくを買ってしまっている。
だが実弥も根っから悪い奴ではないし、このまま社会から弾かれてしまうのはしのびない」
「…兄ちゃ…兄が水柱様に色々お世話になっていたことは俺も噂で聞いてます。
鬼殺隊をクビになりかけた時に身元引受人になってもらったこととか…
兄は本当は優しい人なんです。
誤解されやすいけど…だから…えっと…わかってくれてありがとうございます」
と、そこで玄弥は頭を下げた。
それに錆兎は小さく笑みを浮かべて頷く。
「うん。そうだよな。
言葉が荒いから誤解されやすいが、他人の面倒を見るのが好きな善意の男だと思う。
ただ、本人にも言ったんだが、義勇はとても言葉が足りず誤解されやすい人間で、健やかに過ごそうと思えば身近な者がその足りない言葉を察して周りとの摩擦を取り除いてやらねばならない。
実弥は良い奴ではあるんだが、本人も言葉で誤解されやすい人間だしな。
義勇の補佐は出来ないと思うんだ」
「…はい」
「だからな、実弥が悪いとかダメだとかではなく、義勇との相性はよろしくないし、俺は義勇の保護者として出来れば穏便な形で実弥に執着を捨てて欲しいと思っている」
「………」
「それで考えたんだ。
何故実弥はそこまで義勇の執着をするのか、ということを。
町で色々聞いていると思うが、実弥は前世と言うか…巻き戻って今生が二度目の人生だと言っている。
で、実弥の中では紛れもない真実なのであろう実弥自身の話を聞いて状況を整理すると、実弥は自分の人生の最期の時に生き残っていた仲間が義勇と宇髄だけだったらしいんだ。
で、宇髄は嫁が一番だしな。
家族に囲まれて生きて来た実弥は一人ぼっちが悲しくて寂しくて、もっと義勇と仲良くしていれば最期の時に孤独じゃないと思ったんじゃないかと俺は思ったんだ。
で、その仮に前世と呼ぶ最初の人生ではその時にすでに死んでた兄弟子や弟が今生では生きているのだから、別に一人になりたくないということなら、本当の弟と仲良く生きていけばいいんじゃないかということで、お前を探したんだ。
前世ではすでに死んでいた兄弟子は今生では風柱になっていて、実弥がこれ以上問題を起こさなければ実弥の面倒をみるのはもちろん、屋敷でお前を雇ってくれるくらいの気持ちも甲斐性もある。
もし風柱屋敷でダメだというなら、義勇に実害をもたらさないという前提なら、うちで引き受けても良い。
一度は面倒を見た相手だしな。
なんとか良い方向に落ち着くようにしてやりたいんだ」
(…さすが筆頭…。人たらしすぎだろ。事情知ってる俺ですらおがみそうになるわ)
(何言ってるの。これは人たらしなんかじゃない。鱗滝さんの素晴らしい教育の賜物の思いやりと言って)
と、離れた所で小声で呆れた顔で言う宇髄に真顔で言う真菰。
もちろん何も知らない玄弥は感極まって泣きそうになっている。
「そこまで兄ちゃんのことを……ありがとうございますっ!」
と頭を下げたところで、計画は半分成功だ。
あとは不死川の方の説得あるのみである。
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