諦めが悪い2人の人生やり直しバトル_54_不死川実弥の画策

街で見かけた義勇は愛らしかった。
そう、今生で初めて出会ったあの時からもう2年と少し。
互いに17になるのに、相変わらずぽわぽわとどこか幼女のような雰囲気がある。

前世ではもうそろそろ互いに柱になるかならないかという時期で顔くらいは知っていたが、もっとスン…と澄ましていて、水というより氷のようだったと記憶しているが、今、今生の水柱である兄弟子の錆兎と何故かかんざしや櫛などを多く置く小物屋から出て来た義勇は、春の小川のように柔らかく温かい空気をまき散らしていた。

手には何か買ってもらったのだろう。
小さな包みを持っていて、それを嬉しそうにかざしながら錆兎を見上げて笑う。

楽しそうで幸せそうで、こちらまで心がほんわりと温かくなるような笑みではあるのだが、それを向けられているのが自分ではないのが悔しい。
自分がそういう表情を引き出したかったと実弥は唇をかむ。

前世であれば今隣で笑みを向けられている兄弟子で義勇の想い人らしい錆兎は居なかったのだから、その時に頑張っておくべきだった…と実弥は内心臍を嚙んだ。

それでも過去を悔やんでも仕方がない。
とうとう匡近にまで見限られて風柱屋敷を追い出されてしまったが、考え方によっては監視者が居なくなったのだから、任務をガンガン受けてとりあえず階級を甲にまであげて、そこからなんとか別の呼吸を生み出すべく頑張ってみるか匡近が引退するのを待つか考えようと思う。


そもそもが色々が違い過ぎて、最近はあれは前世とか巻き戻りとかではなく異世界だったんじゃないかと思い始めて来た。

前世で起こったはずの諸々は起こらず、甲の時に亡くなった匡近は生きていて、風柱だったはずの自分は未だ甲にもなっていない。

水柱だったはずの義勇は水柱ではなく水柱の継子で…もっと言うなら前世よりもずいぶんと小さくて細くて可愛らしい少年となっていた。

前世ではボサッとしていた黒髪は姉弟子が毎日整えてやっているらしくつやつやサラサラで、大きな青い目の色は一緒なのに前世と違ってどこかキラキラとした光を帯びている。

よく笑いよく泣きよく拗ねて…と表情が豊かで、前世の無口さが嘘のようによくしゃべった。
まあ…口から出てくる言葉がいつも頓珍漢なのは変わらないが、そんな可愛らしさ満載な様子だからかただ幼げで愛らしいと、皆が好意的に受け入れている。

手に入れたいと思っていた前世の義勇とは容姿のパーツは似ているが完全に別人のようで、では別人だから興味がなくなるかと言うとそれも違う。
前世がこれで今生で前世のようだったならまた違ったのかもしれないが、今生での義勇の変化は実弥にとってかなり好ましい変化だ。

この変化を引き起こしたのは彼を囲む兄弟子や姉弟子…特に錆兎の方だと思う。
それが自分だったら良かったのに…と実弥はまた考えても仕方のないことを考えてため息をついた。

良い奴なんだよなぁ…とは思う。
錆兎は義勇のことがなければ本当に匡近に負けず劣らぬくらいには実弥が好意を持っている相手ではあるのだ。
なにしろいつだって偏見で自分を嘲り見下して来た周りと違う。
どうすれば実弥が社会で生きていきやすくなるのかを真剣に考えて手を差し伸べてくれた唯一くらいの人間だ。

正直いまでももし義勇が自分と一緒になってくれるなら…いや、義勇との恋がまだ成就していないとしても、錆兎が義勇に対して特別な想いを持っていないと言ってくれて義勇と恋仲にならないということなら、錆兎には『せっかく世話をしてくれたのに面倒ごとばかり起こしてすまなかった。心を入れ替えるから許してくれ』と土下座して許しを乞うくらいはすると思う。

匡近はその善意の世話焼きが親や兄に今更な事を言われた時のようにひどくうっとおしいお節介に思えたりすることも多々あったのだが、錆兎が焼いてくれる世話は尊敬する師匠のソレのようで反発心を感じることもなく、ただただありがたかった。

最初の頃の”同い年なのに”という偏見がなくなってしまえば、彼は頼れる先輩で困った事があれば助けてくれる上司である。

お館様のように上司は上司でも雲の上の人ではなく、困った時に直接手を差し伸べてくれるくらいの近さの相手。
お館様が君主様なら錆兎は隊長だ。

だから彼が協力してくれれば義勇との仲もうまくいくと思うのに、よりによって一番のライバルだというのは本当に辛い。
というか前世では比較的良好な関係を築いていた宇髄まであちら側とかズルいだろう。

匡近にも見捨てられてしまったし、今の実弥には味方が誰もいない。
あと前世で関係がまあまま良好だった相手はと言えば、悲鳴嶼さん、煉獄、伊黒、胡蝶カナエくらいか…。

だが悲鳴嶼さんと煉獄は誰にでも親切だが恋愛の協力をするようなタイプではない。
伊黒は甘露寺から攻めて行けばあるいは?
しかし甘露寺に近づいた瞬間に敵に回りかねないので、そのあたりが難しい。
そうやって消去法で考えて行けば、一番協力が望めそうなのは胡蝶カナエだろうか…。

彼女は鬼とすら『みんな仲良く』がモットーの少女なので、恋愛と言う意味ではなかったとしても義勇と仲良くなりたいのだと言えば否とは言わないだろう。

幸いにして今生でも無事花柱となって柱屋敷に医療所を併設しているため、怪我をしたりすればそちらに行くので接触が取りやすいし、隊士の出入りが多いので何か広めて欲しいことがあれば広めてもらいやすい。

そうだ!それだ!!
次の任務についたら久々に稀血を使って、その後に治療のためと称して花柱屋敷を訪ねよう。

そう思い立って少し浮上すると、実弥は最後にもう一度だけと機嫌よく錆兎と歩く可愛らしい義勇の姿を目に焼き付けて、最近の常宿にしている藤の家に帰って行った。







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