諦めが悪い2人の人生やり直しバトル_53_理性

──まあ基本はこっちは手を汚さず周りから…だよな

疲れた心身を少しでも癒そうと、真菰が煎れたいつもよりもだいぶ高級なお茶をすすりながら、宇髄が言う。

「もうな、これだけつまんないモンをばらまいてるだけで周りにも十分嫌な思いさせてるだろうしな、ちょっと突けばあっという間だ」
と口にする宇髄は少しおどけた様子で、しかしそれはそれは楽しそうに見えた。

こういう時になんだか空気を作るのが上手くて深刻な雰囲気にさせない宇髄は良いと真菰はしみじみ思う。

「確かに…これ、回収するまでもなく読む人間居ないと思うけどね…。
任務で疲れてるのに、それでなくても文章が稚拙すぎて読みにくい上に内容がバカバカしい俺つえ~自慢の妄想小説読みたくない」
と真菰がその空気に乗って肩をすくめると、宇髄が噴き出した。

しかし錆兎は回収すると決定した冊子の方から一冊手に取って、一人真面目な表情のまま言う。

「これは…一部だけを回収することに意義がある。
正確には、こちらは全てを禁じたわけではなく、”回収せざるを得ない物を公の場に出した”ので感情なものからではなく正当な理由があって問題のあるものだけを回収したと言う事実を周りに知らしめる目的で回収している」

「あ~…そのあたりはなぁ…まあ、伊達に長く上に立ってねえよな。
判断が容赦ねえ」
と、宇髄はそれにニヤニヤと悪い笑みを浮かべた。

錆兎はそこで
「そういう策略は実家がなくなって当主じゃなくなった時点でもう二度と必要ないと思ったんだけどな」
と小さくため息をつく。

しかしその後、
「でも義勇の安全のためには排除は完璧にしないとな」
という言葉を口に乗せた時には、直前の少し困ったような表情から一転、数百年にも渡って”人の好い当主を演じ続けて来た”裏の老獪な策略家の表情を浮かべた。

ぞわり…と背に嫌な汗をかいてしまうような…目の前にあって避けられる恐怖ではなく、どこから攻撃されるかわからない致命傷を与える何かが潜んでいるような不安感をあおるようなそれ…。

敵として前にしたなら恐ろしさに自らの人生を自らの手で終わらせてしまいたくなるような…しかし味方として居れば絶対の勝利を確信するような安心感がそこにはあった。

そんな表情を浮かべながら言う言葉は、
──義勇に危害が及ぶような事を行う輩はその前に消しておく…
というもので、龍の逆鱗に触れたら怖いな…と真菰はそんな風に思う。

真菰は脳内で表の顔と裏の顔と言っているが、錆兎の本質が今見せている顔かと言うとそれも違って、今の顔はおそらく義勇の安全が関わった時だけに出てくる、錆兎の本質ともまた少しばかり違った、言うなれば【義勇関連対応モード】なのだろう。

一度自分の甘さで義勇が死に追いやられてからは、その兆候を見つければそれが本当に些細な事でも油断も容赦もしない…そう考えて生きてきたのだとわかる。

──で?俺らがすることは?
と、付き合いが長いからか元の性格が豪胆なのか、そんな錆兎の様子に全く臆することなく宇髄がやっぱりにやにやとした笑みを浮かべながら聞く。

それにかえって少し落ち着いたのか、錆兎はふぅ…と手にした冊子を積み上げた山の中に戻すと、いつもの少し困ったような表情に戻って言った。

「馬鹿げた妄想の産物だとしても俺は隊の規律的にあまりに問題がある物以外は禁止はしないし、回収したものも元に戻す。
それを俺に対する嘲りでも怒りでも呆れでもいい、その対処が甘すぎるという風に各所で言ってくれ」
「…なるほど」
「嫌な役をやらせてすまないな」
「いや?全然?
つか、むしろお前が単に裏がなくそれを言ってるとしたら、俺はお前に言われるまでもなく、あちこちでお前の事を四角四面の馬鹿野郎だって言いまわってるわ」

申し訳そうに謝罪する錆兎に宇髄はそう言って笑う。
まあ実際それは親しみから来る発言ではあるだろうが、確かにその言葉は言っているだろうなぁと真菰も二人の関係を見ているとそう思って、つられて笑った。

「あたしも同じくよね?
てか、あたしの方がそれ言うの自然だよね?」
とそこで真菰が自分についての確認も取ると、錆兎は少し眉を寄せて
「ああ。ただし愚痴や腹立たしさを口にするのはいいが、絶対に自分で動くなよ?
今回のこの回りくどいやり方は恨みの標的を義勇の周りの個人に向けないためだからな?
お前は飽くまで不満を表明するだけで、実際にそれで行動するのは不特定多数の周りの人間達だ」
と言う。

まったく単純でも大雑把でもない…義勇の身の安全に対することに関して言うなら、おおらかですらない。
本当は自分が率先して殴りたいところだろうに、そのあたりの目的を効率的に達成するための自制心は感心するものがあるなと真菰は思った。

結局結論としては、自分達は不死川に対して直接的な非難はしない。
その行動も目に余る部分だけの修正はしても完全に止めない。
不満を口にするのはその指示を出した錆兎に対してのみ。

こうすれば義勇や義勇が心を痛めるであろう範囲の親しい人間に矛先が行くことなく、しかし義憤に駆られた不特定多数が勝手に諫めてくれる。

自分達と関係の遠い大勢の人間では不死川も誰を標的にして良いやらわからずにせいぜい気に入らない事を言われたと殴る程度で終わるだろうし、徒党を組もうにも特に財力権力があるわけでもない素行が悪い一隊士に協力するメリットなどないだろうから人も集まらないだろう。

それでそれ以上何か暴走するようなら、自分達とはもう関係のない所でお館様行きの案件だ。

──気持ちの良いやり方ではないが仕方がない…。
とため息交じりに言いながら、錆兎はふと思いついたように真菰に視線を向ける。

──なに?
とそれに気づいて真菰が問うと、少し痛まし気な目をして

──匡近だけ、巻き込まれないというのは無理かもしれんが色々気遣ってやってくれ
と言った。

ああ、確かに。
出来れば自分から距離を取ってくれればいいんだけど……と言う真菰の想いは何故かこのあとまさに叶うことになる。

錆兎が匡近を呼び出して不死川については今回の事を特に糾弾しない代わりに何かあってももう一切関わらないと申し伝えてすぐ、彼はお館様に目通りし、不死川を再度一人で任務に就かせられるように願い出た上で、彼を破門した。

なるほど。錆兎はそういう目的で匡近を呼び出して敢えてああいう沙汰を言い渡したのか…と、そこで真菰は初めて察して数百年間上に立った記憶を持つ弟弟子の知恵に舌を巻くのであった。






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