──世の中には謝罪しても許されない事はある。これはその類のものだ
いきなり呼び出された水柱屋敷の道場で、匡近は例によって土下座をしていた。
例によっていつものことだが…という枕詞を使うには、今回は状況がいまだかつてないほどに深刻である。
なにしろ普段ならやらかしたら真っ先に怒鳴るか鉄拳を振るう真菰ですら青ざめた顔で居住まいを正して硬直しているのだ。
自分を最初に鍛えてくれた師範の行方がわからなくなってからは匡近にとっては唯一と言っていいほど世話になった師匠だ。
厳しいが情の深い人物で、匡近の弟弟子が鬼殺隊中から見放されて除隊勧告を受けていた時、匡近の助けを求める声に応じて手を差し伸べてくれた唯一の相手である。
本当にいつだって…どれだけ周りが見放そうが見捨てようが助けてくれたその人が初めて見せる激怒した様子。
笑顔だがそれは好意や善意とは程遠い、突き放したような冷ややかなもので、匡近はもちろんのこと、彼が日々敬って尊重しているはずの…今回の事とは無関係で同席しているだけの真菰ですら縮み上がっていた。
鬼の頭領の鬼舞辻無惨と正面から相対してもここまで恐ろしくはないんじゃないだろうか…と匡近は土下座して震えたまま思う。
この大らかな師匠を怒らせた原因は実弥が自分と義勇が恋仲になれるよう応援を得ようと書いた冊子にある。
。
なにしろ宇髄の話を聞いた限りでは錆兎と義勇は平安時代から何度も転生していて、生まれ変わるたびに恋仲になっているくらいには好き合っているらしいので、実弥が書いていた片思いだった自分が義勇の心を掴んで恋を成就させる話…だけでも普通ならアウトだ。
だが、恋愛の成就の話までは、心の広い水柱からすると許容の範囲のようである。
以前、冊子という形ではないが実弥が自分は前世で義勇と恋仲だったのだと主張しても生温かい目でみてくれていた。
では今回何がアウトだったかと言うと、実弥が書いた話は始めは実弥に興味がなかった義勇を強引にモノにしてそこから…という、いわゆる体から始まる関係を描いていて、しかも男性隊士を惹きつけようとかなりそういう場面を細かく書いている点である。
これも宇髄からの話だが、何度目かの転生での人生で、義勇は一度強引に迫られて錆兎に操を立てて自死をしているらしく、その手の事はたとえ小説だろうと許さないということらしい。
絶対に義勇の目に触れさせるなという厳命の元、真菰が人脈を駆使して回収したようだが、当然ながらこれでお咎めなしとはいかない。
回収が済んだ後、匡近は水柱屋敷に呼び出されて今この状態というわけである。
そして土下座。
久々に土下座。
土下座でどうにかなるものでもないのは重々承知しているが、それでもまず土下座をするより他にどうしていいかわからない。
──さ…さねみにすぐに謝罪を…
──要らん
気を失いそうなくらい緊張しながら口にした言葉はそう遮られた。
──で…では…除隊…です…か?
もうこの人をここまで怒らせたならそれしかないだろうと思ったのだが、水柱はそれも
──必要ない
の一言で終わらせる。
ここで普通ならホッとするところだが、明らかに冷ややかな空気は消えてはいないので、あるいはそれ以上を求められているのか…と、匡近は絶望的な気持ちになって、それでも一応身元引受人としては意思確認は必要だろうと
──…では…切腹を…?
と身を切るような思いで口にしたが、それにもぞっとするような冷ややかな笑顔で
──それも必要ないな
と言われて途方にくれた。
──錆兎…管理責任というものもあるかもだけど…柱としての仕事が忙しい匡近に実弥の行動を全て監視するのは無理だよ?
と、そこでなんともありがたいことに、こんなに恐ろしい状態なのに間に入ってくれようとする真菰の言葉に匡近は泣いた。
するとそこで初めて錆兎は普段の顔になって
──別に匡近に怒ってはいないぞ?
と言う。
──じゃあとりあえず匡近がどうすればいいのか言ってあげてよ
とさらに言う真菰。
「別に何も?匡近が何かする必要はないし、実弥に何かさせる必要もない。
ただ俺は実弥に今後何が起きても関知はしない。それだけだ」
と言うまでの錆兎の声はいつも通りだったが、最後に一言…
──そう…どれだけの事が起こっても…。何も起こらないといいけどな…
とそれだけはまたぞっとするような笑みと共に言って匡近は何か恐ろしい事が起こりそうな予感に身震いした。
更新ありがとうございます(^^)
返信削除毎回ワクワクしながら読ませて頂いています。
不死川は相変わらず独りよがりで最低な事をしでかしましたね。
義勇さんの人格を尊重しない行為は錆兎の逆鱗に触れて当然だと思います。
今後の展開が楽しみです😊
コメントありがとうございます😁
削除この実弥は考え方が短絡的なので相手の人格を考えていないというところまで思いが至らない感じですね💦💦