…また来てしまった……
朝方…任務明けに自宅に帰宅する前に風柱粂野匡近は菓子を片手に水柱屋敷に寄る姿がよく見かけられて話題になっていた。
それを屋敷に迎え入れるのは屋敷の主である水柱の姉弟子であり継子でもある真菰である。
しかし彼がご執心なのは彼女ではなく、彼女が与えてくれる”ご褒美”であった。
──匡近。いらっしゃい。あ~これこれ。ここのまどれえぬが食べたかったのよ~
とご機嫌で彼を出迎えてその手から洋菓子の袋を受け取る真菰。
そしてそれと引き換えとばかりに
──これ、百舞子の新作衣装を着た錆兎と義勇の絵。あとこっちは仁美の新作ねっ
と可愛らしい紙袋に入ったそれを渡してくれる。
──おお!!隊服新調されたんですかっ!!それに仁美先生の新作楽しみですっ!!!
と受け取ったそれをぎゅっと胸元に抱きしめる匡近。
そして礼を言っていそいそと自分の屋敷へと帰っていった。
…ダメだよな…俺くらいはあいつの味方をしてやらないと…
屋敷に戻って部屋に籠るなり、匡近は抱えて来た袋を前にため息をつく。
しかしそんな心を裏切って袋に伸びる手。
その中身は水柱と継子の義勇の絵と小説である。
研究のため…と言い訳をしながら、でももうそれは言い訳にすぎないことは匡近自身もわかっていた。
ああ…いい!いいじゃないかっ、さびぎゆ!!
ガサガサと袋を開けると出てくる1冊の冊子と一枚絵。
絵の方はまだ作りたて未発表の水柱とその継子の新しい隊服を着た二人が寄り添っているもの。
この二人の隊服が作りたくて隊士から隠に方向転換したという同期女子が作っただけあって、二人にとても似合っている。
そしてもう一人…真菰以外に3人いるらしい同期女子の中で最初に二人についての執筆を始めた壱藩仁美は今では数多くいるさびぎゆ作家の中でも宇髄から豊富なネタを与えられて書いているその嫁の須磨と並んで2代巨頭と呼ばれて、その作品は読むのも写すのも借りられていることが多くて大変だと言う神作家だ。
その神の新作をなんと瓦版組合部屋に置く前に真菰が写しておいてくれたのである。
ああ、なんて素晴らしい…と、匡近は感涙した。
今回はなんと前後編からなる大作らしい。
匡近の手元にあるのはその前編で、後編は現在仁美先生が執筆中ということだ。
水柱が予定を管理していて望むなら少し時間をとれる真菰と違い、仁美先生は普通の隊士として仕事の合間に執筆しているということで、本当になかなか時間が取れないらしい。
そして…実に恐ろしい事だが、万が一先生が何かで亡くなったりしたら、永遠に続きが読めないなんて事態が起こる可能性があると思うと、匡近は気が狂いそうな気持になる。
だからたまに自分の時間が許せばこっそり先生の就いている任務を覗きに行って手伝ったりもしているのだ。
神作を生み出す先生は俺が守る!!
そんなことを思いながら、先生の作品を愛する隊士が描いたという美しい水柱とその継子の表紙を匡近はそっとめくった。
そして一心不乱に文字を追う。
前編完読…素晴らしい!!と、感涙。
2大巨頭と言われている須磨先生と仁美先生だが、書く方向性が違ってそれぞれに素晴らしいだけではなく被る事がない。
須磨先生はおそらく宇髄さんの見て来た転生した世界というものを描いているのだろう。
一番最近読んだ作品は、世界では大航海時代と言われる日本が室町時代くらいの時の話で、二人が故あって7つの海に飛び出して冒険するという話だった。
あれはあれで異世界のような外国の描写も楽しいわくわくとする冒険譚だったが、仁美先生の話と言うのは匡近もよく見る現代の日本の話なので感情移入がしやすくて読みやすい。
どちらも素晴らしい神作家だしどちらの話も楽しく読ませて頂いているが、匡近はどちらかというと仁美先生の話の方がより好みだった。
ただ、最近は仁美先生の作品の影響で、現実で義勇を伴う水柱に会うと色々妄想が広がって挙動不審になりかけるので少し困ってしまうのが悩みだ。
まあ…生さびぎゆを近くで見られると思えば本当に幸せすぎる悩みではあるのだが…
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