──ん~…おすすめはこれかな?
思い立ったが吉日、善は急げとばかりに、さっそく真菰に時間をとってもらった匡近は、真菰に錆兎と義勇の薄い本のおススメを読ませてもらえないかと申し出た。
──登場人物が違えば難易度も違うし、はっきり言えば無理だと思うけどね。
とにやりと笑って、それでも彼女達が活動している部屋へと案内してくれた。
そうしてたくさんの冊子が並ぶ棚の前。
迷うことなく手に取ったのは表紙からして綺麗で洒落ている。
それを口にすると真菰は笑って
「うん。だってこれ、宇髄さんの話を聞きながら宇髄さんの奥さんの須磨さんが書いた本だから。
で、表紙は宇髄さん作。
元々さ、情報の発信元で情報量が多いところに宇髄さん需要を読み取るのがめちゃ上手くて書く内容のための情報を的確に取捨するからね。
これが今の一番人気なんだよ。
だから持ち出しは禁止。
家でも繰り返し読みたかったら頑張って写してね」
と言って、家事をするから…とひらひらと手を振りながら部屋を出て行った。
真菰が出て行ったあと、匡近はまずいったん目を通してしまおうと、部屋の隅の机の前に座ってその冊子を開いてみる。
錆兎と義勇の恋愛ごとを語る女性達が好きな本ということで、てっきり最初から甘い恋愛描写が繰り返し書かれているかと思ったのだが、意外にもその話の主人公はその二人ではない。
宇髄天元、そう、この話を広めた本人を主人公とした、彼から見た、とある過去の転生の話だった。
始めの方はひたすらに主人公の天元少年の説明と、そのあるじである産屋敷の若様への想いが綴られていて、それから若様以外の人間には興味を持たなかった天元がある時に産屋敷の宴に招かれた錆兎と出会った場面に続く。
その後の錆兎と義勇の出会いと仲が深まっていく様子…四天王家の筆頭の跡取りの錆兎が共に大江山を見た先祖の直系の人間の事は名で呼ぶのに、自分の事は親しくなっても苗字の”宇髄”で呼ぶことに対する不安と不満。
様々な出来事があって、最終的に義勇の死とそれを追う錆兎の死を目にして、それでも”お伽噺の主人公”である錆兎の物語をきちんと終わらせるために動く天元。
最後は今後の転生では二度とこんな悲劇を繰り返させないと一人で固く心に誓うところまで…一気に読んで匡近は泣いた。
これは…読み返したくなる!と、それからその部屋の備え付けの筆で同じく備え付けの紙にそれを一心不乱に書き写す。
書き写している間も少年義勇の愛らしさに頷き、彼が後に彼に粘着することになる月哉の館の庭に迷い込んだ時にはハラハラし…宴の錆兎少年の爽やかさや雅な行動にはうきうきした。
義勇が攫われて錆兎が天元と共に大江山に向かう場面は格好良くも美しくて、大江山で次々に鬼をなぎ倒していく姿には心の中で拍手喝采。
しかしその後、自死した義勇を抱きしめて号泣する場面は何度読んでも涙が止まらない。
そして最後…
『そうして数百年の時を経て、また皆で生まれ変わった世界…。
天元が見ているおとぎ話の主人公から恋人を取り上げようと画策する悪人一人。
例えそれが誰であろうとも、主人公に敵対をするなら彼が望まないとしても全力で排除させてもらう!と、天元は戦い相手を潰す決意をする。
油断で物語を悲劇で終わらせるのは一度きりで十分だ。
自分は助け手となり主人公の敵を排除して、主人公をあるべき場所へと導くのである。
そう、物語をめでたしめでたしで終わらせるために』
の締めの文には泣きながら何度も頷いた。
(…俺も…俺も協力するぞ、天元!)
と、すっかり感情移入した匡近は、まるで旧友にでも語りかけるように物語の主人公に心の中で語りかける。
そうして文章を写し終わる頃にはもう、ここに来た目的はすっかり忘れて、匡近は写し終えて紐で綴じた冊子を大切そうに胸元に抱え込んで、いそいそと自分の屋敷へと帰って行ったのであった。
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