──悪いことは言わない。義勇君の事はすっぱり諦めろっ。
実弥が風柱屋敷に身を寄せて数日後、柱合会議から帰ってきた匡近が、いきなり開口一番そう言った。
それまでは唯一と言っていいほど実弥を応援してくれていたはずの匡近が、である。
──ありえねえっ!でもいきなりどうしたんだっ?!もしかして錆兎になんか言われたのか?
義勇の話題が出るなんてそのあたり以外にあり得ない。
これまで特に邪魔をしてきたりはしなかったが、錆兎もやはり反対しているのか?
それならそうと自分に直接言ってくるべきだ。
実弥が今逆らえないと分かっている匡近を通すなんて卑怯過ぎじゃないか!
…と、実弥はそんなことを思ってやや不機嫌に返したのだが、そこは違ったらしい。
「いや、お前も知っての通り錆兎さんは忙しい人だからな。
柱合会議が終わってすぐ帰った。
で、俺はその後も残って他の柱と話したあと、お前のために少しでも情報をと思って宇髄さんを誘って食事に行ったんだ」
ということで、どうやら宇髄にそそのかされたのだろう。
「あいつぁ昔から変に人をからかって楽しむところがあるから、あいつのいう事なんざ本気にすんなァ」
と、ここで諦められはしないがかといって匡近と飽くまで対立すると終わる立場なので、とりあえず宇髄の方がおかしいのだと信じさせようとして言うと、匡近は少し眉をひそめて
「お前なぁ…一応相手は柱なんだからそういう言い方は良くないぞっ。
兄弟子という身内である俺のことはとにかく、他の柱はきちんと目上として敬うべきだ」
と真剣な顔で苦言を呈してきた。
ああ、匡近は弟弟子の自分にはうっとおしいほど甘いが他者に対する礼儀だけには厳しいんだよなぁ…と実弥は息を吐きつつ肩を落とす。
本当に…どうしたらいいのかわからない。
すでに真菰が言っていた通り、宇髄の話は女性隊士を中心に広まっているのだろう。
おそらく口頭だけではなく、あの水柱屋敷の一室で女性隊士が集って書かれていた小説を冊子にしたものでも…。
確かに自分の前世の話より、宇髄の話を聞いていると芝居の一幕のようで面白いと思う。
さらにそれに追加して女性隊士達が女性に受けるような物語を量産しているのだから、叶うはずがない。
なんなら最近は真菰の口から広まったのか、女性隊士達の小説の中で自分が当て馬のように義勇に横恋慕する身の程知らずとして描かれているとのことで、余計に想いの成就が難しい状況だ。
さて、どうすればいい?
どうすれば一発逆転できる??
以前、あの部屋で小説を書いていた女性隊士に義勇の相手を自分として書いてくれないかと言って断られたのもあって考えてみなかったのだが、もし、もしもだ、宇髄や一部の女性隊士達が考えた錆兎と義勇の恋の話よりも面白い自分と義勇の恋の話を作る事ができたならどうだろうか?
制作側の女性隊士達以外はどうせ読み物として面白いから読んでいるだけだろうし、それで味方をしてもらえるというならそれよりも面白い話を描けばいい。
あいにく実弥は字が書けないので、当座は字を勉強する傍ら、作った話を匡近に書いてもらおう。
そう思い立ったら行動あるのみだと匡近にその計画を伝えて文字起こしを依頼すると、匡近は非常に複雑な顔をする。
…が、
「書き起こすだけだからな?
それを受け取ったり読んだりすることを他の人に強要しないこと。
それだけは約束しろ」
と言いつつ、結局引き受けてくれることになった。
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