元忍宇髄の創作力と協力、そしてそれを実際に広めていく乙女達の人海戦術で噂合戦はかなり有利になってきた。
が、まだ完全を期するにはまだ足りない、と、真菰は思う。
今は押し合いのようなもので、こちらが有利だとしてもあちらの話を完全に粉砕するには足りない。
そう、双方、自分の言っていることが本当の事だと証明する術がないのだ。
だからそれでも完全に近い勝利を掴みに行くなら手は一つ。
相手の言う事が嘘だと証明するしかない。
具体的には…不死川はおそらく未来に起こるであろうことを話してそれが実際に起きることで自分の言っていることが真実だという方向に持って行く可能性が高い。
だからその未来を水面下で干渉して変えることで、不死川は嘘を言うのだと印象付けようと思う。
もう予めそこまで考えての発言だとしたら恐ろしいと思うが、錆兎が提示した不死川の流す噂に押し勝つための話と言うのは、飽くまで未来からの巻き戻りではなく、過去の時代からの転生という形なので、不死川はこちらが彼と同じく未来を知っているとは気づかないだろう。
さらに不死川が知っている未来と言うのは人間である彼が自分が動いて経験した限られたことに関する情報だけだが、霊体だった真菰はかなり広い範囲の情報を持っている。
その2つの理由からこちらの方がかなり有利なはずだ。
なので真菰は前世の出来事の中でも大きく未来に関わりそうなこと…つまり不死川が覚えていそうなことを中心に、少しずつ流れを変えていくことにした。
まずは些細な記憶からさりげなく。
なにしろ相手はこちらも記憶持ちだと思っていないのと、真菰には水面下で動ける大勢の…それこそ全女性隊士の半数以上の同志達がいるので、彼女達に少しずつ協力を求めれば誰が何の目的で変えているのか…そもそもが故意に前世の状況を変化させているのかすらわからない。
そして最終的に目指すのは不死川以外の風柱の擁立。
これが岩柱の悲鳴嶼さんあたりなら柱に居なければ黒死牟や無惨を倒せず大変なことになってしまうかもしれないが、所詮、最後の最後で寝ていた男だ。
他に優れた使い手がいれば、風柱は不死川以外でも問題ないと思う。
例えば…彼の兄弟子とかはどうだろうか。
少なくとも不死川が柱になるきっかけになった下弦の壱戦まではまんまと敵の術中に陥って戦闘不能になる不死川とは違って、普通に戦って不死川を救ったくらいの腕だ。
その後、敵に操られた子どもを守って死んだが、生きていたらなんなら皆を守って死んだ錆兎と同様、強い柱になったんじゃないだろうか。
そうだ!錆兎に彼を鍛えさせようか。
幸い不死川が水柱屋敷に未だ住んでいることで、彼とも完全に縁が切れていない。
時折り不死川の様子をみに顔を出すことすらあるので、彼も住まわせて鍛えられないか、錆兎に相談してみよう。
そうして思い立ったが吉日!とばかりに
──錆兎、相談があるんだけどっ!!
と、錆兎の部屋に駆け込んだ真菰はそこで硬直した。
──え~っと…?
とさすがに戸惑う真菰に、布団の中で半身を起こして、なんだか抱きつこうとしている義勇の肩と額に手を置いて引きはがしているように見える錆兎は、ホッとしたように
──真菰が呼びに来たから。仕事の話だ。いったん引け。
と言う。
それにどこか恨みがまし気な目で見上げてくる義勇に真菰も珍しく少し焦って
──ほら、例の不死川のデマの件で良い対応を思いついたからっ。義勇のためなら錆兎も協力してくれるかなと思ってっ。
と、言い訳すると、少し義勇の視線が和らぐ。
そこであと一押しと思って
──義勇の事は錆兎は誰よりも大切に想っていて誰よりも心配してるからね。
と言うと、自分を想っている錆兎というフレーズに機嫌を直したのか
──ご飯作ってくるっ
とあっさりと錆兎の襟元を掴んでいた手を放して、テチテチと部屋を出て行った。
──え~っと…お邪魔だった?
──いや、助かった…
それを見送って、真菰と錆兎は二人揃ってはぁ~と大きく息を吐きだす。
ちらりと隣を見ると、錆兎は珍しく脱力した様子だ。
──錆兎が義勇を拒むとかないと思ってたけど…
と、自分もたいがい乙女達に毒されているなぁと思いつつ言うと、錆兎はガシガシと頭を掻きながら
──寝起きはやばい。俺も半分寝ぼけてるから…
とまだ目が覚めきらないような少しぶっきらぼうな様子で言った。
──寝ぼけてるから…なに?
──対する時の力加減を間違う。お前なら適宜逃げるだろうが、義勇は逃げずに怪我をする。
──あ~…そう言う意味?
──他に何があるんだ?俺が意志で義勇に勝てるはずがないだろう?ただ、自分が力がありすぎる自覚はあるから寝ぼけて加減をせずに触れて怪我をさせるのを避けたいだけだ。
…少しばかり連勤が長すぎて熟睡してたから、普段ならそんなことないんだが……
と、錆兎は眠気を吹き飛ばそうとするかのように首を横に振る。
「で?お前が考えている通り俺は最終的に自分の意志より義勇の望みを優先する男ではあるが、そのことの確認に来たわけではあるまい?」
と、少し目が覚めて来たのか、錆兎はそう言って真菰に暗にここに来た理由を尋ねて来た。
「うん、その義勇の安全を守るための計画について相談なんだけど?」
と、そこで真菰がそう言うと、
「そうか、聞く。話せ」
と、その言葉で完全に目が覚めたらしい。
はっきりと聞く態勢が整った顔で、錆兎は完全に布団から出てその場にしっかりと胡坐をかいて座った。
そうして真菰が考えていた事を伝えると、錆兎は
「ああ、別に泊めるのも鍛えるのも構わないぞ。
ただ細かい修行の計画をたてるのと、粂野の勧誘はお前がやるならな」
と快諾してくれた。
「うん、そのあたりはもちろんやるよっ。
基礎鍛錬まではあたしでもイケる。
でも打ち合いとか…あと風の呼吸に関してはたぶん無理だから」
「ああ、そう多くの時間は取れないが、そのくらいなら暇を作る。
義勇の身の安全には代えられないしな」
と最終的に役割相談を終えた頃、食事を作った義勇が部屋まで運んで来てくれたので、3人揃って頂きますをした。
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