──う~さ、もしかして今日須磨はお前ん家か?
──知らん。真菰に聞いてくれ。
任務明けの朝、3人で藤の家で朝飯を食べていると、派手な額当てをした男が部屋に乱入してきて、許可も取らずにドカっと錆兎の前に座った。
年齢も柱になった時期も近いのでなんのかんので二人は仲が良く、必然的に接することが増えるその奥方達とは真菰が仲良くなった。
特にそのうちの一人、須磨は”趣味仲間”である。
とはいっても、錆兎はとにかく真菰にはそのあたりと仲良くするにあたって下心がまったくないわけではないのだが…
なにしろ宇髄は柱だ。
前世でも柱だった。
なので不死川が親しみを持って接していく可能性はあるし、なんなら味方につけようとするかもしれないので、それは絶対に阻止をしなければならない。
それには宇髄が大切にしている家族をこちら側に引き込むのが一番手っ取り早い。
まあ錆兎だけでも宇髄の好意は十分引けるので大丈夫とは思うが、念には念を入れた方が良いと思う。
幸いにして嫁の一人の須磨は男女でも同性でも恋愛系の話がとにかく好きなのもあって、同期の書いた小説や絵を見せたら即はまってくれた。
というか、読むだけではなく、書く側にまで回るくらいにはどっぷり足を踏み入れている。
初めは真菰とその同期の女子3人組で始まったこの活動だが、1年以上が経過して読む人間も書く人間も多くなりすぎて、欲しい人間全員分を書き写すという事が難しくなってきたのもあって、今では水柱屋敷にそれ用の部屋を作り、そこに本を置いて好きに読み、個人が読むようでも布教用でも持ち帰りたい人間は自分で書き写してもらうという形をとっていた。
同志の少女達は忙しい合間を縫ってはその部屋に入り浸り、本を読んでは仲間と語り合い、時には気に入った本を書き写す…そんな日々を過ごしている。
常に殺伐とした命がけの日々を送っている少女達のささやかなこの娯楽に関しては、実はお館様もご存じで、それで皆が楽しく癒されるなら…と、秘かに推奨されているとか、そんな噂もちらほらあるくらい、この活動は秘かに…しかし有名になりつつあった。
知らぬはその屋敷の主にして題材の片割れにされている水柱様くらいだと皆言っている。
そう、もう一人の本の主役であるその継子はなんなら皆が気まずくならないように気を使って人が居ない時を選びながら、こっそり足を運んで読んでいるくらいなのだから。
須磨も今日は新作を届けがてら、そのまま部屋に籠って他の少女の作品を堪能するつもりだと言っていた。
だから真菰は
「うん。たぶん泊りになるんじゃないかな?」
と頷く。
「お前さ…いいの?」
とそれに宇髄がじとりと錆兎に視線をむけた。
その言外の意味を全く理解もしていない水柱様は
「まあ俺達はほぼ離れで生活をしているし、これまで俺と義勇と鱗滝さん、男3人しかいない環境で居た真菰が同性の友人達と楽しく交流を持てるなら、母屋は広いから部屋一つくらい問題はないぞ?」
と事情がわかっていないだけに思い切り的外れな答えを返してくる。
「音柱である宇髄の奥方達の出入りという意味では、須磨殿は真菰と仲良くしてくれているし、雛鶴殿はたまに訪ねて来ては義勇に料理を教えてくれているらしいから、ありがたく思っている。
だから宇髄が問題ないということなら、うちは全く問題はない」
「…お前………。
まあ、いいか。もう水柱様はそのまま清く正しく美しく生きていてくれ」
と、宇髄はその錆兎の返答に大きくため息をついてそう言った。
「それで?今こうしてわざわざ帰宅前を狙って訪ねて来たのは、須磨殿の予定の確認のためだけなのか?」
と、そこでとりあえず話題が途切れたところで、いったん箸を置いて宇髄を向き直る錆兎。
それに宇髄は少し目を見開いて、そして苦笑した。
「お前、よく気がつくのか鈍感なのか、どっちかわかんねえ男だよなぁ」
そう言いつつ宇髄も食事を運んできてくれた藤の家の者に人払いを頼むと、錆兎に視線を向ける。
「別に誰に聞かれても良い話題なら、どうせ須磨殿が今日うちにくるのだし、その時に一緒に来て話すんじゃないかと思っただけだ」
「あ~…うん、まあそういう考えもあるわな。
でも普通はだからと言って今訪ねて来た事をそういう風には取らねえわ」
「で?結局どうなんだ?」
「あ~…お前んとこの居候の話なんだが…」
「…実弥の?」
そこで錆兎はゆったりと茶をすするが、真菰は思わず動きを止めた。
「…真菰はなんか知ってんのか?」
と聞かれて一瞬しまった!と思うが、まあ宇髄になら良いだろうと考え直す。
そして
「なんかね、あいつ初対面の時から義勇にちょっかいかけてるの」
と、とりあえず最低限の情報だけ口にした。
「で?その手の事?」
と逆に聞き返すと、宇髄はがしがしと頭を掻きながら、
「あ~、まあなぁ。
最近任務で一緒になったんだが、なんだか自分は前世の記憶持ちで、前世では義勇と恋仲だったとか言って回ってて…」
と言う。
それを聞いて義勇がものすごい顔をした。
それはもう思い切り”心外っ!!”と言うような…。
そして実際に言った、”心外っ!!!”と。
その正面で真菰は顔を引きつらせ、錆兎はそんな二人を見て苦笑している。
そして錆兎以外の二人に睨まれて、宇髄も苦笑。
「あ~…うん、俺もすげえ出鱈目だよなぁとは思ったんだ。
でもあんまりあちこちで広めてるから、言っておいた方が良いかと…」
と、それは本当なのだろう。
だからこそ注意喚起で来てくれたのだと錆兎は悟った。
「それな…俺もあいつが修行を終えた日に聞いた。
で、義勇との仲が近づくように協力してくれと依頼されたんだが、実際に今義勇がそれを望んでいないから協力は出来ないと断ったんだが…。
もしかして周りにも協力を求めていたりしていたか?」
「あ~、なんなら俺も奴とは何度か任務を一緒してて、お前に頼まれてたからそれなりに声かけてたせいか、なんだか懐かれてたからな。
直接頼まれたが、恋愛なんざ自分でなんとかできねえなら諦めろって言っておいた」
と宇髄が言うと、真菰と義勇から拍手が起こった。
「これは…由々しき問題だね」
と眉を寄せて真菰が言えば、
「そんなデマを信じる人が出てきたら絶対に嫌だ」
と同じく難しい顔で義勇が頷く。
そんな中、宇髄の話は聞き終わったとばかりにまた箸をとって食事を始める錆兎に、
「あんた何一人で他人事してんのよっ!義勇の危機よっ!!」
と真菰が立ち上がってそちら側に回ると、錆兎の後頭部をすぽ~ん!と叩いた。
それに錆兎はやれやれと言った風にもう一度箸を置き、そして言う。
「巻き戻り…というのは経験がないからわからんが、前世と言うなら俺と義勇は平安時代からの縁だ。
俺が鬼退治の渡辺の子孫だと言うのはお館様を始め一部には知られていることだが、正確に言うと最初は綱の孫だった、
で、耀哉様の先祖の産屋敷家の宴で卜部の孫だった義勇に出会って、その後いろいろあって恋仲になってその時代を一緒に生きたあと、ずっと一緒に転生を続けてずっと恋人をやっている。
途中でちょっとした事件があって以来、義勇の方は記憶がある時代とない時代があるが…あってもなくても俺達はいつの時代も出会って惹かれ合って一緒にいるんだ」
「「へ??それってっ?!!!」」
淡々と、本当になんでもないことのように言う錆兎に真菰と宇髄が驚きの目を向けた。
「それって本当のことなのっ?!」
と、固まる宇髄の横で真菰が身を乗り出すと、錆兎は
「さあ?どうだろうな」
と意味ありげに笑う。
「でも必要ならそう流してやれば、皆もより物語性のあるほうに興味をひかれるだろう?
俺が…というとまた妨害だのなんだのと言われるだろうし、同じくずっと転生を繰り返していて友人として傍でそれを見て来た者の話…ということで、宇髄あたりが発信元ということにすればより信憑性がでるんじゃないか?」
錆兎はそれだけ言うと、もういいだろう?飯を食わせてくれ…と、また食事を続けた。
そうして宇髄に向けられる真菰と義勇の熱い視線。
どちらも自身が大切にしている嫁達の友人だ。
断れば嫁達が多少なりとも心を痛めるとなれば、もう宇髄に拒否権などないも等しかった。
まあ…最近は不死川とも交流は出来たが、それは飽くまで錆兎の頼みだからというつながりなので、嫁の件がなくても宇髄がどちらにつくかなど、考えるまでもないのだが…
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