思いがけない諸々からの驚きから脱却すると、真菰は冷静になって考え始めた。
伝えることと伝えないことの取捨…それが大切だ。
だがまず前提条件は伝えておかなければ話は始まらない。
ということで真菰は口を開いた。
前世と言って良いのかわからないけど…。
巻き戻る直前はもうずっと死んでて霊体だったから…」
…という事から、義勇ともう一人の弟弟子の死、そしてそれを見送る鱗滝師匠を見て、絶対こんな結末は認めないと思ったら岩を斬った時に巻き戻っていたことまでは話した。
「とにかく鱗滝さんに幸せな人生を送って欲しいのっ!
そのためにあたしは過去に戻ったんだと思ってるっ。
だから弟子は全員立派な隊士として活躍をして、いつか鱗滝さんが年をとって亡くなる時には全員でお見送りをして、良い人生だったと思わせてあげたいの」
そう言うと、錆兎もそこは同じ思いらしい。
うんうんと大きく頷く。
「だからね、まずあたし達は絶対に鱗滝さんより先に死なないっ。
これが最低限。
出来れば立派な隊士になって、鱗滝さんに喜んで欲しい。
だからまあなんというか…一番頂点に立てる能力のあるあんたを柱まで押し上げようと思ったの。
義勇だって前世みたいに強くなっても感情が抜け落ちて皆に避けられるような人生じゃなくて、皆に好かれて笑顔で居て欲しい。
それにもあんたが必要だしね。
力も人格も優れた柱とその傍らに癒されるような弟弟子…と、しっかり者の姉弟子?
それがまず目指すところだった。
いままさにそうなってると思うんだけど……正直、不死川がいなければ一点の曇りもなく完璧なんだけど…。
というか、前世であいつ義勇にさんざん暴言や暴力ふるってたくせに、よく恋人同士だったなんてふざけた嘘つけたもんだと思うわっ!
本当の事知ってるってことを突きつけてけちょんけちょんにしてやらないとっ!」
師匠は最優先だが弟弟子だって可愛い。
なのでそう憤る真菰に錆兎はやっぱり淡々と
「それはやめとけ」
と言う。
「なんでっ?!
そもそもあいつが嘘ついて義勇に近づこうとしてるのに気づいてたのに、なんでこの屋敷に寝泊まりしていいなんて許可出したのっ?!」
真菰は鱗滝さんが最優先で、次に弟弟子達、それから同期女子などの友人達という順番だが、真菰が認識している限り、錆兎の最優先は義勇だと思う。
下手をすれば師匠より優先度が高い気がする。
まさか不死川が本当に義勇の事を好きで大切にしてくれるなら…なんて思っていないよね?!と身を乗り出すと、錆兎はそんな真菰を制するように両手の平をこちらに向けて、
「それはないから安心しろ」
と苦笑した。
「じゃあなんで?」
とそこで真菰がそれでも険しい表情を崩さずに聞くと、錆兎はなんだかこれまで見たことのないような読めない笑みを浮かべて言う。
「信頼の出来ない人間を相手にする時はこちらの手の内を極力見せないということが大切だ。
だから積極的に協力は出来ないというだけの諾とも否とも取れる返答で相手を極力警戒させないようにしておいて、水面下で動いた方がいい。
そう言う意味で、真菰も不死川以上に前世に精通していると言う事は言わない方が良いだろう。
その時点で警戒されるからな。
ということで、自分の見える範囲内に不死川を置くことで、こちらは一方的に相手の情報を得て警戒することができた方がいいだろう?
見えないところで何か企まれるのは面倒だしな」
「え、え~っと……あんた、そういう人間だっけ?」
「実家がなくなった時点で必要なくなったから色々考えることはやめたんだが、義勇を守らねばならんとなれば、まあ考えざるを得ないな。
ただし、それを知るのはお前だけでいい」
と言う錆兎の言葉で真菰は色々を察した。
「表向きは…あんたは力はあるけど細かいことは気にしない大雑把な大将で、あたしはその下で策を献上する参謀…ってことね」
と、その上でその理解を口にすると、錆兎は首を横に振る。
「下じゃないな。横か傍ってことで。
鬼殺隊の階級的な事は仕方ないとしても、俺は私的な人間関係においては俺達の間に優劣はつけたくはない」
と、そこにこだわりを見せるのは、真菰がいままでよく見知ってきた弟弟子で、なんだか少し安心をした。
「了解っ!あたしは鱗滝さんの、あんたは義勇の幸せを守るために、表では役割通りに見せつつ、水面下で共闘ね」
と、その真菰の言葉にも錆兎は
「俺は鱗滝さんの幸せもお前の幸せもすごく考えているぞ」
と言うので、真菰も
「気があうね。あたしも義勇の幸せもあんたの幸せもめちゃ考えてるよ?」
と答えて、二人で顔を見合わせて共犯者の笑みを浮かべた。
0 件のコメント :
コメントを投稿