そうして相談を終えた錆兎が向かったのは台所。
真菰は義勇と一緒に料理を作っていたが、そこに顔を出した錆兎にちょいちょいと手招きをされて、割烹着で手を拭きながら、錆兎に促されるまま居間へと足を踏み入れた。
そしてそこでさきほどの不死川との一連のやりとりを聞かされる。
──まあ…同じ時代を繰り返しということだから前世って言うのも若干違う気もするが…
ずっと気になっていた不死川の初対面の時の言葉。
まるでその時初めて会ったはずの義勇を知っているかのような発言。
だから”その可能性”を考えてはいたのだが、いざそうだと聞かされるとやっぱり驚く。
そして驚くと同時に警戒もする。
それが信頼のおける相手なら歓迎できるのだが、彼はそうではない。
前世では可愛い弟弟子をさんざんイジメてくれた極悪人だ。
絶対に絶対に彼から義勇を守らなければならない…と、彼の姉代わりを自認する真菰は強くそう思った。
まあ…せっかくこれで不死川がこの屋敷を出ていくので警戒も少し緩められるかと思えば、錆兎が今後の滞在も許してしまったと聞いて、がっかりはする。
それでもそのあたり、性善説で生きている錆兎らしいなぁと呆れ返りつつ、真菰は錆兎からそれを打ち明けられたことに対して、
「それで?あんたはその不死川の言い分を信じてるんだ?」
とため息をついた。
すると錆兎はそれに対して淡々と
「一部は?
前世の記憶があるという話は思い込みか本当かはさすがにわからないが、不死川の中では本当の事なんだと思う」
と、微妙な返事を返して来る。
「…一部は…っていうと?」
含みのあるその言い方に、真菰は眉を寄せた。
暗にどのあたりが?と言う真菰の質問に、錆兎は苦笑。
「自分が強かったという記憶な。
本人にも言ったが、それがあるせいで人間に当然あるはずの死に対する恐怖の感情から来る用心深さみたいなものが欠如しすぎている。
ようは強いはずの自分の記憶が強すぎて、現在勝てない鬼と対峙していて逃げるなり助けを呼ぶなりしないと死ぬということが脳内から抜け落ちていたんだと思う。
で、何故倒せるはずのものが倒せないのかもわからないから、どうしていいかわからず苛ついていたんだ。
本来ならまず弱い自分を自覚して、生きるために己を鍛えるところから強さへの道は始まるからな。
その自覚がなさすぎて停滞するしかなかった。
でもある程度それをわからせて道筋を示してやれば、あとは勝手に鍛錬もするし、強くなれば苛つきも減るから揉め事も起こしにくくはなる」
その錆兎の説明に真菰は目から鱗が落ちる思いだった。
大雑把な男という印象のある弟弟子だが、洞察力と勘の良さ、そして本質を理解した上で何をさせれば良いかということを見抜く能力はかなりあったのだと今更ながら思う。
どうすれば改善できるかということを具体的に描けていたから、単に口添えをするという形ではなく、引き取って根本的な改善をという話になったのか…と、真菰も納得した。
そこで念のため…と
「じゃあ、その一部じゃない部分は?」
と聞いてみると、錆兎はこれにも淡々と
「前世で義勇で恋仲だったという部分だな」
と、答える。
「…その根拠を聞いていい?」
「元だったとしても恋仲だったなら義勇と呼ぶだろう?
やつは本人に対しても他の人間との話題で義勇の名を出す時も一貫して冨岡と呼んでいた。
元々親しくても苗字で呼ぶ人間も居ないとは言わないが、不死川は仕事を離れた私生活では俺に対しても真菰に対しても名前呼びだったからな。
おそらくそういう人間ではない。
だからそれが事実か思い込みかどうかは別にして、不死川の脳内では本当に前世だという記憶があり、そこでは義勇とは親しいわけではなくそれなりに距離のある関係だったんじゃないかと思う」
うわぁ…と真菰は内心思う。
錆兎がこんなに色々見ているとは思ってもみなかった。
「もしかして…あたしについても色々気づいてた部分ってあったりする?」
と思わず聞けば、錆兎はなんのこともないという顔で
「ある程度は?
何か隠されているんだろうなとは思っていた」
とあっさり認めた。
「…なんで言わなかったの?気にならなかった?」
とさらに問えば
「真菰が言わなくて良いと思っていることなら、聞かなくても支障がないことなんだろうと思ったから」
と、とんでもない返事が返ってくる。
信頼度がすごい。めちゃくちゃすごい。わかってたけどすごい。
ある種感動ものだ。
「えっと…例えば何を隠されていると思っていた?」
と好奇心に駆られて聞いた真菰に、錆兎はこれにも淡々と答える。
「おそらく…真菰も不死川のように前世の記憶持ちなんだなと、今のやりとりで思っている。
そのうえで隠されていることは、真菰が知っている前世では俺は最終選別で例のデカい鬼に煽られて逆上して刀の扱いを間違えて刀を折って死んだこと…あたりか?」
「ちょ、ちょっと待ってっ!!あんたも前世の記憶持ち?!」
「いや?全然。でもその反応だと当たりなのか。
俺も未熟者だったんだな」
驚く真菰に錆兎はけらけらと笑って見せた。
「次は根拠は…と聞かれそうだから言っておくと、柱になったという不死川の記憶に義勇は居たが俺は居なかった。
だが義勇と俺が完全に縁が切れるという事はないからな。
その頃には俺は死んでいたんだろう。
ということで、あとは最終選別の前にお前から口を酸っぱくして注意されたことを考えれば、それが原因で俺は死んだんだろうなと」
思い切り脱力した。
本当に脱力した。
単純で大雑把だと思っていた弟弟子は、実はめちゃくちゃ頭と察しが良い男だった。
前世の記憶について感情的に信じる事も疑う事もなく、そういう事象がある可能性と言う形で受け入れて、さらにそこでの自分の早すぎる死についても感情的になることなく、単なる客観的事実として処理をできる。
そしてなによりも…聞かれない限り余分なことを口にしないという賢明さの持ち主と来た。
ああ、そう言えば錆兎は代々続く武家の集団の頭領の嫡男なんだっけ…
と、今更それを思いだす。
「聞かれたから言ったが、真菰が言いたくない、言う必要がないと思う事はこれからも言わないでもいいぞ。
ただ物理的にやらねばならんことがあるなら、早めに教えてもらえれば余裕を持って備えられるからありがたい。
その判断はこれまで通りお前に任せるから」
ああ…そうだよね。
本当に大きな集団の上に立つ頭領は全てを自分でやるんじゃなく、任せるところは任せるんだよね。
上に立つべく育てられてるんだ…。
と、今日何度目かの再認識のあと、真菰はいったん落ち着こうと、大きく息を吸って吐き出した。
さすがスノ様の錆兎ですね。聡明ですね。真菰ちゃんに対する信頼が半端無い❣️
返信削除義勇さんは安心ですね。これからのお話しがますます楽しみです。
私はカップルとしては錆義なんですけど、鱗滝一家は真菰ちゃんを含めて全員親愛と信頼で結ばれた仲良し家族で居て欲しい派なのです😁
削除これからこの他にも協力者が色々出てきます💕
最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
私も同感です。鱗滝一門の団結の強さは安心感を与えてくれてとても頼もしいです😊 頑張れ水兄弟‼️
削除これから協力者の登場が楽しみです💕
次回はまずは一人(+α)。
削除協力者の輪はどんどん広がっていきます😁