諦めが悪い2人の人生やり直しバトル_23_水柱屋敷第一の条件

──よく来たなっ!お前用の岩も用意しておいたっ!

言われた通りの時間に水柱屋敷の門をくぐると、すでに水柱が待っていて、腕組みをしながら満面の笑顔で言ってきた。

え?岩?なんで岩ァ???

あまりに当たり前に言われたので自分の方がモノ知らずなのかと思ったが、そうではなかったらしい。
水柱の隣に立つ実弥がすごく苦手意識を持っている例の女が

──錆兎、いきなり岩とか言われてもわかんないって。省略しすぎだよ、あんたはっ!
と、ド~ン!と遠慮なく水柱の背を叩いて言った。

そうして今度は実弥に視線を向ける。

「説明の前に…まず世話になるんだから、きちんと挨拶っ!
今回、あんたを更生させるっていうことで除隊を再考してもらっているんだから、そのあたりからビシバシ行くよっ!」

と、なんだか水柱その人よりも偉そうだが、事前情報からすると実際に館内では姉弟子で水柱よりも立場が上らしいので、実弥も逆らわないでおこうと、

「あ~、世話になります。よろしくお願いします」
と、頭を下げる。

それに彼女は、よしっ!と満足げに言ったあと、岩のことを含めて説明をしてくれた。

「まず状況説明ね。
今回、錆兎はあんたを自分が更生させるってことで、あんたを預かることになってるの。
で、やることは二つ。
一つは礼儀や協調性とかを学ばせること。
もう一つは実戦で困らないくらいの剣技を身につけさせること。
で、さっきの岩だけど、あたしたち鱗滝先生の弟子達は、身の丈くらいの大岩を斬れるというのが最終選別に送り出してもらえる最低条件なのね。
だからその最低条件を満たすくらいにならないと、隊士候補としてすら認められない」

そう言う真菰の指さす方には身の丈どころか身長よりも大きな岩。

──まさかこれじゃあねえよなァ…
と呟いた実弥の声を拾った水柱は困ったような笑みを浮かべて

──すまんな、山じゃないから少し小さめのしか用意できなくて。これじゃ物足りないか…
などと、恐ろしいことを言う。

これ…おそらく他意はない。
実弥が日々自分は柱になれるほど強いのだと豪語しているので、水柱は本当に実弥がこの程度の小さな岩では…と不満に思って言ったと思っている。

…ってことは……
え?え?やっぱりこれなのかァ??

目を見開く実弥に、水柱と違いその意味をしっかりと理解しているであろう真菰が
──義勇が斬ったのよりちょっとだけ小さいけど…まあ誤差の範囲じゃないかな?
と、にこりと意味ありげに言った。

義勇を守ると豪語したなら、このくらいは楽々斬れないと…と言外に言われている気がする。

やってやろうじゃねえかァ!!
と、女に馬鹿にされている気がして実弥は持ち前の負けん気で思うが、実際問題、水柱屋敷に居るだけで強くなれるわけじゃない。

──で?やる気はもちろんあって来てんだけど、風の呼吸を教えられる奴はいんのかァ?
と言うと、いきなり認識する間もないほどに素早く近づいてきた何かが頭をガシっとつかんだかと思うと、ゴン!!と地面に頭を打ち付けられた。

──言ったよね?礼儀も鍛えるよって

グアングアンする頭の上で、両手で頭を掴んだまま、きつねっこの女が言う。

強え…とんでもなく強え…
体術の練度がすでに違う。

そう言えば…水柱が前に会った時に
『真菰は正直男より強い。怖いくらい強いからな?』
とか言ってやがったけど、マジだったのかァ……
と、打ってぼんやりした頭で思った。

でもとりあえずここは受け入れてもらえねば困る。

「すいませんでした。でも岩を斬るのに鍛えるにしても師匠は必要じゃないですか?」
と、言葉を正して聞くと、水柱はさらっと

「基礎鍛錬は一人でもできるようにしておくし、刀に関しては俺が時間が取れる時に教える」
と言った。

「…あ~…俺が水の呼吸を??」
今更?別の呼吸の使い手になれと?と思って聞くと、水柱はあっさり
「いや?それは無理だろう?
俺も基礎程度なら風の呼吸も使えるから、風でやる」
と、驚くべきことを言う。

いや、いくらなんでも、ちょっと知ってる素人に教わらないとならないくらいできないわけではない。
身体がついて行かないだけで自分は知識としては前世で柱になれた程度には風の呼吸については熟知しているのだ。

だがそこでそんなことを言ったらまたキツネ女の鉄拳が飛んで来そうな気がする。
そう思って躊躇する実弥の前に、カランと木刀が投げてよこされた。

「そうだよな。元とは言え風柱を師範に持っていれば、いまさら現役の柱とは言え、他の呼吸の人間の指導を受けて役に立つのかとは思うだろう。
聞くよりやってみる方が早い。
…ということで、ついてこい。
裏庭で少し風のみで打ち合いしよう」

そう言う水柱もすでに木刀を手にしている。
その実弥の反応を予測しているような展開の速さにも驚くが、それ以前にその言葉に実弥は目を瞠った。

──え??…もと…かぜ…柱?

あのふざけた師範は元風柱だったのか??
と驚く実弥に、錆兎はそこで初めて驚いたように

──なんだ、知らずに師事してたのか。もったいない。
と目を丸くする。

そして俺も教わりたかった…などと呟く水柱。
変な男だと思う。

──水の柱が他の呼吸を教わってどうするんだ…っ…じゃなくて、ですか?
と思わず出た疑問の言葉に慌てて敬語を足すと、きちんと指示をきいている実弥の様子に、キツネ女がうんうんと笑顔で頷いた。

で、水柱の方はと言うと、
「色々出来た方がいいだろう?
俺の実家は実際、水、風、炎の複合の呼吸を使う剣術だったし、なんなら俺は個人的にはその中で水が一番自分の性格に合ってない気がしているから」
などと、その座を目指していた水の呼吸の剣士がみな号泣しそうな言葉を吐く。

「…柱がそんなこと言っていいのかァ…っっ……ですか」
言い慣れない敬語をいちいち足すのがおかしかったのか、キツネ女が小さく噴き出すが、気にしたら負けだ。
もうすべて気にしないことにして水柱との会話に集中する。

「あ~…別に嫌とかじゃなくてな。
水の呼吸はかなり防御寄りの型で、俺はどちらかと言うと攻撃の方が楽しい人間なんだ。
気づけば突っ走ってしまうから、自重はしているんだが…。
だから性格的に水の柱としてはあまりふさわしくないというか…真菰か義勇がなれば良いと思っていた」

そう言う水柱に実弥は驚く。
隊士になって、柱になりたくないなんて人間が居たのか…。

あ~でも前世の義勇もそうだったかもしれない。
だが彼の場合は自分の実力不足だからという理由だった気はするが。

そんなことを話しながら辿り着いた裏庭で、水柱が頷くと、キツネ女が巻き込まれないように距離を取る。

そうして実弥を中央へと促すと、木刀を構えた水柱が

──そちらから打ち込んできていいぞ。風の呼吸でな
と言うので、実弥も刀を構えて、まず最初の型、壱ノ型 塵旋風・削ぎを繰り出した。

まっすぐに伸びていくその攻撃。
広範囲を攻撃する技なので、避けにくいはず。
そう思ったら、なんと同じ技を返されて、しかも柱とは言え水の呼吸の剣士の攻撃に実弥の風の攻撃は霧散されて、相手の剣圧で実弥は思い切り吹っ飛んでしまった。

負け…た?他の呼吸の人間の攻撃に?風の呼吸で?
前世では風柱だったはずの自分が?
もう吹っ飛ばされてぶつけた痛みも感じないくらい呆然である。

そこで水柱は木刀を下ろし、実弥に駈け寄ってその手を取って強引に助け起こした。
起こされる気などなかった実弥が引きずられて起きざるを得ないくらいの力で…

──さすが元風柱が教えただけあって、綺麗な風の型だな。
と、別に驕る様子も侮る様子も見せずに淡々と感想を述べる水柱にかえって苛ついた。

──他の呼吸のやつの風の攻撃で吹っ飛ばされたらなんにも意味がねえっ
ジワリと目の奥が熱くなる。

が、水柱は掴んでいた実弥の手を離すと、自分の手を実弥に向けて見せた。

「鍛えた時間、刀をふり続けた回数の差だ。
型としてはお前の壱ノ型は完璧だと思うぞ?
ただ体の鍛え方が足りん。
自分で思わなかったか?なんできちんと刀を振るっているのに相手が倒れないのかって」

上背は実弥と大して変わらないのに、水柱の手は大きく固く、豆だらけだ。
そして…言われてみてみれば、彼の言う通りで、実弥は自分の認識と現実の差にいつも苦しんでいたのを思い出す。

「…確かに…そうだけどよォ……っ……です?」
と、吹っ飛ばされた直後は忘れていた敬語を慌てて付け足すくらいには、実弥も少し冷静になってきた。

それを察したように水柱はちらりとキツネ女に視線を向け
「俺は先生に弟子入りした時、実家ですでにある程度は呼吸を身につけては居たが、鍛え方が足りていなくて、あんなに華奢な真菰に叩きのめされたからな。
結局、強くなるには型を覚えればそれでいいというわけではなく、それを振るう身体、筋力を鍛えて鍛えて鍛えるしかない。
……というのも真菰に言われて…」
と肩をすくめる。

なるほど。
そんな関係性だったから隊士の頂点に昇りつめた今でもまだ、姉弟子は尊敬すべき姉弟子なんだろう。

「まあ…それで多少なりとも強くなれるというのは、俺で実証済みだ。
お前の風の型は、弐の型以降もあんな感じなら、俺が教える事は特にないと思う。
お前の師範はかなりきちんと伝授してくれていると思うぞ。
だからここに居る間はまずは基礎鍛錬と素振り、それをしたうえで時折り大岩に挑戦と言う感じだな。
礼儀は…俺よりは真菰の方がきちんとしているし教え慣れているから教わるといい」

それだけ言うと、水柱はきつね女…もとい、真菰に、
──真菰、あとは任せた。俺はこれから着替えて柱合会議だ
と、なんとそんな大切な会議の前に時間を作ってくれていたらしく、そう言って、振り向きもせず建物の中へと帰って行った。

真菰と二人で残されるの嫌さに実弥もそれを追おうとしたが、真菰にグイっと羽織の裾を掴まれて、

「そっちじゃないっ!あんたはあっちの母屋っ!」
と、水柱が消えた建物から渡り廊下でつながった建物に連れて行かれた。

え?と思う。
冨岡は?一緒じゃないのか?とは言わない。言えない。
おそらくそれを口にしようものなら鉄拳が降ってくる。

「あ~…え~っと?館の主の柱が離れで住んでんのか…ですか?」
引っぱられながらも言う実弥に、真菰ははあぁ~っと大きくため息をついた。

「あんたさ…もしかして敬語って使ったことない?
『館の主の水柱様が離れに住んでいらっしゃるんですか?あるいはお住まいなんですか?』ね。
で、離れで住んでいるかどうかの答えはそう。
錆兎と義勇とあたしは普段は離れに住んでるの。
母屋は広すぎるし、お客を招くこともあるから、自分達の生活の場に他人が居るのって落ち着かないでしょ。
錆兎はそういうおうちの子だから平気っぽいけど、あたしと義勇は落ち着かないから」

口調は厳しいが、とりあえず教えてくれる気も答えてくれる気もあるらしい。
敬語を使った事があるかどうかと言えば、前世ではお館様の前に出たこともあるので使えなくはないはずなのだが、今生で久しく使っていないのと、目の前の相手が自分と変わらぬ年の少年少女なだけについつい忘れてしまうだけだ。

お館様の前限定で根本から身についてるわけではないので、敬語を使おうと思って使う時以外は、スッとはでてこないがわからないわけではない…が、ヘタな言い訳は鉄拳が飛んで来そうなのでそれも黙っておく。

ただ礼だけ言って、大人しく案内された母屋の一室に落ち着いた。








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