絶望と書いて現状と読む…まあ相も変わらず字の読み書きは出来ないわけだが、実弥はそんな気持ちで水柱の屋敷へと足を向けた。
ただ、自分が覚えている強いはずの自分と、実際には弱い自分の差をどうしても理解できない。
記憶の通り強いつもりで任務に出向くたび、失敗をして周りにからかわれて怒鳴って殴ってとしていたら、いつのまにやら除隊勧告を受けていた。
一瞬やけになって除隊してやらぁ!!と思いはしたものの、それではその後どうするかと考えた時にどうしようもないことに気づいて思いとどまる。
いや、自分が思いとどまっても除隊をさせたい鬼殺隊の側が飽くまで受け入れなければ、除隊になってしまうのだが……
そういう時に相談に乗ってくれたり、なんなら身元を引き受けてくれたりするのであろう師範はすでに消え、実家もなく、途方に暮れるしかない実弥だったが、そこでも唯一実弥を見捨てないでくれたのは、実弥を拾って隊士になれるよう師範の所に連れて来てくれた匡近だった。
もちろん、匡近だって全くの新人ではないがまだ中堅の一隊士で、一般隊士の中では一番階級の高い甲の隊士達の訴えを翻すような力はない。
そこで彼は甲よりも地位の高い人間ならということで、なんと柱の屋敷を嘆願しに回ってくれたらしい。
しかし柱だって忙しいし、面倒ごとばかり起こす新人を助けるために時間を割く義理はない。
ある館では門前払いを食らい、話だけでも聞いてくれた柱には、それでは除隊になっても仕方がないと断られ、8人のうち7人は取り付く島もなかったらしい。
そうして最後に辿り着いたのが水柱の屋敷だった。
そこの主である水柱には数日前に実弥が暴言を吐いて食ってかかったばかりだったので、ここは絶対にダメだろうと思って、それでも実弥のためにと塩くらい撒かれる覚悟で玄関先で他の柱の時と同様に土下座をしたら、意外にも普通に中に入れてくれて、話を聞くどころかまるで客人を相手にするように茶まで出してくれたらしい。
思い返してみれば、前世では彼らの師範である元水柱の鱗滝左近次は、自身の弟子の妹を守るために自分の命をかけてやるくらいには情に厚い優しい人物だったようなので、その弟子達も同じくなのだろう。
これまで話を聞いてくれた柱達の時のように玄関先で土下座をしながら説明をしようと思って居たところを居間に通されて茶が出てきて、頭を下げないで良いと言って話を聞いてくれたあと、なんと身元引受人として鬼殺隊側と交渉をしてくれるだけではなく、今後こういう事がないように、実弥の自認と実際の実力の差が埋まるように屋敷において鍛えてくれるとまで申し出てくれたと、匡近は感動の涙を流しながら報告してきた。
正直…除隊撤回の交渉までも、こいつに借りを作りたくないという気持ちがないわけではないのだが、それに加えて引き取られて鍛え直されるとか絶対に嫌だ。
強くて守ってやるどころか、義勇の兄弟弟子に教えを乞うなんてみっともない姿を見られるとか、どんな罰ゲームだよと思う。
しかし目の前で、これでお前を死なせずに済むとか涙を流しながら喜んでいる匡近に、そんなことを言えやしない。
匡近は下手をすれば自分の方も上の不興を買うかもしれないのに、迷惑な目で見られながら全柱の屋敷を回って土下座をしてきてくれたのだ。
除隊か水柱が身元引受人になって鍛え直すか…その二択を出された時に、もし後者を選んで実弥が面倒ごとを引き起こした時には自分が切腹して責任を取るとまで言ってくれたらしい。
そんな匡近の献身を思えば、みっともないから嫌だとかは言えない。
嫌でもなんでもこなすしかない。
さらに言うなら、みっともないところを見られるかもしれないが、それでも水柱屋敷には義勇が居る。
強さは見せられなくても優しさを見せれば懐きくらいはするかもしれない。
そうして優しさで距離を詰めて、最終的に強くなって守ってやればいいのだ。
と、そんな一縷の希望も見出したことで気を取り直して、実弥は水柱屋敷の門をくぐった。
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