全く運が悪かったとしか言いようがない。
今回の任務では、1匹だけ異能の鬼が混じっていたらしい。
実弥はそれに遭遇してしまったというわけだ。
普通の鬼なら稀血で酔わせるという方法を使っても斬ったところを見せつけることも出来たかもしれないのに、出会ってしまったのがよりによって異能の鬼だったことで、手も足も出ずにみっともなく逃げる姿を義勇に見られてしまった。
悔しくて情けなくてなんとも言えない気持ちで、実弥は朝を迎えて集合場所へと戻る。
今回は隊士の一人が異能の鬼に喰われたということで、たまたま任務帰りだった水柱がその鬼だけ倒しに立ち寄ってくれたらしい。
それを倒したという事で予定通りいったん本部へ戻って次の任務に就く彼に、仕切りの甲の隊士が恐縮して礼を言っている。
そして深々とお辞儀をしながら、彼らの後ろ姿を見送った。
そんな諸々を遠目で見ながら、
「近くで新人が多い任務を行っているという事を知って、ご自身の判断でわざわざ様子を見に来てくださったんですって。
そのおかげで異能の鬼に殺される隊士が一人で済んだのよね」
「柱は皆様すごいとは思うけど、やっぱり水柱様が一番優しくて素敵」
「最終選別の時から一貫して弱者に寄り添って助けてという姿勢でいらっしゃる方だから…」
と、待機中の同僚達の中でも特に女子がかしましく騒ぐのを、実弥は苛々しながら聞いていた。
それでなくともこれまでの任務で思い通りに行かない戦闘に苛ついて、ついつい八つ当たりをしたりと色々やらかしていてあまり周りの評判が宜しくないので、これ以上八つ当たりをして評判をおとせば、義勇の保護者兼恋人になる日がさらに遠のいてしまう。
なので比較的感情のままに生きる実弥にしてはこの時点でもかなり我慢をしていた。
しかしそんな実弥の忍耐の壁を女子達は意識せずにぶち破ってくる。
「あ~!私も水柱錆兎様の継子になっておそばで過ごしたいっ!!」
「私はむしろ継子よりも水柱屋敷の使用人になって、朝から晩までカッコよい錆兎様と嬉しそうに錆兎様に寄り添う愛らしい義勇ちゃんの様子を日々眺めて暮らしたいっ」
「私、頭が良ければ真菰様の位置にいたいなぁって一瞬思ったけど、しごでき女子じゃないと無理だから、真菰様の妹とかに生まれたかったなぁ…」
「あ~、それいいよねっ!
姉に引き取ってもらって家の家事を…と言いつつ、錆兎様に大切に守られて幸せそうな義勇ちゃんを堪能する!」
「お似合いだよねぇ。
ほら、隊服もお二人とも隠衣装部の神って言われてる凡人百舞子ちゃん作のお二人に合せて作った形のもので、上着の胸元にね、目立たないように黒い絹糸でお揃いのキツネの刺繍が入ってるんだよ~…と、さびぎゆ至上主義であるだけではなく、きつねっこ箱推しの私が言ってみる!」
この一連の会話で何かがぷちっとキレた。
「っざけんなァ!!冨岡はずっと昔から俺んだしっ、あいつを守んのも俺なんだよォ!!!」
と、思わず一番近くに居た女子の腕を取って怒鳴りつけてしまう。
「「「はぁっ?」」」
話していた女子三人が怪訝な顔を向けて来た。
「誰?あんた」
「あ。知ってる。
こいつね、最終選別一緒だったんだけど、自分は強いからついてこいとか豪語して、でも普通の鬼一匹斬れなかった恥ずかしい奴。
つか、あれからよく生き残れたね」
「あ~、あたしも前々回の任務で一緒になった。
弱い鬼一匹斬るのに毎回血だらけになってんのに、自分は特別で強くてすぐ風柱になるんだって豪語してた奴。
それで尻拭いさせられる先輩達がめちゃ大変だって怒ってた」
さんざんぼろくそに言われて、カ~っと顔が赤くなる。
「うっせえっ!クソ女どもがァっっ!!!」
と怒鳴ると、さきほどから腕を掴んでいる一人を殴り倒した。
隊士と言えど女子は女子で男の実弥とは体格も腕力も違うので、当然のように吹っ飛ばされる女性隊員。
あがる悲鳴に非難の声。
集まる他の隊士達。
地面に倒れる少女に駈け寄って助け起こす女子達と、実弥を止める男性隊員達。
…と言っても、殴り倒した時点で実弥もしまったっ!!と我に返ったので、両腕を取られてはいるが暴れはしない。
「…お前はいったん任務は離脱。
協調性がないだけじゃなく、問題を起こしすぎて、お前が居たら任務にならん。
ということで、殴られた女子は誰か手当てをしてやれ。
不死川は藤の家で待機して、本部からの沙汰を待て」
最終的に総指揮が来て、両手を腰にあてつつ大きくため息をついてそう言った。
…お前が居たら任務にならん…という言葉は地味にショックだったし怖くもなった。
下手すると今後任務に就かせてもらえない…つまり、鬼殺隊を追い出される可能性もあるんじゃないだろうか…。
そうしたらまた匡近に拾われる前の野良犬のような生活に戻るのか…。
そこから這い上がるなんてことはまず無理だろうし、自分は何故こんな思いまでして二回目の人生を生きているんだろうか…。
色々がグルグル回って、反抗どころか反論をする気力もなく、実弥は引きずられるように隊士の待機場所から藤の家へと戻らされていった。
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