とりあえず…これは夢なのか、それともこれまで過ごしていたと思っていた24年の方が夢なのか…。
あるいは、普通に過ごしていると思っていた24年は、このままではこうなるぞという予知だったのかもしれない。
最終選別事態は一度超えているどころか、自分は柱にまでなる実力があるのだから、やる事は一つ。
なるべく早い時期にまだ新米で弱いであろう義勇を見つけ出して、すでに強い自分が守ってやったり色々面倒を見てやって、その信頼と愛情を勝ち取るのだ。
そうして今度こそ一人ぼっちなんてことがない、幸せな余生を送ってやる!
便宜上前世と呼ぶが24まで生きたはずの前回の時には、それでもかなり緊張気味だった最終選別までのあと数時間を、実弥はわくわくしながら待った。
なにしろ自分は柱にまでなった時の記憶があるし、前世のようにすれば試験用の弱い鬼なんて楽勝だ。
なんなら前世では柱になったのは義勇の方が先だったが、今生では自分が先に柱になって色々助けてやってもいい。
そうすれば元々はおっとりとした性格の義勇は実弥を頼もしく思って好意を持つだろう。
そんな風に朝起きて突然に緊張感をなくして気楽に過ごし始めた実弥に、
「実弥…最終選別を超えられるのはだいたい20人中5人以下だからな?
気を引き締めていけよ?」
と匡近が、
「まあ僕が鍛えたんだから、選別くらい超えてもらわないと困るけどねぇ。
師範が天才だからって鬼は配慮してくれないからね?
実弥は天才に教わった秀才に過ぎないんだから、油断はだめだよ~」
と師範が言うが、自信満々の実弥は、まあ黙って見てろ、なんなら山の鬼全部斬り捨ててやるぜェと思うだけだ。
そうして意気揚々と師範の家を出て藤襲山に向かう実弥。
汽車を降りると鼻歌交じりに藤襲山を登る。
その周りには実弥と同じく最終選別を受けるのであろう少年少女達。
おおよそ4分の1ほどの生存率の試験とあって、みんな一様に緊張した面持ちで、全く緊張感なく登る実弥に不思議そうな視線を送っていた。
(…俺はてめえらとは格が違うんだぜぇ…)
と心の中でそんな風に思いながら、実弥は周りに
「お前ら、そんなに緊張しねえでも、危なくなったら俺んとこくれば助けてやるぜ?」
と会場へ着いて待ち時間、暇になったので声をかければ、彼らは顔を見合わせて、そしてその中の一人が戸惑ったように言う。
「もしかして…あなた、水柱様みたいに元々すごく強いの?」
少し期待に満ちた眼差しで見られるのは気持ちいい。
…が、そこでふとその発言が気になった。
「あぁ?水柱だぁ??」
前世では実弥が風柱になった時にはすでに義勇が水柱だった。
…が、彼もなりたてだったし、少女が言っているのは実弥は知らないその前の水柱なんだろうか?
それならまあ、柱ともなれば強いのは当たり前なのだが、なんでまだ隊士にすらなっていない人間が、わざわざ他の柱ではなく水柱の名を出して来るのだろうか…
そう不思議に思って居ると、別の候補者の少年が
「そうなら俺達幸運だなっ!全員生還も夢じゃないっ!」
と、キラキラした目でぎゅっと握り締めた手をかかげる。
「おい、それなんのことだァ?」
と、ますます全くわからない話の数々に実弥が聞き返せば、彼らはそれを知らないのが不思議とばかりに目を丸くした。
「えっとね、今の水柱様、柱になられたのは隊士になって1年も経ってない、まだ14歳の頃なの。
最終選別は13で超えられているから、今だってまだ15歳くらいのはず。
私達と同じくらいの歳なのよ?
でね、最終選別の時には俺の所に来れば守ってやるって候補者達に声をかけて、実際に見事な剣技で鬼をばっさばっさ斬り倒して、最終的に山の鬼を全部狩りつくして、同期全員を守って選別を終えられたんですって」
「へ???ウソだろ…冨岡がかぁ???」
年齢的には義勇の前の水柱ということはないだろう。
しかし前世ではそんな逸話は聞いた事がないし、第一実弥が知る冨岡義勇はそんな人の上に立って仕切る性格ではない。
思わず聞き返した実弥に、少女は逆に驚いた顔で言った。
「あなた…義勇ちゃんの事は知ってるのに、錆兎様の事は知らないの?」
「はぁあ??」
「水柱様の名前は渡辺錆兎様。元水柱の鱗滝左近次様の一番弟子で、いつも鱗滝様が下さったというキツネのお面を身に着けていらっしゃるから、おキツネ様と呼ぶ人もいるわ。
で、柱に就任されてからは姉弟子の花井真菰様と弟弟子の冨岡義勇ちゃんを継子としていらして、いつも3人一緒に任務に出られているのよ?」
ちょっと待てっ!
一体どうなっているんだ??
前世とか予知とか思っていたが、あれは全く違う世界の話なのか??
と、混乱する実弥。
そんな実弥の動揺する気持ちを置いてきぼりで、時間になって始まる最終選別。
そして混乱はますます広がっていくのだった。
0 件のコメント :
コメントを投稿