諦めが悪い2人の人生やり直しバトル_11_もう一人の巻き戻り

ここで時代と場所は少し変わって、もう一人の巻き戻り。

彼は今、たった一人で死の床に居た。
そう、たった一人で。



思えば孤独な人生だった。

父親はどうしようもない男で居なくなってもせいせいするのみだったが、他の大切な家族はまず6人居た弟妹のうち5人は鬼にされた母に殺されて、その母も自分が手にかけて亡くなった。

唯一残ったたった一人の弟は、これも自分を追って鬼殺隊士になったせいで、鬼の頭領の鬼舞辻無惨との最終決戦で命を落とす。

共に戦った最高位の柱の中で生き残ったのは自分を除くと二人きり。
1人はその戦いよりも少し前、上弦の陸戦での怪我で引退した音柱。
もう1人は最終決戦で右腕を失ったものの命は取り留めた水柱である。

この水柱はとてもぼんやりとした人間で、刀の扱いは優れているのだろうが、生活力が皆無。
長男で人の面倒を見るのが日常だった男は見ていると手を出したくて苛々する相手だった。

なのにいつでも自分は他の柱達とは違うから…と距離を置こうとする、
当時はなまじ剣の腕は優れているので上から馬鹿にされているのかと思ったのだが、無惨を倒して双方唯一現役で生き残った柱だからと共に食事に行ってみれば、真相は逆だった。

周りを下に見ていたわけではなく、自分は最終選別が始まってすぐ怪我をして、気を失っている間に選抜が終わっていた。
つまり何もしていないどころか、皆に守られて生き残っただけなのである。
だから合格者に数えられてしまったが合格者の資格はない。
きちんと自力で合格できた周りと違って、自分なんかが隊士を名乗るのがおこがましいということだったらしい。

それを知ってしまえば、下に見られているからと意地を張っていた自分が馬鹿らしくなる。
なるほど、どうりで胡蝶しのぶが口では色々言いながらも面倒をみてやっていたわけだ。

自分にもそれを共有してくれりゃあ面倒くらいみてやったのに…と、実は他人の世話をするのが大好きな長男の彼は思った。

というか、もう残された時間はそう長くはないが、このまま面倒をみてやろうか…と思って申し出るついでに、隣で盛大に口元につけている米粒を取ってやろうと手を伸ばそうとするが、その前に

「大丈夫ですっ!義勇さんのお世話は俺がさせてもらうのでっ!
長男ですからっ!!」
と、自分も痣持ちのくせにやけに元気な少年が、自分と義勇の間に立ちはだかるように言って、
「義勇さん、ついてますよ」
と、彼が取ってやろうと思って居た米粒を先に取ってしまう。

馬鹿野郎がァ!俺も長男だァ!!
と叫びたいところだが、ここで揉めてはこれまでと変わらない。

彼は気を落ち着かせるために長く息を吐きだして、
「別に誰がやってもいいだろうがァ。
長男て言うなら俺も長男だしなァ」
と普通のトーンで返した。

が、空気を読まない事では他の追随を許さない2人は一味違った。

まず弟弟子の方が
「え?でも不死川さん、すぐ義勇さんを怒鳴るじゃないですかっ。
お館様の許可なくいきなり禰豆子を刺すくらいには気が短い人だし。
義勇さんは繊細でおっとりとしている人なので、気遣いが出来る俺の方がいいと思いますっ」
と、失礼な発言をすれば、兄弟子の方は

「炭治郎は世界で一番優しくて俺をわかってくれていた唯一無二の大切な相手から直々に指導を受けた弟弟子で…俺の補佐についてはたぶんきちんと引き継いでいると思う。
だから炭治郎に頼むから気にしないでくれ」
と、実に穏やかな笑みを浮かべて言う。

それにイラっとしてせっかく耐えていたのにまた怒鳴って、食堂を飛び出してしまった。

全く腹の立つことに、二人とも他意があるわけではない。
義勇の方は以前からそうだったように、自分を見ると普通に挨拶をしてくるし、弟弟子に至っては未だに好物のおはぎをそっと届けたりしてくる。

はたから見ると関係は決して悪くはないのだ。
無惨を討伐を終えてからは良好とさえ言える。
ただ何か無条件に頼んだりしてくるような、家族に準ずる相手としてははじかれるだけだ。

そうして義勇には弟弟子やその妹、そして何より自分を育ててくれた親代わりのような師匠がいる。

もう一人、現役を早々に引退した柱の宇髄には3人の嫁が居て、今度そのうちの一人に子が産まれるらしい。

そんな中で彼は一人だった。
家族はもちろん、師範も兄弟弟子もとうに亡くなって、現役時代に拝領したままずっとそこに住んでいる広い家には金で雇われた使用人がいるのみだ。

そうして徐々に弱っていった体がそろそろ限界で死期を悟った時、彼は自分が一人ぼっちなことを再認識した。

使用人達は友人でも家族でもないので、仕事はしてくれるが寂しい心を癒してはくれず、ただ一人布団に横たわる部屋には誰も居ない。

もし…もしも、だ、胡蝶しのぶと同じく義勇の足りない言葉の意味や他意のないおっとりしているだけの性格に気づいて早くから優しく接してやっていたら、今頃、枕元で涙を流して見送ってくれていただろうか…と、今更考えても仕方ないことを思う。

ああ…人生をやり直せたなら…今度こそ一緒に生きられる相手を大切にするのに…

大家族に生まれて忙しくも賑やかな家庭で育ってきた彼は思う。
1人は嫌だ…。

…何故普段は意味もなく現れやがるのに、こんな本当に最期の時にだけいねえんだ!
冨岡よォ!!!

と、心の中で言葉では悪態をつきながら、最期に彼の脳裏に浮かんだのは、ほんわりとした笑みを浮かべる綺麗な同僚の顔だった。








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