こうして錆兎の声に集まってきた候補者達の救出の第一弾はひとまず終わった。
声をかけたのが早かったのもあって、集まった少年少女は全部で14人。
きつねっこ達を合わせても17人で、あと3人ほどがどこかをさすらっている計算になる。
と、それを何故かそう断言する真菰に、錆兎は首をかしげた。
「一人の方がやりやすい奴もいるんじゃないか?」
と言う錆兎に真菰は首を横に振る。
「真菰ちゃん情報だと、今回あたし達以外に名の知れた師範についていたとか、柱の継子だとか言う候補者は居ないから。
あんたみたいに著名な剣術家の一族出身とかなら、たいていはそういう育て手のとこに放り込まれてるからね。
離れたとこに居たか、色々な事情で怖くて来れないか、あるいはこちらの位置が把握できなかったか…。
どちらにしても保護が必要だと思うよ」
「そうか…。じゃあ歩けない者が居ないなら行くか」
村田は断言する真菰が不思議だったが、錆兎は言ってみただけでこだわりはなく、なにより真菰を信頼しているのか、あっさり了承して、念のため、と、また刀を抜いて皆を待つ。
その後方で皆を促すのは真菰の仕事らしい。
彼女はくいっと面をあげて
「ということでね、ここに居ても危険だし、とりあえず全員集まったら安全な場所で野営するから。
その後の事はその時に相談ってことで、歩けない怪我してる人いないよね?
居たら周りが手を貸して」
と、皆に指示をする。
しかし開始早々逃げ回って疲れたのだろう、
「え~移動するの?ここでみんなで待ってたらダメ?」
と、女子達からそんな声もあがって、真菰がさらに何か言おうと口を開きかけるが、その肩を錆兎が
「真菰、落ち着け。
俺はお前が賢明でその判断がいつも建設的な事は知っているけど、他は初対面だからそうではない」
と、軽く叩いて彼女を少し後ろにやると、自分が前に出た。
そして、真菰と同様に、自分もくいっと面を上にあげて顔を見せると、
「時間がない。手短に話す。
そのうえで俺達の判断が信じられないという事なら残ってもらっても構わないが、とりあえず最後まで聞いてくれ」
と始めた。
「ここが野営に適していない理由は、鬼のほとんどがこの近くに居るから。
理由は、藤重山は選別の時以外は人が来ないため、ここの鬼は飢えている。
だから選別の日は少しでも人を喰おうと入り口近くに集まっている。
全員集める理由は、鬼は人を喰うほど強くなる。
だから今居ない人間が万が一鬼に喰われると、それだけ倒すのが困難になる。
人道的とかそういうのを別にして、合理性だけ言うならば以上だ。
俺は山育ちの無骨者だから愛想のない言い方ですまない。
皆が疲れているのはわかっているが、以上の理由から出来れば全員に協力して欲しい」
そう言って少し頭を下げると、錆兎はまたくいっと面をかぶって、皆を待った。
「…ごめんね。そうだよね、助けてくれたのに…」
といきなり3人いる女子達が皆なんだか元気になって立ち上がる。
そして
「あんた達もちゃっちゃと立つっ!
錆兎さんの負担を少しでも減らす努力しなさいよっ!」
と言うあたりで、(あ…これは顔だ…)と、村田は心の中でつぶやいた。
強くてカッコいい。
そんな少年に言われれば、女子は動くんだろう。
その女子達に一部の男子達が
「お前らが動きたくねえって言ったんだろうがっ。
俺らはちゃんとついてく気だったからっ」
と、真菰をちらちら見ながら言うのに、(あ…これも顔だな)と村田はまたまた思う。
そうして男子と女子がそれぞれ一触即発な空気になりかけた時に、最後のきつねっこ義勇が
「え?なあに?話す前には面を上げた方がいいの?」
と、なんだかこの場にそぐわない頓珍漢な質問をなげかけて、錆兎が苦笑する。
「絶対じゃないけどな。真剣に人と向き合わないといけない時はきちんと目を見て話せと先生が言っていただろう?
顔を隠したままの人間だと、信用されない可能性もあるから」
「なるほど!さすが錆兎だっ!判断がすごい!!」
と、自分も一度は顔を覆っていた面を再度あげて、
「えっと…仲間同士で喧嘩はダメだと思う。
みんな仲良く頑張って歩こう?」
と、にこっと笑顔で言った。
なんというか…真菰は美少女で錆兎はイケメンで…二人とも本当に顔が良くて異性に好意を持たれそうではあるのだが、義勇はとにかく愛らしくて、性別を超えて、『願いを聞いてやりたい』と思わせる末っ子的な何かがある。
実際、つかみかかりかけた手を双方引っ込めて
「そうだよな。とにかく頑張ろうっ」
「義勇ちゃんの言う通りよっ」
となんだか少年達も少女達も大人しく歩く気になったようだ。
そんなタイミングで、錆兎がキッと前方を見る。
そして
「襲われてる奴がいるっ!
俺は先に行くから、皆、真菰達と来てくれっ!!」
と返事も聞かずに駆け出して行った。
え?とそれに村田を含めた皆が不思議そうな顔をする。
しかし真菰と義勇はわかっているらしい。
「えっと…錆兎はすごく広い範囲の気配を感じる事ができる子なの。
あたし達の師範の鱗滝さんは匂いで他にはわからないことを知る事ができるしね。
それもあるから普通じゃない強さなんだと思う」
真菰はそう説明すると、また面をつけ直して、
「錆兎とあまり離れると危険だから、みんな急ごうね」
と、全員を促した。
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