諦めが悪い2人の人生やり直しバトル_5_伝説の第一歩

ひぃぃぃ~~!!!!

鳥居をくぐって皆隠れる場所を探してバラバラの方向へ散っていく。
候補者の一人である村田もどこかないかとそろりそろりと足音を忍ばせて草むらに隠れながら進んだわけだが、そこで前方の草むらがガサリと動いた。

誰かと鉢合わせたか?と思ったのはある意味正しい。
ただし…それは候補者の少年少女ではなく、大きな口に笑みの形を作った異形の者…とだったわけだが……

『いいか、大志。
鬼に出会っても慌てて大声をあげるなよ?
黙って逃げろ。
でないと他の鬼も集まってきて詰むからな?』

…と、選別を超えた兄弟子に教わった生存戦略など、実際に鬼を目の前にしたら全てふっとんだ。

ぎらり…と蛇のように縦長の瞳孔の鬼の目と目が合った瞬間、村田は悲鳴をあげて隠れていた草むらから飛び出して土が踏み固められた道端に出る。

すると最初に出くわした鬼が追ってくるだけではなく、どうやら村田の悲鳴を聞いて獲物がそこにいると認識した鬼が二体ほどものすごい速さで駆け寄って来て、村田の周りを囲んで退路を断った。

ああ、もうだめだ、俺の人生もう終わった…
と、7日どころか開始早々の危機に村田が絶望してただ震えていると、暗い山を明々と照らす月灯りを反射して光る刀が宙に浮かび上がる。

──肆ノ型…打ち潮
と言う声と共に、暗い山奥だというのに色鮮やかな夏の海で岩を叩きつける力強い波のような何かが広がって、3体の鬼の首を一度に跳ね飛ばした。

ぽ~んと夜空を舞ってやがて地面に転がる鬼の首。
鬼を狩れることすら驚きなのに、3体も一度に斬れるものなのか…
それもこんなに見事な剣技で簡単に?

すごい…師範ですらここまで見事ではなかったと、こんな時なのに村田は自身の危機を救ってくれた少年のキツネの剣技のすごさに驚いて固まってしまった。

首を跳ね飛ばされた鬼がさらさらと砂となって地面に消えるのを見届けた少年はくいっと面を少し上にずらして
──大丈夫か?怪我はないな?
と村田を気遣う。

夜の闇に浮かぶ宍色の髪も大概目立つが、その瞳は鬼を滅する存在に相応しい、鬼が苦手とする藤の花の色。

そんな風に色合いは優しいのに、顔立ちはきりりと凛々しく、片頬に大きな傷跡があるのにそれを含めて整っていてカッコいい。

え?なに?なんなの?
こんなに強いのに顔まで良いの?!
神様って二物与えないんじゃなかったの?
と、まるで物語のような展開に唖然としてしまう。

しかしすぐ近くで上がる悲鳴に、彼はまたくいっと面を下ろすと
「真菰、ここを頼む!すぐそこだから追って来てくれ」
と、これも暗い中でも目立つ白い羽織を翻して駆け出していく。

「了解っ、錆兎!あたしは彼が立ちあがったらすぐ追うから義勇は一緒に連れて行って」
と、花柄の少女キツネが実に可愛らしい声でそう言うと、最後の一人、おそらく義勇と言う名の少年がうんうんと頷いて、最初の少年、錆兎を追って走って行った。

その二人の後姿を見送ると、真菰と言われた少女がこちらも面をずらして笑顔を見せる。

うん…可愛い。
すごく可愛い。
もしかして…残った義勇も顔が良いのか?
鱗滝左近次元水柱は顔で弟子を選んでいるのか?

などとのんきに感心している村田に真菰が言う。

「時間がないから詳しい事はあとでね。
とりあえずあたし達はこの山の鬼を全部倒して、今回の候補者を全員救うことを目指してるから、君がその第一号っ!
ということで、ちゃんとついてきてね、村田君っ」
と、その言葉と共に差し伸べられた手を取ると、助け起こしてくれる。

しかしそこで村田はふと不思議に思う。

「あれ?俺、名前言ったっけ?」
たった今初めて言葉を交わした気が…と思って聞くと、彼女はにこりと
「う~ん。心の声…かな?」
と可愛らしい声で言った。

…心の声…?
と一瞬不思議に思うも、

「ほら、早く早く!錆兎達とはぐれたら大変っ!」
と急かされて、確かにあの強い少年錆兎とはぐれることに比べたら大したことではない気がしたので、村田は慌てて手を引っ張る真菰について走り出した。








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